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再確認する感情
合宿も終わり、日南は白石に余所余所しいまま時間は経過して行った。
そして時は10月。四天宝寺中学恒例の学校祭"木下藤吉郎祭"の準備を行っていた。
四天宝寺は大坂の学校。そしてその大坂を統治していたのは戦国武将・豊臣 秀吉。彼の昔の名が木下 藤吉郎だったからその名にあやかっているらしい。
最初は「豊臣祭じゃアカンかったのかなぁ……」なんて白石も思っていたけど。
木下藤吉郎祭ではクラスごとのみならず、部活ごとにも出し物があるから大忙しだ。

「堪忍な、遅くなった!」
「おー、謙也。放送委員の打ち合わせお疲れさん!」
「あれ、日南ちゃんは?一緒の委員会やったよね?」

遅れてテニス部の部室に入ってきた謙也にみんな挨拶を交わすけど、彼の幼馴染で唯一の女子マネージャーである日南の姿が見えなくて小春は首を傾げる。
すると謙也は自分のロッカーに荷物を押し込みながらユニフォームに着替え始める。

「ああ。日南ちゃん文化系の部活、演劇入っとるやろ?せやから今日はそっち行く言うとったわ。演劇部の方も衣装合わせあるみたいやし」
「そういや日南、今回の演劇で主役やる言うとったもんなぁ。何の話やっけ?」

小石川が出し物に使う小道具を作りながら尋ねると、一緒に作業をしていた銀が答える。

「確か"眠れる森の美女"やったやろうか」
「へー。何の役なんやろうな」
「主役言うたら姫しかおらんやろ!日南ちゃんのお姫様姿きっと可愛いと思うで」

僅かに頬を上気させた謙也は鼻歌なんて歌いながら小道具つくりに参加する。
しかし、部室のドアが開いたと思いきや「ちゃいますよ」なんて少しげんなりした声が聞こえてくる。

「おお、財前。おはようさん」
「おはようございます。……あー、しんど」
「なんやなんや、学校祭の出し物の道具作りする前からそないに枯れて」
「……そのテニス部の出しモンが嫌やから始まる前から枯れてるんすけど……」

白石の言葉に本当にげんなりしながら財前もユニフォームに着替え始めようとする。

「財前、日南はんが姫役やない言うのはどういう事なんやろうか」
「日南が演じるのは王子役です。本人がテンションダダ下げしながら言うとったんで確かな話ですわ」
「あらん、日南ちゃんが王子様役だなんて。大丈夫やろか……」
「因みに姫役は男の先輩らしいっスよ」

もそもそと着替えをしている財前に、部室の端っこでずっと(家庭科室から借りてきた)ミシンを使っていた一氏が「財前ー、衣装合わせするからユニフォーム着んと、こっち来いや」と呼びつける。
盛大に、重苦しい溜息を吐いて、足を引き攣りながらユウジのところに向かうと黒と白の衣装を手渡される。流石デザイナーの息子で、自身も小道具(主にお笑いのだけど)を作っているだけある。クオリティはそこらの業者のものよりずっと高い。
しかし、問題なのはその衣装だ。衣装を広げた途端、真顔で「うわぁ……」と声を零していた。
財前の手には黒と白のメイド服。
テニス部の出し物は"女装喫茶"と言う事で先々週出し物が決まったばかりだった。
その時に改めて財前は思っていた。「やっぱり入る部活……いや学校間違えたかな」と。

「おま、うわぁって何やねん!」
「いや、やっぱり思ってたんすけど女装喫茶なんですか」
「何でって……、女装は鉄板のお笑いネタやんか。なぁ、白石?」
「せやで、財前。テニス部かて四天宝寺の部活の一つや。それがどういう事か、解かるな?」
「……はぁ」

溜息交じりに返すけど白石も一氏も、他のメンバーも女装喫茶にノリノリだ。

「お笑いも何でも勝ったモン勝ちや!!」

白石の声に皆「おー!!」と拳を突き出して声を上げる。
もうやだ、この部活。そう思っていたところに急に部室のドアが開く。

「ごめんなさい、演劇部の衣装合わせ行ってたから遅くなっちゃた」
「おお、日南!早かったなぁ」

ドアの方を見れば青い王子様衣装に身を包んで、羽根付きの帽子を被った日南の姿。

「……似合っとるなぁ……」
「えへへ、ありがとう健ちゃん。健ちゃんの衣装どんなの?」
「俺はこれや!」
「……ああ、うん。凄く可愛いパステルピンクのワンピースだね」
「ドン引きしてるやん……」

そんな話もそこそこにレギュラー全員分の衣装が出来上がり、皆その場で着替え始める。
猛烈に嫌がっていた財前もみんなに乗せられる内に衣装に袖を通していた。今は後悔しながらも開き直って大股開きで椅子に腰を下ろしているけど。

「……スカートって足、スースーするんやな」
「だからって光、大股開いて座るの止めなよ。私光のパンツに興味ないよ。……いたい!」
「アホか」

額の少し上をチョップされて、された箇所がじりじりと熱を発する。
そんなやり取りをしていたら「せや」と一氏が声を上げた。

「日南、折角演劇部の王子様衣装着てんねんやから白石と並んだり。あいつ白雪姫の衣装着とるし」
「!!」
「私と、蔵ノ介さんが?」

白石の顔をみると白石は僅かに顔を赤くしていた。
元々綺麗な顔立ちをしている所為か、ドレスが様になっていて女としてちょっと悔しい。そんな事を口にしても白石が困るだろうけど。
ちょっと悩みながらもう一度白石の方を見ると視線が交わる。そして柔和な笑みを浮かべられて今度は日南が顔を真っ赤にして俯いた。
すると背後から小春が日南の両肩にポンと手を置く。小春はいつもの自前のアフロのウィッ具に猫耳とゴスロリを合わせた格好だった。

「折角綺麗なお姫様と可愛ええ王子様が並ぶんやから写真も撮らな」
「!! 写真。……小春ちゃん、ちょっと」
「ん?どないしたん、日南ちゃん」

小春の服の袖を引っ張り、耳元に唇を添える。そして他の誰にも聞こえないような小さな声で囁いた。

「その写真、私にも貰えるなら……」
「!! 勿論、ええに決まっとるやんか」
「ありがと、小春ちゃん!」

そのまま小春に軽いハグをすると一氏がいつもの様に「ゴラァ、チビ日南!何、小春に抱きついとるんや!死なすど!!」なんて騒いでいる。別に気にしてはいないけどすぐに小春から離れて白石の隣に並んだ。
ほのかに甘い、女の子の香りがして驚いたけど驚くくらいに違和感が無い事に逆に驚いてしまった。

「何や日南、格好ええなぁ。ホンマの王子様みたいや」
「ありがと。蔵ノ介さんも、褒められるのは複雑な心境かもだけど似合ってると思う」
「おおきに。何でやろなぁ、日南に褒められると複雑な心境どころか嬉しくなるわ」

その一言にどきりとする。「俺、コスプレは苦手なんやけど」なんてはにかんでいる姿すら日南の目には格好良く見えて、どぎまきして仕方が無い。
この数週間ずっと白石の事で悩んでいた。少し距離を置いてみたら白石に対しての見方が変わるかもしれないと思ったけど、やっぱり好きだという感情ばかりが大きくなっていく。
意気地が無いから告白までは出来ないかもしれないけど、この学校祭で少しだけでもまた距離を近づけられたら良いな、なんて身勝手極まりない考えが頭の中に浮かんでくる。

「なぁ、日南」
「なに?」
「演劇部、頑張ってな。日南の格好ええ王子様めっちゃ楽しみや。応援しとる」
「!! ありがとう。劇を見に着てくれるみんなに楽しんでもらえるように頑張るね!あ、でもでも、テニス部の方も頑張るから安心して、蔵ノ介さん」
「はは、それは心強いなぁ。でも、日南はがんばり屋さんやから、無茶だけはせんといてな」

そんな会話をしているだけでも日南にとっては嬉しい事で。
ふやけた顔をしていると「ほな、撮るで〜」とカメラを構えた小春が声を掛けて来る。いつまでもふやけている顔をして写真を撮られるのは嫌だからすぐに表情をきりっとさせるけど。
カメラのフラッシュが焚かれるその瞬間に、日南の手が何かに包まれた。でも、それが何かを確認しようとする事が出来ずに、写真撮影は終了してしまった。
その途端、手を包んでいたそれはするりと何処かに行ってしまって体温より低い空気が肌に触れる。
確認しなくても解かっていた。途端に顔に熱が集まって、心臓がどくどくと鼓動を刻む。

「(今、蔵ノ介さん手繋いでくれた……!!)」

前は普通に手を繋いでいたのに、意識してしまってからは手と手が触れ合うだけでも緊張して仕方がなかったのに。
やっぱり、この人が好きだ。そう思うと視界がキラキラして眩しいのに、胸が段々苦しくなっていく。

「日南?どないしたん、そないな顔して。もしかしたら具合悪いんか?」
「!! ううん、なんでもない。ちょっと考え事。蔵ノ介さん」
「ん?」
「学校祭、頑張ろうね!」

満面の笑みを浮かべてそう呼びかけると白石も笑みを浮かべて「おん!」と元気良く返事を返してくれた。
そして何かを思いついたのか腰を屈めて日南にそっと耳打ちをする。
耳障りがいい優しく、綺麗な声で綴られた言葉に心臓が早鐘を打った。

「……考えといてな」

はにかみながら言われた言葉に日南はただ頷くしかなかった。


2017/01/28