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交錯する想い
練習を終えて別荘の中に入ればとてもいい匂いがして。
シャワーを浴びて、着替えて、食堂に行けば日南がレギュラー全員分の夕飯を用意してくれていた。
途中いなくなったと思っていた渡邊もしっかりと日南の手伝いをさせられていたのか、まだ何も置かれていないテーブルに突っ伏している。
夕飯はカレーと温野菜のサラダで。今日の練習の総括や他愛ない日常生活の話で盛り上がっていた。
ただ、少し離れた所に座っている1年生コンビは輪の中に入ってこないで、別の話で小さく盛り上がりを見せていた。
日南はいつも通りだけど、こころなしか財前の表情が生き生きしている様に見える。
多分好きだと言っていたイギリスで活躍しているインディーズバンドの話でもしているのだろう。何だかんだ、日南もよくイギリスに行った事があると言っていたから詳しいみたいだし。
今まで日南とテニス以外の他愛ない話もしていたけど、ああやって盛り上がった事は無かったなと思い返したら寂しくなった。

「何や白石、全く減ってへんやんか。折角日南ちゃんが作ってくれたカレーなんに」
「! あ、いや。堪忍な、少しぼんやりしとったわ」

隣に座る謙也にせっつかれながらカレーを口に運ぶ。
やっぱり家庭によって作り方が違うんだろうか。いつも家でお母さんが作ってくれるカレーと違う。
スパイスが効いているんだけどほんのりと優しい甘さがする。多分玉ねぎを飴色になるまで炒めて作ったのだろう。玉ねぎはそうした方が甘みが増すとTVで言っていた。
隣の謙也を見れば幸せそうにカレーを頬ばっている。謙也はこれを高頻度で食べているみたいだから少し羨ましく感じた。


「あれ?なぁ、財前と日南は?」

夕飯も終わって広間で全員で国外選手の試合のDVDを見ていたら、いつの間にか日南と財前がいない事に気が付いた。
他のメンバーも白石が声を掛けた事で1年生コンビが居なくなったの気付いたみたいでキョロキョロ辺りを見渡す。

「1年コンビは眠いから寝たんとちゃうか?ふわぁぁぁ……なんや、俺も眠たくなってきたからそろそろ寝るわ」

大きな欠伸をしながら原は1回伸びてソファから立ち上がるとフラフラと部屋に戻って行く。
現レギュラー唯一の3年生である原がもう寝ると言っているのだ。残りの2年生達も「俺らも寝よか」なんて慌しく寝る準備に移行する。
でも、誰もDVDの片付けをしようとしないから仕方なしに白石が残って片付けをする事にした。
皆より少し遅くなってしもたわ、なんてて思いながら廊下を歩いていたら「日南」と、マネージャーを呼ぶ声が聞こえる。
財前だ。思わず、音を立てずに壁際に寄って聞き見を立てる。
盗み聞きなんて最悪な行為だけど財前が日南をどう思っているか気になって仕方が無い。

「光、どうしたの?さっきから怖い顔して」
「いや……自分少し無防備過ぎやと思って」
「無防備?」
「せや。白石部長に対して無防備過ぎ」
「そうかな?皆と同じ様に接してると思うけど」

皆と同じ。その言葉を聞いて嬉しい様な、悲しい様な複雑な気持ちになる。日南らしいと言えばらしいのだけど、男として見てもらえていないみたいで。
まだ中学1年生でそこら辺の恋愛感情は芽生えていないのかもしれないけど。
すると財前が溜息を吐く音がする。

「せやな。日南は誰にでも平等や。愚問やったわ」
「どうしたの、光まで。もしかしたら光も私に"日南は部長の事好きなんか?"って聞くつもりだったの?」
「俺のモノマネ似てへんわ。ちゅーか誰かに聞かれ済みなん?」
「うん。全国大会中に蔵ノ介君に」
「は」

日南が自分の名前を出した所為で変に心臓がざわつく。
でも、日南も財前も白石が遣り取りを聞いている事は知らないし、この場にいる事すら知らないだろう。
バレない様に呼吸の回数を減らしながら、心臓の鼓動を落ち着かせる。

「私と光が仲良いからって。友達と仲良くするのは当たり前じゃないの?って返したけど、どうしたんだろ」
「……」
「光?」
「いや、何でもあらへん。もう夜も遅いし寝よか。……部屋まで送る」

財前が日南にそう言ったのを聞いて音を出ずにその場から去る。
さっきの財前の沈黙におおよそ察してしまった。
財前はやっぱり日南が好きなんだと。


===============


日南を部屋に押し込めて来た財前はふかふかのベッドの上に寝転ぶと深い溜息を吐く。
日南は無自覚で、それでもって他人からの好意に気付いていない。勿論自分が彼女に向けている好意にも。
好意には気付いているけど友達や仲間だから、と言う風に捉えていると言った方が正しいかもしれない。

「手っ取り早く告白した方が良かったんかな」

でも、怖い。日南が拒絶して、今の関係が壊れてしまう事が。
日南とはあと2年四天宝寺で同じ時を過ごさないといけないのに、関係が崩れてギクシャクするのは嫌だ。日南とは仲良くしていたい。
それに何となく気付いてしまった。白石が日南に対して優しい理由は日南の事が好きだから、と。
学校内で見る白石は割りと女子に遠慮している感じはするけど一人で重い教材やダンボールを持っていたら率先して運ぶのを手伝うし、怪我をしていたらすぐに気付いて保健室へ連れて行く。
だから日南に対しても優しいのは当たり前だとずっと思っていた。
財前 光が知る白石 蔵ノ介と言う人間はそういう人間なんだ、とずっと思っていたから。
でも、そんな白石でも嫉妬の一つもするんだという事を知った。そうじゃなきゃ日南に自分との仲の話をするとは思えない。

「……日南もきっと部長の事、好きなんやろうな」

白石は優しくて、良く気がついて、自分に厳しくて、頭も良くて、顔も良くて。
四天宝寺の大抵の女の子が彼の事を好いている。クラスでもよく白石の話題は上がるし、兼部している軽音楽部でも、所属している図書委員でも時間があれば女子が白石の事を話題にしていた。
財前にとって白石は特別な存在だし、白石の話題が上がる度に心の中で密かに自慢していたけど、その半面どこかで白石に嫉妬している自分も居た。
日南が、遅くまで練習している白石に付き添っているという事は財前も知っている。
日南の性格上、誰が遅くまで残っていても心配して一緒に付き添ってくれるのだろうけど、多分白石の練習については日南が自分から「付き添う」と言っているんじゃないかと邪推してしまう。

「何か阿呆くさくなってきた……。最初から俺に勝ち目なんてあらへんやん」

枕に顔を埋める。
もう考えるのは止めだ。寝てしまおう。寝てしまえば嫌な事は忘れられる。
そしてまた明日から日南や白石、謙也達と一緒にテニスをするんだ。
財前はそう思いながらゆっくり目蓋を閉じた。


一方で日南も自室のベッドに寝そべりながら財前の言葉と白石の言葉に悩んでいた。
確かに仲が良いからと言っても財前とも白石とも距離が近いかもしれない。2人共、今年中学校に入学して知り合ったばかりの人なのに。
どちらかと仲良くすればどちらかが嫌な思いをしてしまうのは嫌だ。
生憎日南は財前とも白石とも仲良いままでいたいし、ぎくしゃくした関係は嫌だ。

「どうしたら良いかなぁ……」

無い頭でぼんやりと考えてみる。
そろそろ時間も時間だから眠くて仕方ない。
早くどうにかしたいけど、微睡み始めた頭じゃ何も考えられない。
今日はとりあえず、もう眠ろう。そう思いながら日南は静かに眠りについた。


2016/08/09