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突如の夏合宿
全国大会から1週間が経ったとある日の事。
夏休みの部活中に突如、レギュラーとマネージャーのみ集合が掛けられたと思いきや渡邊は帽子に手を当て、突拍子もなく告げる。

「1週間後に5日間程度のレギュラー合宿やるでぇ」
「は?!1週間後?」
「オサムちゃん急過ぎへん?」
「あっはっはっはぁ。青少年達ぃ、世の中臨機応変に対応出来んと上手く生きていけへんでぇ」
「話のスケールがでかいわ!」

レギュラーがざわつく中、小石川が話の大きさに対して突っ込むけど渡邊は愉快に笑い飛ばすだけでこちらの都合は特に考えていないみたいだ。
でも、全国大会ベスト4で敗退した今、何故ベスト4で止まってしまったのかを見返すにはいい機会だと白石は思っていた。
それに来年の全国大会に向けての対策もある程度組めるだろう。四天宝寺にはIQ200の天才プレイヤーと万能……とまでは行かないけど選手第一に行動してくれるマネージャーが存在するし、彼らから助言を貰えたらそれは大きな力になるだろう。

予め渡邊が作っていたであろう合宿のしおりを、部活が終わったばかりの部室で見ていた。
合宿は大阪府内ではなく、バスに乗って滋賀県迄行くみたいだ。
そこで日南がはたとした表情を浮かべる。

「あれ、この住所」
「どないしたんや日南」
「うん。この住所、うちの別荘だ」
「日南はんの家の?」

石田が聞き返すと日南はうん、ともう一度頷いた。
レギュラー全員は日南が風鳥家のお嬢様だという事は知っている。でも、だからといって騒ぎ立てる事もなく、ずっとただの風鳥 日南として接してきた。
だから日南の家の別荘と言われても特に驚く事は無かった。

「確かにうちの別荘にテニスコートもあるけど……、オサムちゃん先生はどうやって」
「ええやん別に。オサムちゃんかて何か考えて日南の親父さんに別荘貸して欲しい言うたんやろ」

原がそう言うと日南は腑に落ちなさそうに「んー」と唸ってしおりにもう一度目を落とした。

「せやけど楽しみやわぁ!日南ちゃんの家の別荘もやけどみんなで合宿なんて、お風呂場であんなハプニングやこんなハプニングがあるかも!」
「浮気か!」

うきうき気分の小春に一氏がツッコミを入れるのをみんな笑ってみている。
立海との試合でもダブルスを組んでいたけど、二人の呼吸が僅かにずれていたから渡邊が課題として二人一緒に行動する"一心同体少女隊修行"を勧めて、今に至る。
今までも二人は仲が良かったけど何だか一氏の纏う雰囲気が少し変わった様に思えるのは気のせいだろうかと白石は考えていた。
まるで一氏が小春に恋をしているかのような、そんな感じだ。
その隣で石田がそわそわしながら日南に声を掛ける。

「日南はん、別荘の近くには滝はあるやろうか?」
「滝?ううん……山に囲まれてるし、川もあるし……多分あると思います。滝行でもするんですか?」
「うむ」
「滝行って修行しに行くんやないで……」

謙也が呆れながら突っ込むと「うむ」と石田は悩んでしまった。
別に練習に支障が出なければ滝行をしてもいいんじゃないかな、なんて石田に声を掛けるとにわかに石田の表情が柔らかくなる。日南も何だか楽しそうだ。

「なんや、俺も合宿楽しみになってきたわ」
「部長までやる気になっとる。日南ー、別荘の近くにコンビニとかってあるん?」
「5分くらい歩いたとこにコンビニあるよ……って、痛い痛い痛い!頭に顎を乗せないでよ、光ー」

背後から日南に近付いて少しばかり身長が低い日南の頭に顎を乗せる財前に胸がジリジリ痛む。
日南は財前の事は友達だと思っているみたいだけど、財前は日南をどう思っているんだろうか。
途端に財前と視線が交わって肩が跳ねる。
財前は白石に対して不敵な笑みを浮かべて、すぐに視線を逸らす。
普段から余り他人に取っつかない上に、天才肌な所為か高慢ちきな部分がある財前の扱いを普段からどうしようかと悩んでいたけど、恋愛的な面でもどうしようか悩むだなんて。しかも強力なライバル的存在だ。
日南と一番時間を共有出来るし、距離も近い。それに自分に比べて日南に対して積極的だ。
今も帰りに日南に本屋に行くのを付き合って欲しいなんて頼んでる。

「……何やおもんないわ」

ユニフォームの左胸にに黒い糸で刺繍されている校章をギュッと、ぐしゃぐしゃにつぶす様に握りしめた。


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合宿当日。
日南のお父さんが別荘を貸してくれたついでにバスまで用意してくれていて、そのバスに乗って大阪を出発した。
長時間移動になるから休憩時間を挟んで、弁当を食べて。別荘につくまでイメージトレーニングをしたり、トランプで遊んだりもして。
別荘に着いた頃には昼は回っていた。
荷物を部屋に置いた面々は早速ラケットを片手にコートに飛び出る。
日南は1人レギュラー達のために夕飯の準備をしたり、仕込みが終わったらタオルやドリンクの準備にすぐに入る。

「日南はん、少し足元ふらついてへんやろうか」

コートの中から日南の存在に気付いた石田が心配そうな声でそう言うと他のメンバーもすぐに日南の方を見る。
日南の細い腕には3段積みのダンボール。頭よりも高く積まれているせいで視界が遮断されているのか少しヨタついてる。
白石も勿論それを見ていて、すぐに手にしていたラケットを隣にいた小石川に押し付けてコートの外に出る。

「あっ、白石!」
「行ってしもた……」
「まぁ、あんだけダンボール積んでフラフラされたら助けに行くやろうからな、白石の場合」

腕を組んでケラケラ笑う原はどこか優し気な目で日南からダンボール2箱を奪って別荘の中に消えて行った。
そんな姿を見ていた小春は「そろそろかしらねぇ」なんて。
一方の財前はつまらなさそうに白石と日南の背を一瞥してから見送った。

「全く、前も言うたやろ。重たいもんは無理して持たんでええねんって」
「ごめん。合宿だからつい張り切っちゃって……」
「ホンマ心配させんでや?」
「はぁーい。ごめんなさい」
「ん」

ダンボールを壁際に置くと白石はじっと日南の顔を見つめる。
でも、すぐに視線を逸らして、日南に背中を向けた。

「力仕事必要なら俺か銀に言ってや。手伝うさかい」
「うん。ありがとう」

多分日南はいつもの柔らかな笑みを浮かべているんだろう。そう思うと自然に口元が緩くなる。
たったそれだけの事なのに足取りが軽くなる。この後の練習も頑張れそうだ。
頬を上気させて、目を細めながら白石はコートに戻っていった。


2016/07/20