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終わる夏に想う事
※原、毛利の過去捏造


全国大会は立海大附属と兵庫・牧ノ藤の試合の後、立海大附属の優勝で幕を閉じた。
全国大会が終わるとすぐに四天宝寺の面々は新幹線に乗って大阪へと帰る。その前に少しだけ自由時間を貰って各々家族や友人への土産を買いに行っていた。
その中で日南は売店近くの椅子に座って、一人ジュースを飲みながら休憩していた。
売店の中が見える場所にあるから皆からはぐれる事も無いし、今売店に行っても人がごった返しているから買い物するには効率が悪い。
それに、みんながワイワイ騒いでいるみんなを見てるのも好きだし。

「何や日南、買い物せぇへんくてもええんか」
「あ、ハラテツ先輩。わぁ、沢山買いましたね」
「まぁ、東京なんてなかなか来ぃへんしな。菓子もやけど色々記念に買ってしもたわ。姉ちゃんにも色々せがまれとったし」

そう言いながら「どっこいしょ」と日南の隣に座る。紙袋は少し雑に床に置かれていた。
ふと見た原の横顔が何だか少し疲れている様に見えるのは気のせいだろうか。
不躾だけどじっと顔を見ていたら途端に名前を呼ばれる。

「日南」
「はい」
「白石にも後で言うけど、自分にも言うわ。……来年は全国優勝、頼んだで。あいつらがもっと強なれる環境を整えて、バックアップしてやってや」
「……はい」

強く、深く頷くと原はフッと笑みを浮かべて、でもすぐに悲しそうに顔を俯かせた。
何だか今にも泣き出してしまいそうな、そんな顔だ。
一番悔しい思いをしているのは、きっと原だ。中学生活最後の夏、大きな大会で優勝の夢を逃してしまったから。
しかも、準決勝前夜の渡邊の口振りからしたら原と、四天宝寺の息の根を止めた毛利 寿三郎とは何か因縁があるみたいだし。
四天宝寺に戻ったらその因縁について何か記録は残ってるかな、なんて考えていると肩に原の頭がもたれ掛かる。

「……アカンな」
「えっ、何がですか?」
「ホンマ阿呆や。後輩の手前先輩らしくカッコつけた事言ったのに、ホンマはめっちゃ悔しい」
「……試合の事、ですか」

言葉にするのは残酷だと、そう思ってる。でも、言葉にしないといけない気がしたから敢えて言葉にした。
いつもやる事成す事豪快な原が控え目に「おん」と頷く。

「実は毛利はな、一昨年四天宝寺におったんや」
「あの毛利さんが?」
「せや。毛利がまだ四天宝寺におった頃にシングルスで試合してんねん。そん時は毛利の方が圧倒的に強ぅて負けてしもたんやけどな」

確かに謙也との試合を見ていて毛利はバランスが取れて、尚且つまだ何かをひた隠しにしている様に思えた。
それでも、日南からしてみたら原だって強いし、本気を出す事は少ないから能力は未知数だ。

「再戦挑も思たらアイツ、練習嫌や言うて部活には中々来ぃへんし、部活来た思たら親父さんの仕事の都合で転勤する言うて結局試合出来へんくてな。負けをつっ返す事が未だに出来てへん」
「じゃあ、今年の全国準決勝が再び巡ってきたチャンスって事……」
「せや」

あっさりと返す原に日南の体は急に沸騰したかのように熱を帯びた。
何で、何でそんなにずっと再戦したいと望んでいたのに謙也に試合を譲ったのか。幾ら謙也の事を信頼しているからって、それじゃあ原が報われない。
しかし、原に対して口に出来る言葉は何一つ浮かんでこなかった。浮かんでくるとしたらただ一つ、白石に対して言い放ったあの言葉だけ。
「四天宝寺が勝てるオーダーか勝てへんオーダーかそれだけのこっちゃ」。
そしてもう一つ、四天宝寺中男子テニス部のモットーである「勝ったモン勝ち」。
原はどんな試合もただ勝てばいい。結果を残せとと言いたかったのかもしれない。
事実勝たねば結果は残らないし、次に進む事も出来ない。負ければそこで終りなのがスポーツの大会だ。
だから自分の感情を無視してでも、後輩でありまだ来年がある謙也にシングルス3を譲ったんだと日南はそう解釈した。
でも、日南は腑に落ちなかった。

「ハラテツ先輩が皆に伝えたかった言葉の意味はよく分かりました。でも、ハラテツ先輩はそれで良かったの?」
「えぇ。ぶっちゃけた話、毛利が高校入ってもテニス続けとったら再戦のチャンスはまだあるし、後輩育てんのも先輩の仕事っちゅー話や。……自分にはまだわからん話かも知れんけどなぁ」

そう言いながら無理矢理笑顔を作った原はぐしゃりと日南の髪を撫でる。

「日南、お前は頭が良い子やから解っとる思うけどこの話は内緒にしたってな」
「何で?」
「……アイツらに変な心配掛けたないねん。ワテの事より自分達の、ひいては今から来年のことを見据えて貰わな」
「……解りました」
「うし、いい子やなぁ」

わしわしと頭を撫でられた時にはなにか吹っ切れたのか、原はいつもの人懐っこい笑みを浮かべていて思わず日南も同じ様に笑を浮かべる。
普段は髪がぐちゃぐちゃに乱れるから嫌だけど、でも、暫くしたら原は引退してこういう風に撫でてもらう機会はなくなってしまう。そう思うと酷く寂しい。
寂しさをひた隠しにしながら日南は原の手の感触に目を細めた。


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新幹線に乗ったばかりの時は騒がしかった四天宝寺の面々も、張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、疲れが溜まっていたのか静かに眠りに着いていた。
日南はそんな様子を少し微睡んだ目で見ていた。

「日南も眠たかったら寝てもええんやで?」
「ね、寝ない!家帰ったら寝る」

隣に座っていた白石が心配してそう言ってくれたけど日南は首を横に振って、寝ないように頑張る。
今ここで寝たら多分寝られなくなっちゃうし、家までの道で体がだるくなりそうなのもあるけど。中途半端に寝て、起きた後はいつも体がしんどいし。
それに、何でかはわからないけど白石に寝顔を見られたくない。
余程気難しい顔だったのか白石は「そない怒らんでもええやん」なんてはにかみ笑いを浮かべる。でもそれは一瞬の内に掻き消えて心配そうな表情に変わる。

「……日南がそう言うならそれでええけど、無理したらアカンで?日南かて応援やら何やら頑張ってくれとったさかい、疲れ溜まっとるやろうし」
「ありがとう。でもでも、それは蔵ノ介君だって同じじゃないかな。試合、本当にお疲れ様!」
「おおきにな」

パッと笑顔を浮かべた白石を見ていたら日南も嬉しくなって笑顔を浮べるけど、安心してしまったのか急に大きな欠伸が一つ溢れ出る。
慌てて口を抑えて欠伸をしてから白石の方を見ると、彼は日南の反応が面白かったのかくすくす笑っていた。
みっともない姿を見られた。そう思うと途端に恥ずかしくなって顔が熱くなっていく。
でも恥ずかしさで体温が上がった所為か、欠伸をしてリラックス状態になった所為で睡魔が襲ってきたのか段々体が重くなって、意識が微睡んでいく。
あぁ、もうダメ。そう思った時には目蓋を閉じて眠りについていた。

「何や、やっぱ眠たかったんやん」

右肩に寄りかかって穏やかに寝息を零し始めた日南に思わず頬が緩む。
そう言えば日南の寝顔なんて初めて見た。
よく謙也が「日南の部屋行ったらまだ寝てたから写メ撮ってしもた!」なんて言っているのを聞いていて、羨ましく思っていたけど謙也が写メを撮りたがる気持ちもよくわかる。
うりうりと頬をつついたら思いの外柔らかくて驚いてしまったけど。よく妹の友香里がリビングのソファで爆睡してる時も同じ様につつくけど、弾力や柔らかさが全然違う。

「(うわ……やわっこい)」

何度もつついても「んん……」とは唸るけど爆睡してしまってるから起きる事は無い。
でも流石につつき過ぎたら日南も起きるだろうから程々にして、寝顔を観察する。
やっぱりまだ中学一年生だからあどけない。でも、薄く開かれた唇が僅かながらに色っぽく感じた。
今なら、キスをしても誰にも気付かれないだろうか。心臓が高鳴ると共にそんな邪な感情すら湧いてくる。
本当は日南に面と向かって「好きや」って伝えて、それからしたい気もあるけど。
逸る感情をぐっと堪えて、とりあえず携帯電話を開くと日南の寝顔だけ写真に収めた。このくらいの事は、出来れば許して欲しい。自分でもやましい事をしてるとは重々解かっているから。

「白石ー、日南ちゃーん。起きて……何してん?」

背後から急に掛けられた声に驚いて振り返ると、謙也が「何してんねん」と首を傾げている。
驚き過ぎて心臓の鼓動が収まる気配がない。

「何や?」

平静を装いながら笑を浮かべると、謙也もすぐにいつもの表情に戻って赤い箱を白石の顔目前に突き出す。
それは白石もよく食べるお菓子の箱で。でも東京限定と書いてある。
でもこのお菓子がどうしたんだろう?と思いながら謙也を見つめる。

「これ美味いから白石と日南ちゃんにもって思ったんやけど、日南ちゃん寝てしもたんやなぁ」

「珍しいわ」と言った謙也に今度は白石が首を傾げる。

「日南ちゃん、他人の前であんまり寝たがらへんのや。せやけど白石の事信頼してるみたいやなぁ、気持ちよさそうに寝とるわ」
「なして他人の前で寝たがらないんや?」
「理由はようわからへんけど嫌みたいやで」
「……謙也」
「ん?」
「俺はアカン奴や」
「はぁ?いきなり何やねん」

こんな顔、謙也には見せられないから左手で顔を覆ってみる。
さっき一瞬でも日南にキスしようだなんて思った自分に一発くれてやりたい気分だ。
謙也は白石が何を考えているか全く想像つかないのかもう一度首を傾げるととりあえず白石に菓子の箱だけ手渡した。


2016/07/16