×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

全国大会に向けて
「反省文、面倒臭い」
「頑張りや、それでも少ない方なんやで?おお?」

放課後。皆が部活に勤しんでいる中、日南は渡邊とマンツーマンで部室の中に居た。
あの後白石に抱き上げられたまま職員室に向かった日南は、職員室に入った途端に学年主任の先生に謝罪された。
「渡邊先生から全部話聞かせてもろた!風鳥の話を信じんでホンマ悪かった!」と。
少し遅れて職員室に来た女子生徒2人と財前、謙也からも詳しい話をされて学年主任の先生は顔を真っ青にして更に謝ってきた。
窃盗容疑の冤罪は免れたのだけど、フェンスを凹ました事は別件だからその事ではガッツリ叱られ、25枚の反省文を書かされる羽目になっているのだけども。因みにあの先輩達は倍の50枚らしい。

「ほら、もうちょいで終わるから頑張りや。頑張ったらこけしやるで」
「いらへんわ、こけし。かさばんねん」
「おおう、いきなり関西弁で喋るん止めや。びっくりするわ」

その言葉に日南はえへへと笑いながらもペンをすらすら動かして書き進めていく。

「でも渡邊先生」
「ん?」
「最初部室で緊急ミーティングした時はあの先生に話聞いてもらえなかったって、そう言ってたよね?何でいきなり話聞いてもらえる事になったの?」
「……堪忍な」
「何で?」

急に謝罪の言葉を告げた渡邊はトレンチコートのポケットの中から小さいレコーダーを一つ取り出して机の上に置いた。

「これであの時のミーティングの内容を録音させてもろた。その上で昨日の夕方、お前のお父さんにも一回学校来てもろて学年主任のセンセと3人で内容聞いたんや。」
「え……お父さん、呼んだの?」

途端に日南の表情が絶望に染まっていく。
そんな事、昨日の夕飯の時何も言っていなかったのに。グッと胸が締め付けられる。
しかし渡邊は日南のその様子に気付きながらも話を続けた。

「ああ。幾らなんでもやり方が酷かったからな。日南がご両親に迷惑掛けたないのは重々解ってるつもりや。せやけどな?あのまま自分が何にも誰にも言わないで苦しんどったらご両親かて心配するし、辛い思いすると思うで」
「……」

今まで進んでいたペンが急に止まり、日南は戸惑っているかのような表情を見せる。
渡邊は知っている。日南の両親が本当の両親では無い事を。本当の両親ではないから、だからこそ不要な心配を掛けない様にしているという事を。
全て日南の本当の父親から聞かされた。日南の今の父親も昨日、別れ際に寂しそうな顔でそう零していた。
「本当は辛い事、悲しい事があったら相談して欲しいのに、あの子は迷惑を掛けんと一人で抱えてまう子ですから」と。
確かに、日南の父親の言う通りだ。もう少し日南が早く、生徒指導室に呼ばれるに相談してくれていたらもっと確証に近付いた証言を早めに提言出来ていたのだから。
そんな事を言ってももう済んでしまった事だから後の祭りなんだけども。

それに今回日南の父親に出て来てもらった事にはもう一つ理由がある。
日南の実家である風鳥は日南の入学に当たり幾らか支援金を寄付してくれているというのもあるからだ。
娘がイジメ紛いの行為を受けていると言うのにそのまま支援金を受け取ろうとしている学校側に問題がある、明るみに出たら大問題になるとそう踏んでいたから。
学年主任の教師にも校長を通してその話を振って、話の場を設けた。その時は学年主任の教師に「卑怯者」と揶揄されたけど、どちらが卑怯者だろう。
生徒を守るべき立場の人間が守るものを守らずに、甘い蜜だけ啜る方が卑怯だ。
そんな話は生徒である日南にするべきではないし、するつもりもないけど。
すると日南は真っ直ぐ前を向いて「渡邊先生」と声を掛ける。

「ん」
「ご迷惑お掛けしてごめんなさい」
「迷惑なんかやないで。何もお勉強教えるのだけが先生やあらへん、生徒守るのも先生の仕事や」
「……ありがとうございます」
「別に感謝されるほどの事でもないわ」

でも、日南の素直な言葉に渡邊は表情をほころばせて日南の頭をぐりぐりと撫で付けると日南は「あ」だの「うう」だの小さい声で唸る。
何となく一氏や金色達みんながみんな構いたがるのが解かる気がする。反応が面白い、というか弄り甲斐がある。
にっといつもの人懐っこい笑みを浮かべると「ほな、ラストスパートかけて反省文書いてまおうな」ともう一度日南の頭をぐりぐり撫でた。


反省文を書き終えた日南はようやく外に出られて、すぐにタオルやらなんやらを準備に取り掛かるけどタオルを入れている棚にタオルが収まっておらず、ジャグを置いてある場所にジャグの姿も無かった。
反省文を書いている最中は渡邊が部室に入らないようにと注意を呼びかけていたみたいだから誰も入って来ていない。
部室に来た時の様子は特に覚えていないけど、もしかしたら部室に付いた時点で誰かが準備の為に持っていたのかな?と思いながらコートに向かう。
丁度休憩時間のようでみんなそこらへんに座ったりして雑談をしているようだった。

「まっず!何やこのドリンク温い!」
「ちゅーか味せぇへんし」
「嘘や、俺のめっちゃ甘い!」
「誰やこれ作ったん」

3年生の非レギュラーの先輩が「あー、俺や俺。どや!」なんて言ってるけどブーイングの嵐で。
そんな非レギュラーの先輩に原がじゃれながら「こいつぅ、いっちょ前な事しおってからに」と羽交い絞めにしながら頭を拳骨でぐりぐりしている。

「あー、やっぱり俺らには風鳥ちゃんおらんとアカンんやな」
「せやな。好きやからテニスやっとるけど傍に女の子おるだけで頑張れるし、準備とかも俺らが練習し易い様に先回りしてやっといてくれるし。ホンマ感謝やで」
「風鳥ちゃん早よ部室から出てこんかなー」
「めっちゃで出来とるで。ほれ」

原がきょとんとした顔で日南が居る方向に指を指すと3年生達はがたがたっとその方向に居直る。

「いつから其処におってん?」
「ええっと、"まっず!何やこのドリンク温い!"の所から?」
「最初からかい!」

小首をかしげながらそう言うと先輩達が突っ込みを入れて「風鳥ちゃんも結構やるなぁ」なんてずっこけているけど特に何もしていない。
やっぱりお笑いの事は未だに解からないなぁ、なんて思いながらきょろきょろとコート内を見渡し白石を探す。
白石は見当たらなかったけど、石田が居たから「師範」と声を掛けて駆け寄った。

「日南はんか。もう反省文は書き終わったんか?」
「うん。終わったからマネージャー業復帰しまっす!あの師範、蔵ノ介君は?」
「ああ、白石はんならさっき金色はんが話がある言うて何処か行ったきりやな」
「そっかぁ」
「どないしたんや」
「いや、……ちょっとお話あって」
「ほうか」

石田が大きな手で日南の頭を撫でるものだからつい微笑んでしまう。
何でみんな頭を撫でてくるんだろう?とずっと不思議に思っていたけど頭を撫でられるのは気分が良いし、嫌いじゃない。髪がぐちゃぐちゃになる位撫でられるのは勘弁して欲しいけど。
特に石田は頭の撫で方が優しくて手馴れている感じがする。東京に同い年の弟と、もう一人妹が居るからだろうか。
でも小春が白石に一体何の話があるのだろうか。どんな内容なのか気になってしまって仕方がない。
でも、そんなに急ぐ内容でもないし戻ってきてからでいっかなんて、石田に頭を撫でられながらそう思っていた。


===============


白石は小春と部室棟の裏に来ていた。
人通りが少ない此処で話をするというのは何か大事な話をする時の事で。
白石は小春がどんな話で自分を呼び出したのか一抹の不安に駆られていた。妙に心拍数が高鳴っていく。

「白石君、日南ちゃんの事どう思ってるん?」
「え?」

なんだと思っていた話題は日南の話で。
そういえばこの前日南を家まで送っていった帰り、謙也と遭遇した時も日南をどう思っているか聞かれたっけ。
その時は「いいマネージャー」だと答えたけど、でも今は違う。小石川の一言で自覚してしまった。日南の事が好きなんだ、と。
少しだけ顔を俯かせて拳をぎゅっと強く握り締めていると、小春が「あらあら」と言わんばかりに頬に手を添えて何かを悩んでいる。

「白石君もようやく自覚したんやねぇ」
「へ?は?何言うて……」
「でも気をつけなアカンで」
「……え?」

そう言った小春はいつものお笑い大好きな表情とは違って、至極真剣な表情を浮かべていた。

「日南ちゃんの事好きなんは何も白石君だけやないで」
「……」
「財前君も日南ちゃんの事好きみたいやし、日南ちゃんも財前君に惚れてる節あるからなぁ」
「!!」

その一言にばっと顔を上げて、小春の顔をじっと見詰めた。
心臓が、張り裂けそうなくらいに鼓動を激しく強く刻んでいる。
日南が財前の事を好きな節があるだなんて、全く気付かなかったし、そんな素振りすら見る事が出来なかったから。
でも、何となくそうかもしれないと思ってしまう。

「(あの二人、名前で呼び合ってるもんなぁ……)」

財前と日南は同い年で、尚且つ同じクラスだから名前で呼び捨て合っていてもなんら不思議はない。
でも日南は、いつも自分を呼ぶとき"蔵ノ介君"と呼ぶから自分はそうは行かないから嫉妬してしまう。

「で、金色は俺にそれ言うてどうしたいんや?」
「またそうやってシラ切るんやね、日南ちゃんに対しての気持ちに」
「?」
「今もちょい悩んどったやろ。日南ちゃんと財前君の距離と、自分の距離と。違う?」

いつも瞑られている目が、薄っすらと開いている。
こわごわと揺れる瞳で金色を見つめると段々居住まいが悪くなっていって、口からどっと溜息が出てしまう。
何となく、小春の事だけは敵に回したく無いなとそう思った。

「当たりや」
「やっぱりなぁ。白石君、女の子苦手みたいやし距離の詰め方解からんのやろ?差し出がましいやろうけど、日南ちゃんみたいな鈍感さんはがんがん押してエスコートしてかな相手の気持ちに気付いてくれんで」
「押してく、か」
「せや。後は日南ちゃんの事好きな男子は他にも仰山おんねん。好きなら印象強く残しといて、早めに腕の中にしまっとかんと他に取られるで。ウチが言いたかったのはそれだけや」

「ほな、頑張りや」とそう言って小春はコートに戻ってく。
金色はそういった恋愛事に対しての嗅覚は鋭いらしい。そして白石の事を応援してくれているらしい。なんでかは解からないけど。

「がんがん押していくっちゅーのが実は一番難しいんやけどなぁ」

そう呟きながら白石は青空を仰いだ。


===============


練習が終わった後、2週間後に控えた府大会の事で渡邊から話があった。
レギュラーはこの前終わった地区大会のメンバーである白石、原、謙也、石田、金色、一氏、小石川、他の3年生が一人に加え、今回は財前が1年生ながらに参加参加する事になった。
皆は部活が終わると共に雑談をしながら部室に戻っていく。
しかしその中で、白石だけはまだ練習を続けるのかコートで素振りを行っていた。
府大会を優勝して西日本大会も勝ち上がってっていって、全国大会で昨年の王者・立海大付属中を倒して四天宝寺を全国に導きたい。その一心で。

「蔵ノ介君」
「! 日南。今日も仕事お疲れさん」
「いえいえ、反省文書いてたから途中参加だし全然疲れてないよ。……今日も練習残ってやってくの?」
「ん?ああ、そのつもりや」
「なら、私も残ってお手伝いさせてください!」

ぺこんとその場で頭を下げる日南に、金色の言葉がふと脳裏によぎった。
これも一種のチャンスなんだ。そう思いながら笑顔浮かべる。

「お願いするわ!日南が手伝ってくれたらホンマ嬉しい」

すると日南は段々頬を染めて、「換えの包帯とタオルとあとドリンク持ってくる!!」と、そう言って部室の方に戻っていってしまった。
その背中を見て「可愛いな」と思うと同時に、愛しい気持ちで一杯になっていく。
また、遅くなってしまうだろうからその時は今日の謙也みたいに日南を自転車の後ろに乗せて帰ろう。そう思いながら白石は練習に戻って行った。


2016/04/08