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仲間
※モブからのイジメ描写有


原に担がれたまま部室に行けば既に石田、小石川、謙也、一氏、小春、そして白石と渡邊が其処にいて。全員が重たい空気を醸し出していた。
小春の隣の机の端っこに当たる席に座らされると「レギュラー全員と、日南と同じクラスの財前君に話がある」と渡邊が酷く真剣な顔でそう言った。

「この中で何人か話を知ってる奴もおるから単刀直入に言う。今日、日南が窃盗容疑で生徒指導室に呼び出された」

渡邊がそう告げると初めてその話を聞いた石田、小石川、一氏、小春は驚愕の声を上げてしゅんとしている日南の方を見た。
みんなやっぱり「信じられない」と、そう言いたげな顔をしていて。
その中で一氏が普段から鋭い目つきを更に鋭くさせて勢い良く机をバンッと叩いた。

「そないな事、日南がする訳ないやろ先生!」
「……落ち着け。勿論俺も日南がそないな事する様な子や無い事は知っとるし、何かの間違いやて学年主任のハゲにも言ってみたわ。せやけど聞く耳もたれんかった」

チューリップハットに手を掛け、帽子を脱ぐと日南の方を向き「堪忍な」と、何故か謝罪の言葉を告げる。
何で渡邊が謝らないといけないのか。何もしていないとは言え、こんな大事にした日南がみんなに謝るべき事なのに。
立ち上がってみんなに謝って、事の経緯を話そうとするけど、一点に集まっているみんなの視線が怖くて上手く体が動かない。足が竦んで、喉が引き攣っている。
隣に座っている小春がそんな日南の手に優しく左手を乗せて、右腕でその肩を抱く。
当事者である日南が恐慌状態に陥って口を開けない事を渡邊は想定していたのか「謙也、みんなに説明してやり」と言うと、謙也は小さく頷いた。

白石の貧血の話から事細かに事情を説明した所でみんなは「なんやそれ」と怒りを露わにする。
一番怒りに震えたのは日南の事をかなり可愛がっている一氏だ。

「何組やその女!いっぺんどついてやらな気ぃ済まんわ」
「気持ちは解からん事もないけど、落ち着きやユウジ。……日南、その女子にそういう事される事に心当たりあらへんのか?」

一氏を諌めながら小石川が優しく尋ねる。
みんなに迷惑をかけている罪の意識で泣き出しそうになっているけど大分、気持ちが落ち着いてきているから小さく頷いて、唇を開いた。

「実は、ひか……財前君にしか話してなかったんだけどこの前蔵ノ介さんに告白してる先輩がいて、色々あったんだけど、部活見学していかないかって誘ったらその……険悪な空気になっちゃって」

その話を聞いた白石は「あの子か」と思い出すと同時に、日南の様子が可笑しかった事を思い出すと何となく合点がいった。
日南は諍い事が苦手なタイプでそう言った空気を怖がる事が多い。
部員同士が喧嘩(と言っても好きなお笑い芸人についての喧嘩だけど)している時も泣きそうになりながら仲介に入っているし、びくびくおどおどしている。
急に敵意や悪意を向けられた日南が自分達に接する時は平静を装おうと取り繕おうとするのは必然で。
「何でもない」なんて言うから気にしないでいたけど、もっと突っ込んで話を聞いて上げれば良かったと後悔の念が押し寄せてくる。

「せやけど、なして部活見学誘っただけで険悪になるんや」
「せや。色々あったっていってた部分で険悪になる理由あったのかも知れへんし、辛いかも知れんけどもうちょい詳しく教えてくれへんか?」
「……」
「部活が始まるからって財前と俺で無理矢理話終わらせて帰ってもらおう思ったんや」

日南が次の言葉を紡ごうとしたのを遮って、白石が発言する。
日南は少し驚いた表情で白石を見ていたけど、日南にこれ以上辛い思いはさせたく無いし、当事者や事情が知るものが発言していった方が話もスムーズに進んでいくだろうと思う思ったから。
白石の意図を汲み取ったのか財前も日南から聞いていた話を、彼女が話しにくそうな部分を率先して話ていく。
謙也の紹介でマネージャーになった事をコネ扱いされた事も、マネージャーとして可愛がられている事に対して口汚い罵られ方をした事も。
全ての話をし終えて、渡邊は「ただの嫉妬か……」と頭を抱えて呟いた。
確かに、男子しかいない部活に女子マネージャーがたった一人ぽつんと存在していて可愛がられている光景はそれは見ていて楽しくもないだろう。
だからと言って濡れ衣を着せるのもどうかとは思うけど。
最近の子供は怖いな、とそう思いながら渡邊はトレンチコートに仕込んでいたボイスレコーダーに触れると、指先で電源を落とした。


===============


その日は大事をとって部活は休みになった。
しかし日南には余り良い事ではなかったらしく、自分の所為で……と更に沈んでしまった。
そんな日南を見た白石は何かしてやれる事はないか、と考えてからある事を考え付いた。

「で、テニスっすか」
「日南、テニス好きやし、お遊び程度やけどええかなって」
「成程」

白石の提案で2年生レギュラーの面々と財前、日南は学校から少し離れた公園のテニスコートに来ていた。
今は日南が小石川とダブルスを組んで石田・謙也ペアとゲームを繰り広げている。
最初は乗り気じゃなかったけど折角の白石の提案なんだとラケットを手にしてゲームを始めた途端、急にいつもの元気に戻っていった。
膝の怪我もすり傷程度だし痛みも大分なくなっているからか動きが良い。
財前は元気に跳ね回る日南を見て「元気やなぁ」という率直な感想しか抱けなかった。
でも、そんな日南の表情を見ていたら「本当にテニス、好きなんやな」と言うのが本当に解かる。
ゲームに視線を戻すと、丁度石田が放ったボールが小石川の脇を抜けた。

「しもた!!日南、バックサポート頼んだ!」
「任せて、ケンちゃん!」

すぐにボールに追いついた日南は両手打ちで石田の打球を返そうとするも、一度バウンドした後でも打球は依然重たくて。
漸くボールを打ち返す事が出来たけど、両腕が痺れて感覚が無い。

「日南はん、ようあの打球を打ち返したな」
「でも、打球は軽い。日南ちゃんには悪いけど、これでお仕舞いっちゅー話や」
「俺の存在忘れられるんは心外やなぁ、謙也!」
「んなっ!?健次郎いつの間に……!!」

謙也が打ち返したボールを前衛の小石川が無理矢理スマッシュで叩き込む。
まさか無理矢理スマッシュで返してくるとは思わなかった石田と謙也は反応出来ずに得点を許してしまった。

「ケンちゃん、すごーい!」
「当たり前や、これでもレギュラーやぞ。日南、腕大丈夫か?」

心配して近くに来てくれる小石川に日南は眉毛を八の字に下げて「それがね」と言うと、その場でラケットを地面に落とした。

「結構辛い」
「金色ー、アイシングー!!」

日南のラケットを拾い、小石川が真顔で叫ぶと小春も慌てて救急箱を開けて「日南ちゃん、早よこっちおいで!」と呼びかける。
なんだかいつもみんなにマネージングしているからこうして手当てをされるのはなんだか気恥ずかしい感じがするけど。
小春からのアイシングを受けてる途中、白石は心配そうに後ろから覗き込んでいた。
腕の痺れは軽いみたいだけど痺れがある状態でゲームを続けるのは危険だ。そう判断した小石川は謙也と石田に「俺らの負けや」と肩を竦めて告げて、飲み物を買いに行く。

「日南ちゃん、腕もう痛ない?」
「ありがとう、小春ちゃん。大分良くなったよ」
「もう、女の子なんやから無理したらアカンよ。いくらウチらのモットーが"勝ったモン勝ち"やからって怪我しに行くんはちゃうで」

つん、と突き出された小春の一指し指が日南の唇に当たる。
その様を見た一氏が発狂しながら小春の指に消毒液を掛けているけど、人を病原菌扱いだなんて失礼な話だ。小春も「止めや!」と怒った所で一氏はしゅんとしたけど。
そんな2人を見て財前が「先輩ら、ホモなんすか?……キモいっす」と冷たい視線を向けてそう言うと2人は元気に、玩具を見つけた子供の様に財前に飛びかる。
小石川が「ざいぜぇぇぇぇん!!」と叫びながら財前を助け出そうとし、謙也が苦笑いを浮かべ、石田が「無情やな」なんて呟いている。
そして白石が日南の隣に座り「あいつら何やっとんねん」とはにかみながら「なぁ?」と同意を求めてきたから、ついはにかみ返してしまった。

そんな学校の、部活と変わらない光景を見ていて胸が熱くなってくる。
誰にも言わなかったけど、生徒指導室から戻ってきてからずっと考えていた考えが間違えだと思えて頭の中で弾ける。

「!! 日南、どないしたんや?!」
「え?」
「めっちゃ泣いとるけど、どないしたん?」
「やっぱり、まだ腕痛いんか?それとも膝……」

無意識にぼろぼろと零れ出ている涙を掌で触れてみると妙に生暖かくて。
皆がびっくりしているから止め様と頑張ってみても涙は止まる所か更に沢山出てきて。
いつも落ち着いている石田が珍しく狼狽しているのを見て「違うよ」と声を掛けたら、しゃくりが止まらなくなった。

「ごめん、なさい」
「え?」
「なして謝るん?」
「みんなにこれ以上、迷惑掛ける様なら、マネージャー辞めるって考えてて、それで……」

そう告げたらその場にいる全員、びっくりしたような顔をしていて。
実を言えば部室に呼ばれて緊急ミーティングをした時もずっと退部の事を考えていた。
でも、テニスは勿論、みんなの事が四天宝寺中男子テニス部が大好きで。ずっと一緒にいたいと、そう思っていて。
でも、こうしてみんなで馬鹿をしているのが楽しくて、その時間が愛しくて。
次の言葉を紡ごうとしても感極まって上手く言葉に出来ないでいたら、白石も泣きそうな顔をしながら日南の頭を撫でた。

「別に俺らは迷惑やなんて思ってへん」
「せやで日南ちゃん。寧ろウチらが日南ちゃんに迷惑かけてる位の勢いやないの」
「ちゅーか、日南はもっと俺らに迷惑かけるっちゅーか頼ってくれてもええんやけどなぁ」
「今回の事は仕方が無い事や。せやからそないな事は気にせんでええ」
「お前がおらん部活っちゅーの、何かおもんなさそうやなぁ」
「日南ちゃんも四天宝寺男子テニス部の仲間なんやから、仲間が辛い思いしてる時に何とかするのが仲間っちゅー話や」

みんなに言葉に胸が熱くなって涙がじわじわと滲み出てくる。
そんな日南の肩に隣から手が置かれた。
そちらの方向を見てみたら財前が普段の冷静な表情を少しだけ優しそうに崩している。

「日南、お前やっぱ阿呆やろ。俺より先にテニス部入っとるのに先輩らの事理解してへんて」
「光……」
「俺も先輩らと同じで、日南が辛そうな思いしとんなら盾にも力にもなったるわ」

たった一言の言葉についに何かが決壊してさっきよりもぼろぼろと涙が零しながら、意味が解からない内に嗚咽も漏れ始めてその場にしゃがみ込む。
今までこうして、温かい言葉を掛けてくれる友人なんていなかったから。
いつも見方をしてくれたのは両親と東京に住んでいる兄くらいなものだから。
謙也やその従兄弟とは小学生の頃からの仲だけど、こんなに精神的にぼろぼろになる事はなかったから、どうして良いか解かっていなかった。

「ごめん、……ごめんなさい。みんな」
「謝らんでええって。何かあったら隠し事せんと俺達にちゃんと相談してな」

白石の言葉に小さく、こくこくと首を縦に振ると白石は満足そうに「うん」と微笑んだ。


2016/04/06