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幼馴染みの葛藤

翌日も部活が終わった後、四天宝寺レギュラーメンバーは紙衣仏様に日南の怪我の祈願をしてから解散した。
まだ1日しか経っていないけど忍足からはまだその後の日南についての連絡はまだない。
「白石、帰りちょおマグド寄ってかへん?」。
しきりにそわそわしている白石に着替え中、謙也がそう声を掛けて今に至る。
帰宅したら夕飯もあるから控え目に、とハンバーガーのセットを一つだけ頼んだ謙也はハンバーガーに早速齧り付く。
対して白石はドリンクだけ頼んで、ずっとストローをで氷とドリンクをぐるぐるかき混ぜているだけだった。

「謙也、俺に何かあるんやろ?」

話題を切り出さない謙也に白石から話題を切り出していく。
謙也の性格は3年間一緒に過ごしているから良く解かっている。皆の前で切り出しにくいから白石をファストフード店に誘ったんだって。
すると謙也はしゅんと眉を下げて、ハンバーガーを食べるのを止める。

「日南ちゃんの事で、ちょっとな……」
「! 従兄弟君から連絡あったんか?」
「……いや。昨日電話出話をしていた時に聞いたんや。なぁ白石、日南ちゃんが氷帝の女テニに入部してたって知ってたか?」

その言葉に白石は静かに「いや」と返すと謙也はこめかみをピクリと動かした。
どうやら謙也は日南が女子テニス部に入った事を知らなかったらしい。みんなの話を聞いている限り日南は連絡もあまりしていなかったみたいだし。
かくいう白石も日南が女子テニス部に入部した事を今始めて知ったのだけど。
でも、日南がやりたい事をやれて良かったとそう思ってしまう。

「日南ちゃん、なしてそないな事俺達に教えてくれんのやったんやろ……」
「日南の事やからきっと俺らに気ぃつこて言わん勝ったのかもしれんな」
「気ぃ遣うって、俺らは同じ四天宝寺男子テニス部の仲間やないんか?!白石もや、なしてそないに冷静やねん!!」

声を荒げる謙也に白石は目を伏せ、あの日電話で話した内容を思い返す。
氷帝の女子テニス部に入部しないのか尋ねた時の日南の声色は何かを迷っているようにも思えて。
結局自分の言葉が日南の後押しになったみたいで何だか嬉しい。
謙也は日南が女子テニス部に入った事を黙っていたのが気に食わないみたいだけど。

「謙也は嬉しくないんか?」
「何が」
「日南がまたテニス出来る様になったん」
「そら、嬉しいけど……」

煮えきれない。そんな表情を浮かべる謙也に白石は複雑な表情をする。
確かに、入部したなら入部したという連絡だけはして欲しかったな、なんて。
紙コップの中で積み重ねられていた大粒の氷がとぷんと音を立ててドリンクの中に崩れた。

===============

「……ん」

目が覚めた時に移ったのは清潔感漂う真っ白な天井と、半分が真っ黒に塗りつぶされた世界だった。
指先を少し動かしてみたけど指が動いている感覚が無い。
体を起こしてみようと思ったけど痛みが走って腕が上手く動かないし、体中に力が入らない。まるで手足に鉛の塊をつけられている感じだ。
体が動かせ無い事に僅かなストレスを感じるけど動かせ無い事に対して腹を立ててもそれが更にストレスになるからそのままベッドの上に転がっている。
辛うじて首だけは動かせるから右、左と首を動かしてみるけどカーテンでベッド周りが遮断されている所為で何にも解からない。
わかった情報といえばここは病院のベッドの上で、トラックに轢かれた後辛うじて生きているという事くらいだ。
腕には細長いチューブが繋がれていて、薬なのか栄養剤か解らないけど何かを投与されている。
するとカーテンの継ぎ目が狭く開いた。
青い髪に丸眼鏡を掛けた少年、忍足だ。

「! 目ぇ覚めたんか!!」
「うん。侑士君、ここ病院?」
「せや。あ、ちょお待ってな。今オトン呼んでくるさかい、話はその後で」

そう言ってすぐに忍足はカーテンの外に飛び出し、医者であるお父さんを呼びに行ってしまった。そう言えば忍足のお父さんは大学病院勤めだったっけ。
それよりナースコールがあるんだからナースコールで看護婦さんを呼べば良いのに、何て思うけど幼馴染が事故にあったりしたらそりゃあ焦るかなと他人事の様に思ってしまう。
もし忍足や謙也が事故にあったりしたら自分も取り乱してしまうだろうし。
忍足がお父さんを連れてきたのか病室の前が急に騒がしくなった事で、日南は鼻で溜息を吐いた。
何だかんだ言って、忍足も優しいななんて。きっとずっと気になって傍にいてくれたであろう事を感じ取れたから。

忍足のお父さんから入院した経緯や、退院までの道のりを聞いたけど中々退院するのは難しそうだ。
頭をアスファルトに強く打ちつけていると言う事もあってか絶対安静の上、毎日MRIで脳の動きを観察したり無理をしない程度に体を動かす必要があるらしい。
鎮痛剤を飲んで横になっているけど、まだ体中が痛い。この痛みはいつまで体に残るのかそう考えると少し気が重い。
それよりも。ベッド脇においてある棚に目をやると、真っ二つになり画面が割れた携帯電話が視界に入る。
それは紛れも日南の携帯電話で。
あの時、トラックに轢かれる直前に電話口から白石の声が聞こえてきたけど、気の所為だったのだろうか。それとも本当に電話が繋がったのだろうか。解からないのがもやもやする。

「蔵ノ介さん……」

顔の右半分を覆う包帯を痛みが走る手でそっと触れる。
忍足のお父さんから容態の事も聞かされた。
日南の体の痛みの大半は右半身に集中した火傷の所為だと。切り傷や擦り傷も多いけれど火傷の痛みの方が強い所為でそう感じるらしい。
人間は一度大きな痛みを負うと多少の痛みを痛いとすら思わなくなるらしいけどそれに類似した症状なのだろうか。どうでも良い事だけど。
特に顔の右半分の火傷が程酷い。そして右目の半分が熱で固まって見えなくなっていると、忍足のお父さんはそう言っていた。
もし、白石や四天宝寺の皆がこの顔を見たらどう思うだろうか。
バケモノと罵るだろうか。それとも哀れむだろうか。距離を置くだろうか。
それとも、今までと変わらず接してくれるだろうか。
考えると途轍もなく怖い。
恐怖から逃避する様に目蓋を閉じて、眠りに付いた。

===============

謙也はシャワーから上がった後、ペットのイグアナに餌をやっていた。
「謙也は嬉しくないんか?日南がまたテニス出来る様になったん」。
白石のその言葉を思い出して奥歯を噛み締める。

「嬉しくない訳、ないやろうが」

嬉しいに決まってる。でも、それならそれで教えて欲しかったからイラついているのを白石は理解してくれなかった。
謙也は四天宝寺の中では日南との付き合いが一番長い。何て言ったって6年間隣の家に住んでいるんだから。
だから何かあったらいの一番に連絡が欲しかった。
でも日南は東京に言ってからの連絡は九州二翼の橘 桔平について連絡してきたきりだし、その後も白石に激励のメールを1通送っただけ。
幼馴染である自分には何にもない。ただただ悔しくて仕方が無い。そりゃあ部長とマネージャーの間柄だから仕方ないといえば仕方ない事なのかもしれないけど。
するとベッドの上に放り投げられていた携帯電話が電話の着信を告げる。

「もしもし。侑士か?」
『目ぇ覚ましたで』
「え?」
『日南ちゃん、目ぇ覚ましたで。夕方辺りに』
「ほ、ホンマか!!」

電話の向こうで『ああ』と安堵した声が聞こえてきて謙也もホッとする。

『まぁ、暫くは安静にしてその後要リハビリみたいらしいけどな』
「さよか。……ありがとうな、侑士。教えてくれて」
『お前の事や、あの子の事なら何でも知りたいんやないかと思ったからな』
「……」
『謙也?』

急に黙りこくった謙也に忍足が訝しげに声を掛ける。
そういえば侑士も互いに部活が忙しいというのもあったから仕方が無いけど日南が女子テニス部に入った事を教えてくれなかった。
なんだか自分だけ蚊帳の外で面白くない。
それも苛立ちの一旦を担っていると気がついて更に胸がムカムカする。

『どないしたん、謙……』
「なぁ侑士」
『ん?』
「日南ちゃんの中での俺って何なんやろうな」
『はぁ?どないしたんや、急に』
「いや、急に気になってな。堪忍な、変なこと言うてしもた。今の忘れてや」
『……おん』

いつも明るい謙也が変な事を聞いてきて、急に暗くなった事に日南と何かあったんだなとは察するけど謙也にも触れられたく無い事の一つや二つはあるだろう。
自分にもそう言った事はあるし。明日も放課後見舞いに行くと日南と約束しているからそれとなく聞いてみようとは思う。

『それだけ伝えたかっただけやから電話切るわ』
「おう、ありがとうな侑士。……自分の分も全国、頑張るわ」
『何や。もう全国行く事確定してんのかいな。まぁ、四天宝寺は昨年も全国行っとるからなぁ。ほな、おやすみ』
「おやすみ」

忍足との電話が終わると僅かに笑みが戻る。
日南が目が覚めたという事が解かっただけでも嬉しい。
早く明日にならないか。朝練の時に皆に早く伝えてあげたい。そう思うと少しだけ気持ちが晴れた。

2016/06/23