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抽選会

※オリキャラ回


日南は跡部と樺地、そして妃とある場所を訪れていた。
神奈川県にある立海大付属中。今日これからこの学校で男女テニス部あわせて関東大会の抽選会が行われるらしい。
立海大付属中といえば現在2年連続で全国大会優勝を果たしている王者だ。昨年、四天宝寺も全国大会セミファイナルで立海と当たり、敗れている。
昨年の立海との試合の時、観客席でただみんなの試合を見ている事しか出来なくて歯痒い思いを抱いていた事しか思い出せなくて思わず苦い顔になってしまう。
抽選会はまず先に男子が行い、その後に女子が行う手筈になっていたから跡部と樺地と一旦別れて、妃と日南は少し立海大付属中のキャンパス内を歩き回っていた。
四天宝寺も氷帝も大きいけど立海も中々大きい。部活をしている生徒も数多くて日南はただただ口を開けて驚くばかりだった。

「そうそうひぃちゃん」
「どうかしたの、妃ちゃん」
「後で立海女子テニス部まで挨拶に行きましょう?あの子も久し振りにひぃちゃんに会いたがってるし」
「あの子?」

あの子って誰の事だろう。悩んでいると妃は隣で「ふふふ」と優雅な笑みを浮かべている。
妃は時々意地悪だ。それは昔からそうなのだけど、今も変わらないらしい。

「京よ。花祭 京」

悩んでいる日南の顔を見て少し可哀想になったのか早めのネタバラしをしてくれる。
その名を聞いた日南は目を急に輝かせて妃の顔を見上げた。

「京ちゃん!え、京ちゃんも日本に来てたの?!」
「ええ。叔母様のお仕事が終わったらしいから大分前に日本に帰国してきているよ」
「そっかあ。やっぱり京ちゃんも女子テニス部なの?」
「うん。部長を務めているよ」

笑顔で教えてくれる妃に日南は満面の笑みを返した。
妃の事も好きだけど京の事も小さい時からずっと大好きだったから。ドイツにいた時は近所に住んでいてスクールも同じで、ずっとずっと仲が良かった。
だからまた、再開出来て嬉しいと思う。それが例え、大会で勝負する相手だとしても。

「あ!妃ー!!」
「……噂をすれば何とやらね」

溜息を吐いた妃はその場で綺麗なステップを踏んで横にひらりと移動する。
途端、深緑色の何かが勢い良く突っ込んできて、その場にずべしゃっと派手な音を立てて転んだ。

「いつもいつも背後から飛び掛らないでって行ってるでしょ、京」
「ごめんごめん。妃がいたらいてもたってもいられなくってさ……って、ひぃちゃん!」
「うぶっ……」

状況を飲み込めないでいたら急に京は日南に抱きつく。
確かに昔から大型犬のような気質の人だったけど、こんなに抱きついてくる事は無かった様な気がする。
ドイツにいたあの頃から成長している体躯、主に胸に顔をぎゅうぎゅう押し付けられて息が苦しい。関東大会前に窒息して死んでしまいそうだ。
ずっと唸っていると妃が「離しなさい、馬鹿」と無理矢理京から日南を引き剥がす。

「ウチの可愛いひぃちゃんが窒息死でもしたらどうしてくれるのよ」
「ごめんごめん。6年越しの再会だから嬉しくってつい」
「久し振り、京ちゃん。相変わらずだね」
「ひぃちゃんも相変わらず可愛いねぇ。ちっちゃくて」
「京!」

妃が叱咤すると京は飼い主に怒られた犬みたいにしょんぼりする。

「全く貴方は、部長たるもの少しは落ち着きを持ちなさい」
「妃が落ち着きすぎなだけじゃんよ」
「何か言った?」
「いえ、何でも」

はぁ、と溜息を吐いた妃は頭痛がするのか頭に手を当てて気難しい顔を浮かべている。
心配になって顔を覗き込んで「大丈夫?」と声を掛けると「大丈夫」と返されて少し安心した。
もう一度溜息を吐いた妃は真っ直ぐ京の目を見て「聞きにくいんだけど、いい?」と声を掛ける。

「何?」
「最近京から話聞いていないから気になっていたけど、幸村君の容態どう?よくなった?」
「(幸村君?……て確か、"神の子"って呼ばれてる立海の部長さんだよね?)」

昨年の四天宝寺との試合の時は3−0のストレート負けで白石のシングル1まで試合が繋がらなかったけど、もし試合をしていたとなると対戦相手は幸村が努める事になっていた。
でも、その幸村が一体どうしたのだろうか。2人の会話に入れないでいる日南は2人の会話から内容を推測する他ない。
どうやら体調を崩していると言う事は解かったけど、妃も心配しているという事は相当芳しくない状態だったのか。
京を見ると少しだけ顔を顔を俯かせて、暗い影を落としている。

「最近はまた良くなってきたみたいだけど、まだ退院は出来ないみたい。経過要観察って精市のお母さんも言ってた」
「……そう。こんな事、私が言っても何の力にもならないだろうけど……良くなるといいわね、幸村君」
「ありがとう。精市にも伝えとくよ」

そう言った京の顔は穏やかになっていて。
何だか良く事情を飲み込む事が出来ないけど、良かったと思う。
しかし、京の表情は急に険しい物になった。

「でも、関東大会で当たる事になったら話は別。友達だろうが、大好きだろうが、完膚なきまで叩き潰させてもらう。王者・立海大付属中の3連覇の為に」
「!」
「!! 上等よ、もとよりそのつもりだし。そっちこそ、王者の驕りを持ったまま情けない試合なんてしたら承知しないわよ?」
「言われなくても。……精市との約束を、私は違えるつもりなんてないよ」

暫し妃と見詰め合う京に緊張感が走る。日南はそれを固唾を呑んで見守る事しか出来なかった。
途端、男子の抽選会が終わったのか講堂の方が騒がしくなる。

「おっ、終わったみたいだね男子」
「そうね。ひぃちゃん、いきましょ。京もまた次は試合で」
「おっす!じゃあね、ひぃちゃんー」
「う、うん。またね、京ちゃん!」

手を振り講堂の方へ向かう妃と日南に京は郷愁の色を浮かべた。
自分だけ立海で2人は氷帝にいるから、少し疎外感がある。家の場所や学力の問題で氷帝に行く事を断念したけど、でも立海を選んだ事を公開しているかと聞かれたらそうではない。
寧ろ、立海を選んで正解だったと思える。男女共に切磋琢磨出来る仲間を得る事が出来たのだから。

踵を返し部室棟に向かう途中、帽子を被った男子部員に声を掛けられる。
男子副部長であう真田 弦一郎だ。心なしか怒っているように思えたが普段から怒っているような顔をしているから京はへらへらした笑みで何時も通りに接する。

「弦一郎。なに?」
「いや、先ほど何か揉めていた様に見えたからな」
「揉めてない揉めてない。幼馴染達とじゃれあい」
「珍しいな。お前が他とじゃれあうのは」
「別に。弦一郎達ともいつもじゃれあってるでしょ、牙と爪を立てて噛み付きながらさ」

「それはじゃれてると言うのか?」と真田に突っ込まれるけど笑って誤魔化す。

「じゃれてるよ。私達にとってのじゃれあい方、だけど。そうだ弦一郎、今日私と試合しない?先輩達じゃ物足りないでしょ」
「お前と?構わんが、どういう風の吹き回しだ。俺との試合は毎度避けていただろう」
「だって、弦一郎は私相手でも容赦しないし。まぁ、手加減されるよりはましだけど。それに、あの二人がタッグ組んできたら無敗完勝なんて出来ないだろうから少しでも腕を研いでおかないとね」

「立海三連覇に死角はないからね」。入院している親友の言葉を借りて、呟いてみる。
その呟きを拾った真田は被っている黒いキャップを目深に被った。


===============


一緒に立海まで来た跡部と樺地は早々に、日南達を置いて帰ってしまったらしい。
別に目的地が同じだから一緒に立海まで行っただけなんだけど。

「まずったわね」
「何が?」

女子の抽選会も無事に終わり、帰りの電車の中で妃はぼそりと呟いた。
抽選会でくじを引いた妃は頭を抱えたまま、暗い表情で「……初戦、何処だったか覚えてないの?」と聞かれた。

「立海大付属だね」
「いきなり当たるだなんて思わなかった。シードじゃない訳?昨年優勝校でしょ」

そんな妃の言葉を聞いて日南は首を傾げる。
別に試合する事が決まっているならいつ試合しても変わらないんじゃないか、と。

「立海が強くても、私達も立海を飛び越える勢いで練習すれば勝機はあるよ。だから、そんなに気を落とさないで、妃ちゃん」
「……ひぃちゃん。そうね、まだ試合始まった訳でもないんだし、落胆はまだ早いわね」

「帰ったら早速練習しましょうか」と笑いかけてくる妃に日南は微笑みを返す。

「妃ちゃん。私と、試合しよう」
「勿論。幾ら相手がひぃちゃんでも手加減はしないわ」
「当然」

揺れる電車に合わせて肩を震わせる。
それから日南は電車の窓の外を遠く眺めた。
四天宝寺の皆も同じように頑張っているんだから私も頑張らなくちゃ、と。


2016/04/05