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都大会開始

都大会初戦当日。
日南は妃達女子テニス部の面々と会場である公園に来ていた。

「ウォンバイ風鳥!6-0」

初戦からシングルス3と言う勝敗を左右させるポジションに置かれたが、呆気なく勝利を掴んだ試合に何の感慨も抱かないまま日南は"現在"のチームメイトの元へと戻っていく。
こう言っては何だが、拍子抜けだ。時折跡部や忍足が顔なじみだから、と試合してくれるけどそちらの方が幾分か楽しい。本気でやるから結果はいつも負け、なのだけども。
それに1ゲームも取られないワンサイドゲームと言うのは相手を虐めている様で気が引ける。
それに何よりも"敗北するかもしれない"と言うスリルを味わう事もできないから物足りない。
四天宝寺に居た時は少し試合をさせて貰っていたけど、それなりにブランクはあったのだけど。

東京に来て心の底から"楽しい"と思わせてくれる試合をしてくれた相手は今のところ、青春学園の1年生・越前 リョーマ。彼だけのような気がする。
妃とも、忍足とも、跡部とも眞尋ともこの1ヶ月ちょっとで何回か試合をしたけどゾクゾクするような楽しさではなくて、普段から思っている"楽しさ"しか感じる事が出来なかった。
彼はあの短時間の試合の中でも「また機会があれば手合わせをしたい」くらいに楽しいと思わせてくれた。

「お疲れ様、日南ちゃん」
「……ありがとう、妃ちゃん」

優しげな笑みを浮かべ、妃がタオルを差し出すと顔を俯かせて受け取る。
しかし他の部員は誰一人として日南に声を掛けようとはしなかった。それどころかひそひそとまた、嫌味を零していた。

「やっぱり、全国区様がいると楽に試合勝てちゃうよね」
「ねー。必死に練習してレギュラーの座についた私達の苦労なんて知らないでしょうね。九条や忍足君、跡部様の幼馴染っていうコネまで使っちゃってさ」
「……(聞こえてるっつーの)」

眉間に皺を寄せ、舌をべっと短く突き出すと自分のテニスバッグにラケットを仕舞う。
そもそも日南はコネでレギュラーになった訳ではない。練習試合で結果を残してレギュラーに選ばれた、それだけだ。
未だに日南に負けた事を認めてなければ、実力でレギュラーになった事も認めたく無いらしい。
往生際が悪いなぁ、とは思うけどあえて口には出さないけど。下手に刺激して厄介事になるのだけは御免被る。

だけども部長である妃は他の部員達の影口に不機嫌そうな表情を浮かべて「あの子達……」と今にも噛み付きそうな雰囲気だ。
しかし此処で妃が注意したらまた「九条に気に入られているからって調子に乗って」と悪態を吐かれるのが関の山だ。
ぎゅっと妃のジャージ袖を掴むと小さく首を2,3回だけ振って「気にして無い」と呟いた。

「……日南ちゃんが気にして無いなら構わないけど、私には構う。チーム内がこんなにギスギスしているのは居心地悪いし、楽しくない」
「ごめん、妃ちゃん。私が入部しなくちゃこんな事には……」

使っていないタオルを妃に押し返すと、妃は小さな溜息を吐く。
東京にいる間は部活に所属する事を渋っていた所を、本人の意思とは言え妃の我儘に付き合って入部して貰ったのに、何故こんなに悲観的な言葉を吐かせてしまうのだろう。
せめて、此処では思い切り楽しいテニスをして貰いたいのに。
彼女が小さい時に失ったあの感情を、取り戻して欲しいだけなのに。
そう思うと胸の奥がぎゅっと締め付けられる気がした。


===============


中学女子テニス都大会初戦は氷帝が初戦と2回戦を制した後に解散と言う手筈になっていたけど、日南はその場で解散と言う事になった。
尤も、それは妃が日南がいる事で他の部員の空気が悪くなる事を危惧しての判断で決して特別扱いと言う訳ではない。それなのにまた特別扱い、と言って睨まれたけど。
日南はバスに乗って別会場で開催されている男子テニス部都大会の会場である公園に向かっていた。どうしても見ておきたい試合があるのだ。
公園に到着すると自販機でジュースを買うとすぐに現在も試合をしている男子テニスの部のコートに向かう。
すぐに日南のお目当ての学校は試合が終わってしまっているのか中々見つける事が出来ない。初戦を勝ち抜き、秋山三中を下した彼らが今しがた終えた次の相手はの相手は各校から強力な選手を各地から集めた聖ルドルフ学園だと噂で聞いた。

「そう言えば、男子も都大会シードだったよね。もう試合してるのかな」

目当ての試合を見に行く前に氷帝の試合も見ていこう。そう思い方向転換しようとすると丁度お目当ての学校を探していたら試合が終わったのか、休憩に入っていた青学2年のレギュラー・桃城 武が「あ」と声を上げ、すぐ傍にいるキャップを被った少年の肩を引っ張る。

「なぁ越前。あの子確かストテニで会った……」

桃城が日南の存在に気が付き、越前を小突く。越前もその存在を確認すると「あ」とだけ声を零し、じっと日南の方を見つめた。
すると他の部員達も面白そうに日南を遠目から見つめる。

「なになにー?あ、あの子可愛い」
「あのジャージ、氷帝学園?」
「そう言えば氷帝は男子も女子もユニフォームは統一されていたな」

乾が眼鏡をクイッと上げると河村が「へぇ〜」と声を零す。
そして越前と桃城の間に菊丸が横っ飛びで移動し、二人の首を腕で絡めると満面の、何かよからぬ事を考えていそうな笑みを浮かべた。

「おチビも桃もあんな可愛い子、何処で知り合ったんだよー」
「うぐっ……少し前にストテニ場で会っただけっすよぉ」
「へー?」

ワイワイと青学の面々が騒いでいる事に気がつき、日南は青学の方を見ると越前と桃城に微笑みながら手を振った。
何を隠そう、日南の目当ての学校はこの青春学園だったのだから。尤も日南が気になっていたのはスーパールーキーの呼び声が高い越前 リョーマなのだけど。
スキップでも踏んでいるのかと思う位に軽快な足取りで青学メンバーに近付いてくる。そのお蔭で越前と桃城の首に回された菊丸の腕が興奮の所為できつく締め付けに掛かってきたが。

「ほら、あの子お前達に手ぇ振ってるー!それにこっち来たにゃー」
「英二先輩っ、ギブ!ギブ!」
「苦しいっス、英二先輩!」
「英二!二人を離してやれ」

大石が諌めてくれた事で漸く菊丸の(無意識な)首絞め攻撃から開放された二人は大石に感謝しながら此方にきた日南を迎え入れる。

「越前君!」
「その格好、テニス部入部したんだ」
「……うん、成り行きで」

はにかみながらそう返すと越前がぶっきらぼうに「成り行き、ね」と返してくる。
周りにいる青学の制服を身に纏った女の子2人の内、ツインテールにしている子が凄い形相で睨んでいるけど。正味、怖い。
はにかみながらもストテニ場で試合した時から思っていたけど、少しだけ態度が財前に似ているなぁと思っていたけどやっぱり普段の財前のそれとそっくりだ。
そんな少し前だけど懐かしさすらを思わせる仲間の事を思い出していたら「ねぇ!」と元気良く菊丸に声を掛けられる。

「君、可愛いね。名前は?俺は菊丸 英二って言うんだ。よろしくね」
「あ、すみません。自己紹介もせずにお話してしまって。氷帝学園2年の風鳥 日南と言います。宜しくお願いします、菊丸さん」

慌てて頭を下げると菊丸が「よろしくねー」と返したのを皮切りに、他のメンバーも「よろしく」と返してくる。
その中で眼鏡を掛けた、茶髪の部員と目が合いぐっと息を呑む。日南は彼の事を良く知っている。そして、昨年から注目していた。
手塚 国光。プロから目を掛けられている選手の一人であり、白石や跡部が目を光らせているトップクラスのプレーヤー。
日南も小学生の頃にジュニア大会の手塚の試合を見た事があったけど同性で、関東に住んでいたら彼と試合出来たんだろうなと漠然と思っていた位の認識だった。
尤も、日南の場合はシングルスよりもダブルスを専門にしているし、男子と女子では中々試合をする機会には恵まれないのだけど。仲が良いという理由でもなければさっぱりだ。
じっと手塚を見つめていたら桃城が「でもよー」と日南に声を掛ける。

「何でお前此処に居んだよ。氷帝の試合なら別のコートだぜ?」
「う、うん。知ってるよ。今は青学の試合、見に来ただけ。それに私は今日もうお役御免で試合ないし」

そう言うと手塚の隣にいた不二が「へぇ」と微笑を見せた。菊丸がにしし笑いで桃城の背中を肘で小突き「桃、隅に置けないにゃー」とからかって遊んでいる。
一方の越前は我関せずと言わんばかりに缶ジュースを飲んでいたのだが。
そんな青学メンバーを見て「もしかして、お邪魔でしたでしょうか……?」と尋ねると、大石が慌てた様に、でも優しく「そんな事無いよ」と取り繕ってくれたが、先程からバンダナをした部員の鋭い視線が突き刺さって痛い。
そんな時、ジャージのポケットに入れていた携帯電話がメロディコールを鳴らし始める。

「あっ」
「出ないのかい?」
「あ、うう……、すみません。もしもし」

慌てて電話に出ると『日南。お前、今何処に居る』と跡部の不遜な声が聞こえてきた。

「え、今?男子テニス部の会場になってる公園に居て……。でも、それがどうかしたの?」
『さっき妃から連絡があった。お前は今日の都大会準決勝以降は出さないから帰したって聞いたからな』
「……情報早いなぁ、もう」
『広場の休憩スペースにいる。会場にいるなら来い』
「え?でも、私見たい試合が……」

ちらりと女の子達含め青学メンバーを見ると不思議そうにこちらを見ている。誰と通話しているのかが気になる者の方が多いらしい。
電話越しに跡部の溜息が聞こえた。

『日南』
「はい!」

呼ばれた名前に思わず肩を跳ねさせる。

『お前はもう氷帝の生徒だ。会場に来た以上は俺達の実力を知っていようといまいと試合を見に来るのが普通だろう』
「……」
『余り他校の選手に入れ込むな。……何処の馬の骨に興を引かれたのかは知らないけどな』

一方的に通話が終了すると苦悶の表情を浮かべて青学の面々に「すみません。いきなり押しかけてなんですが用事あるので、失礼します」と頭を下げて出口まで走り去っていく。
その背を見て越前が「何しに来たんだか……」と零すが、少しだけ顔を見れて安心したような気がした。
そして思う。テニス部に入ったって事はあの人ももっと強くなる。強くなったあの人とまた試合をしたい。キャップのつばを指で挟んで越前は口元を微笑ませた。

「風鳥 日南、風鳥 日南……あぁ、思い出した」
「どうかしたのかい、乾」

乾が何度も日南の名を呟いている事に河村が疑問に思い、声を掛ける。

「いや、何処かで聞いた事がある名前だと思ったんだが、今漸く思い出したよ。風鳥 日南。ドイツ出身でプレイスタイルはオールラウンダー。利き腕は右。所属校は大坂・四天宝寺中。男子テニス部マネージャーで2年生。今は女子テニス部に在籍こそはしていないが小学生の時に関西女子ジュニアや、それ以前ドイツを中心にヨーロッパの大会で活躍していた選手だよ。そして彼女の兄は以前手塚と試合をした経験がある、風鳥 眞尋」
「女子のデータまで……」
「非常に興味深い試合をするから少し、ね」

乾の眼鏡のフレームが白く輝きを発した。
しかしその他所で堀尾やカチロー達が乾と日南の言葉の矛盾点に気が付き言葉を零す。

「大坂・四天宝寺中?」
「でもあの人さっき氷帝学園って」
「あの人、数日前に転入してきたんだって」
「何なのよあの女!リョーマ様と馴れ馴れしく話しちゃって!しかも仲良さ気で羨ましい!!」
「朋ちゃん、落ち着いて。ね?」

ぶっきらぼうにそう言った越前の声に「へー」と三人は声を合わせる。
しかし、試合観戦しにきていた小坂田 朋香が敵対心剥き出しで声を呻らせ、隣に居た桜乃がいつもの如く諌めるのだけど。
ちょっとあの人羨ましいな。桜乃は遠ざかって行く日南の背を見て密かにそう思う。
そして「私もテニス上手になってリョーマ君ともっとお話できる様に頑張らなきゃ」と意気込んだ。


2016/03/15