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声援

「んんー、どないしようかな……」

白石は部屋でずっと悩んでいた。
現在の時刻、22時5分前。左手には開きっぱなしの携帯電話をずっと握り締めている。
あの日以降中々日南と電話で連絡するタイミングがつかめなかったから。
それどころか家に着いたらメールも打つ気力も無くなるし、学校で打とうと思ったら言葉が思い浮かばない。それに、メールフォルダを開いていたら謙也やらクラスの女子やら誰やらが寄ってきて集中も出来ないし、日南にメールを送るのが段々恥ずかしくなってくる。

「もう、寝とるかな」

ベッドの上にごろんと寝転がると机の上に置いていた写真立てがベッドの上に落ちた。
そんなに衝撃が出るような転がり方なんてしていない筈なのに。そう思いながら写真立てを手に取る。
中に入れている写真は昨年の全国ベスト4敗退時の、記念に全部員で撮った写真で。
ベスト4は悔しかったけど写真を撮る時は笑顔で賞状を掲げている自分の隣に、みんなの事を気遣ってか、それとも素なのか解らないけど「お疲れ様。みんな、めっちゃ格好良かったよ!」と笑顔で言ってくれた日南が居る。
その時の事を思い出して自然に笑みが零れる。いつも日南は、白石の傍で白石の事を支えてくれていた。
でもそんな彼女の事でも解らない部分が多々ある。

「日南って、俺の事どう思ってるんやろ」

普段から日南は白石の事を「優しくって、格好良くって、頼りになる先輩」と言ってくれていたけど、それは先輩と言う立ち位置に居る白石の事で白石 蔵ノ介本人に対しての評価ではないと、そう思っている。
日南は、自分の事を男としてみてくれているのだろうかと、そう考えてしまう。
後輩として。マネージャーとしての日南の事は勿論大好きだけど、一人の異性として風鳥 日南の事を好いているからそんな事を考えてしまうのだろうけど。
聞きたいけど、聞くのが怖い。もし、日南が他の男が好きだったら……そう思うとショックだ。

写真立てを机の上に戻すと携帯電話も畳んで机の上に置こうとする。
しかし、あと数センチで机に携帯電話が触れると言う所で、白石の手の中で携帯電話がメロディーを奏で始める。メール着信で設定しているメロディーだ。
すぐに携帯を開いて内容を確認すると、白石の表情は段々破顔していく。

「日南……!!」

メールは日南からで。メッセージ欄には『来週から府大会だよね。頑張って!めっちゃ応援してるから!』と日南らしいメッセージが書かれていた。
みんなに送っているメッセージかもしれないけど、それでも日南からのメッセージだと思うと嬉しくなる。
指はすぐに返信の言葉を綴り、携帯の画面が文字の羅列で埋まっていく。
でもああでもない、こうでもないと上手く言葉が纏まらなくて文字を消しては打ち込んでの繰り返しだ。
結局メールが完成した時はシンプルに、文字数少なく『おん!当たり前や!絶対負けへんわ』とだけ書いて送信する。
するとすぐに返信が返って来る。『解ってる。だって、みんな強いもん!おやすみ』と簡潔に、でも、みんなに信頼を寄せた言葉が返って来る。
電話の向こうで日南がどんな顔をしてメールを返信してくれているか、目蓋の裏で思い浮かぶ。きっと、いつもと変わらない笑顔で打ってくれてるんだろうな、と。
『おやすみ』とだけ返して、白石もベッドに潜り込み、眠りに就いた。


===============


「おはようさん、白石!」

朝、教室に向かう途中背後から謙也が元気良く挨拶を掛けて来る。
背後から肩に腕を乗せられるのは毎日の事だ。
特段嫌だという事は無いから別に構わないし、謙也の明るい人柄が伺える。

「ん、おはようさん謙也。何や、相変わらず朝から元気やな」
「まあな」
「謙也のトコにも日南のメール届いたんか?」

謙也の事だから多分日南関連で機嫌を良くしてるんだろうな、と白石は考える。
去年からそうだ。日南と一緒に居る時はテニスをしている時並みに生き生きとして、元気が良い。気がする。
それに謙也が日南の事を強く推挙するからマネージャーに誘って見た訳で。
謙也の日南に対してのそれはどう見ても日南の事が好きだと言う事が見て取れた。
しかし、白石の言葉に謙也は「は?メール?」と声を上げた。

「メールって何やねん。俺最近日南ちゃんとメールしてへんで」
「え?」
「も、もしや白石!日南ちゃんとメールでやり取り……」
「え、あ……いやな、昨日の夜一週間後の府大会頑張ってってメール来たんや」
「何やて?!」

たったそれだけの事なのに謙也はオーバーリアクションでその場に崩れ落ちる。
日南からメールが貰えなかったのがそんなにショックだったのか。
「何や、俺にしか送ってなかったんか」。そう思うと同時に、謙也には悪いけどより一層嬉しさが湧き出てくる。
何だか今日一日何か悪い事が起きても挫けないで頑張れそうだ。

「謙也、そないに落ち込まんでも日南は自分達の事も気に掛け取るから。きっと全員にメール送るのは辛かったんやろうな、夜やったし」
「……そ、そうやな!よっしゃ、今日俺からメールしてみよ!」
「せやせや。日南、きっと喜ぶで」

励ましの言葉を掛けると謙也は「せ、せやな!」と、嬉しそうに、でもまだ動揺を隠せないまま頷く。
謙也は白石にとって良い友達であり、共に研鑽し合い全国を目指し、日南に恋をしている好敵手ではあるけど、謙也がどれだけ日南の事を思っているかを知っているからついつい励ましてしまう。
尤も、普段の言動から見ても謙也は白石が日南に恋心を抱いているとは思っていないみたいだけど。その逆の日南の気持ちは知っているみたいだけども。

「でも、日南ちゃん、元気でやっとるんかな」
「? 従兄弟君クンから様子教えてもろてないんか?」
「ん……まぁ、な。最近練習練習で余り時間合わなくてなぁ。氷帝も今年こそは全国制覇目指して猛特訓してるみたいやからな。俺らも負けてられへんわ」

急に真剣な顔でそう告げた謙也に白石も真面目な顔で「せやな」と頷く。
今年は超1年生の金太郎が入部してきたし、それに九州二翼の千歳も転入してきた。
何も戦力はこの二人ではない。石田のパワーは更に重みが加わったし、小春と一氏のコンビネーションも更に深まった。財前も昨年テニスを始めたとは思えない位のテクニックを身に着けているし、謙也のスピードも瞬発力もより速く、柔軟な物になった。小石川だって苦手な部分を克服し自身の研鑽に勤めている。
そして、白石自身昨年の全国大会ベスト4敗退と言う悔しさをバネに更に基本を突き詰めて、テクニックを、己自身を磨き上げてよりテニスの高みへ上り詰めている。自分でも、そう感じている。
全ては、今年の全国大会優勝を掲げる為の努力だ。
どの学校も、毎年全身全霊で勝利を掴みに全力を尽くしに来る。
だからこそ、楽しいのだけど。

「白石」
「何?」
「今年こそは全国、優勝しような」

謙也は力強く、意思を告げる。
勿論、白石も同じ事を考えている。
昨年、果たせなかった優勝を今年こそ成し遂げてみせる。一緒に戦ってきた前部長の原や、他の先輩達の思いを引き継いで。
"勝ったモン勝ち"。四天宝寺が掲げるスローガンの文字通りに。

「当たり前や。何たって俺らのモットーは?」
「勝ったモン勝ちや!」

人が疎らな廊下で談笑を零している内に教室に着いた。
中に入ってバッグを机の上に置いて1限目の準備を早々に始めていると謙也が「せや、白石」と
そそそと近くに寄ってくる。
そして顔の前で勢い良くパンっと手を合わせると「頼む!」だなんてお願い事をしてくる。
もしかしたら、「また宿題忘れたから見せてくれ!」のパターンか。そう思うと失笑する。
この導入の仕方からしてきっとそうだろう。毎度の事だから大体のパターンは見えている。
しかし、今日はそうではなかったらしい。

「宿題なら今日は見せへんからな」
「宿題やないわ!昨日確実に家でやってきてるっちゅーねん」
「? なら何?」

宿題じゃないとしたら何だ。首を傾げると柄にも無く顔を赤くしてもごもごと口ごもる。

「その、日南ちゃんの……」
「日南の?」
「日南ちゃんのメール、差し支えなくれば見せてください!」
「なんや、メール見たかったんか。ちょお待ってや……」

スラックスのポケットから携帯電話を取り出すとメールの受信フォルダーをすぐに開いて謙也に見せる。
謙也の目は爛々と輝いていて、携帯を受け取ると食い入るように日南が綴った言葉の羅列を見詰めている。

「(ホンマに日南の事、好きなんやな)」

頬杖をつながら、そんな事を思う。謙也にはまだ知られていないとは言え、恋愛面では好敵手にはなるのに呑気だなとは思うけど。
すると「ん?何や、続きある」とぼそりと、謙也が呟いた。

「続き?そんなんあったか?」
「おん。ええっと何なに?『蔵ノ介さんや、大好きなみんなが全国優勝出来る様に東京から祈っています』……やって」
「!!」
「ホンマ優しい子やなぁ、日南ちゃん。流石俺らのマネージャーや。ん?どないしたん、白石」

謙也が読み上げた最後の一文に気がつかなかったけど、謙也が言ったように本当に優しい子だと思う。
何気ない、たった一言の言葉なのに顔に熱が集まる位嬉しく感じるのは何故なのだろうか。

「白石ー?おーい、大丈夫か?」
「謙也……、今日の練習メニュー、少し増やしてもええかな」
「は?!……別に俺は構へんけど、財前やユウジ辺りがぼやくやろうな。ま、このメール見せたらやる気出してくれるやろうけど」

全国優勝に向けて頑張っているのが当たり前な毎日だけど、いつ戻ってくるか解らない、でもこうして応援してくれる日南の為にも更に頑張らなくちゃなと思うと俄然やる気が漲る。
白石の言葉の意図を察してにかっと笑う謙也に「やろ?」と返す。
みんな、何だかんだ言って日南の事が好きだから。
案の定、その日の練習は普段よりも一段と士気が上がった。


2016/03/13