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▼ 不感症な唇

※死ネタで狂愛


 白い陶器製の棺の中には、棺の色に反する真赤な薔薇が敷き詰められていた。
 そしてその薔薇の中に埋もれる様に、白いドレスを纏った少女が眠っている。
 薔薇は、彼女を象徴する花だ。彼女の斬魄刀は薔薇の名を冠し、帰刃すればその姿は艶やかな大輪を咲き誇らせる。きっと、破面一美しい帰刃だろうとザエルアポロは思っている。
「やぁ名前。今日も綺麗だね」
 ザエルアポロは棺のすぐ側に膝をつくと、中を覗き込み名前の髪を弄る。
 その表情にはいつもの狂気を孕んだ冷静さはなく、ただ淋しそうに笑っていた。
 薔薇の刺が手袋を裂き、手の甲が少し切れたけれどザエルアポロはそんな事は全く気にも止めない。
 そんな事よりも、名前がこんな状態になっても気付けなかった自分に腹を立てていたからだ。
 名前は棺の中で眠っている訳ではない。何者かに殺されたのだ。
 腹を抉られ、脚の骨を折られ、内臓の殆どは潰れ。その挙げ句の果てに汚いゴミの如く捨てられていた。
 これが他の従属官であればザエルアポロも「所詮は下等種」と言ってさっさとその場を片しただろう。
 しかし名前はザエルアポロにとっては唯一とも言える、大切な従属官だった。
 自分の理想、思想、言動を理解してくれた破面。だからこそ名前を従属官として従えていた。
 かけがえのない存在だから、大切にしていた。
 ボロボロに砕け、崩れ、壊れて汚れきった名前の屍を直ぐ様自宮に持ち帰り、あれやこれやと手を施した。
 しかしもう既に死んでいる名前が息をき返す筈もなく、身体にはツギハギだけが残った。
「君だけは僕の傍にずっと居るって言ったのに。何故君は死んでしまったんだい?名前」
 血の気の失った青白い頬に指を滑らせると、嘲笑を含んだ乾いた笑い声を零す。
 あぁ、狂気を司る破面のクセに自分は割と一般的な人間共て同じ正常な思考を持ち合わせているのか。なんとも中途半端で滑稽なのだろうと。
 そして何より名前が死んで解った真実にも笑ってしまった。
 名前はただ単に友人に近い感覚の従属官だと思っていたのに、自分が彼女に恋をしていたと云うことを。
 そして、愚かな人間のように彼女を愛していたことを。
 そうすれば名前を必死に修復しようとした事も頷ける。
 端から見たら滑稽だっただろう。虚圏きっての天才であり、狂気に塗れた自分が、ただ数字を持つだけの平凡な破面を愛している姿は。
 頬を撫でる手をゆっくりと唇に移せば、柔らかく温かい感触などはとっくのとうに消え失せている。
 これが死か、思わず確認してしまう。
 破面は所詮、虚が高度な生命に昇華したに近しい生物なのに。
「名前……」
 壊れていく。自分の人格が。
 正常に向かって壊れていく。
「僕は君の事が……」
 このまま壊れて正常≠ノなってはいけない。
 しかし彼の唇は別に意志を持った様に言葉を紡ごうとする。
 そしてそれは遂に音を、言葉として発信してしまった。
「好きだった」
 壊れた生命に口付けても、何も反応は無い。
 何故ならその唇は不感症なのだから。ただただ冷たく、熱を奪ってすぐに冷えてしまう。そんなものでしかなかった。

end.

お題配布元「Aコース」