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▼ Sleeping Time

 最近、ザエルアポロは休息をきちんととっているのか、と思う。
 別に破面は人間と違って睡眠を取らなくてもいいのだけど、宮の中で会ってもふらふらしているし、研究室には常時明かりが点いていて眠っている様子もない。明らかに疲労が蓄積されている様子で心配だ。
 ザエルアポロにバレないように、彼が嫌う、彼の兄・イールフォルトに相談を持ちかけても「アイツはああいう奴だから仕方が無い」と言って片付けるからアドバイスにもならない。
 本当に仲が悪い兄弟だと名前は肩を竦めた。
 ただでさえもやしみたいに細い体をしているのだから、もし倒れたら……なんて思うとゾッとする。
 あぁ、どうやったら彼は体を休ませてくれるだろうか。
 唯それだけを考えるのが名前の日課と化していた。
「もしかしてS気質だけど体質はM?」
 なんて下らない事を小声で言っていたら研究室のドアが開いて、名前の体はびくりと跳ね上がった。もし誰かに聞かれていて、告げ口されたら一体何をされるだろうか。
 しかし、それは杞憂だろう。ザエルアポロは基本研究室には誰も入れない。それが例え火急の知らせを運んできた従属官だとしても、だ。
 全ては研究室手前、今現在名前が居る所謂リビングの様な部屋で済まされる。まぁ研究室を見たい、なんて言う稀有な破面など居やしないのだけど。
「ザエルアポロ?」
 研究室のドアが開いた事でザエルアポロが出てきたと思って、名前はソファから立ち上がり、研究室の方へ歩く。
 研究室から出て来たザエルアポロは相当不機嫌そうだった。名前の研究に夢中で眠っていないだろうと云う予感は的中していたのだ。
 眠たそうに欠伸をするザエルアポロが目の前に居る。そしてその目の下には、若干濃いめの隈が出来ているのを名前は見逃さなかった。
「……もしかして、また寝てない?」
「見れば解るだろう?」
 さも当然な事を聞くな、と言いた気なとげとげしさを感じる口調に名前は溜息を吐いてしまう。
 名前はとりあえずザエルアポロの為に研究の労いの意味を込めてカモミールティーを淹れに行った。
 カモミールティーを盆に置きリビングまで戻ってくると、自分にできる事がこれ位の事しかない事に気付く。そう思うと何故か悲しくなった。
 ティーカップにカモミールティーを注ぎ、差し出す様にテーブルに置くと、ぐったりとソファーに座っていたザエルアポロはほんの少し警戒しながらティーカップに口付ける。
「何だこの茶は?」
「あぁ、それ?カモミールティー。安眠効果があるんだって。まぁ、人間達にとっては、なんだけど」
「ふーん」
 疲れている所為か、ただ単に興味が無いのかつまらなさそうに返事をする。まだ返事があるだけまだ良い方なのだけど。
 しかし一口、また一口とザエルアポロはカモミールティーを飲み進める。そして眠たさが限界に達したのかうつらうつらと舟を漕ぎ始めた。
「眠るの?ベッドまで行ける?」
「疲れている僕に歩けというのか?……名前」
「ん?何?」
「膝枕をしてくれ、もう無理だ……」
 そう言うとザエルアポロはごろんと横になり、名前の膝に頭を乗せる。
「え?あ、ちょ……! 寝ちゃった」
 恥ずかしさから名前は顔を赤く染めたが、ザエルアポロはすぐに寝息を立てて眠ってしまって。
「おやすみ。ザエルアポロ……」
 ミルキーピンクの、ふわふわした髪を指先で撫でる。
 しかし、アレだ。こんな風に寝息を立てて眠っているザエルアポロなんて珍しい。こんなレアなものを見れたなんて明日はきっと虚圏中大雪だろう。と、思ってしまう。虚圏に雪が降ったことなんて有りやしないけれど。
「ん……」
「! 何だ、寝言か」
 もぞもぞと動くザエルアポロの頭を撫で、名前は微笑む。それは、ザエルアポロが体を壊す前に休息してくれた事に対し嬉しさを感じたからだ。
 そんな時、同じNo.8従属官のルミーナとベローナがぴょこぴょこ跳ねながらやって来た。
「名前、名前。笑ってる!」
「ザエルアポロ様、眠ってる。名前、嬉しい!」
「二人共、静かにしてね?」
 人差し指を口元に「しーっ」とすると二人はまた、ぴょこぴょこと跳ねていく。
「ふぁぁぁ……」
 安心したからなのか、名前の身体にもどっと疲れが押し寄せる。
 そしてそのうちに先刻のザエルアポロの様に、うつらうつらと舟を漕ぎ始めた。
 いつの間にか名前も睡魔に負けて眠りにつく。
 部屋にはただ、2人の破面の穏かな寝息だけが響いていた。


end.

2014.11.25