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▼ サカナ

※そこはかとなく病んでる


今日も入り浸るように臨也の部屋に行く。
その姿は端から見たら恋人同士、また端から見れば中毒者のようで滑稽なものだった。中毒者、というのはあながち間違って居ないかもしれない。名前には臨也しかいないのだから。
臨也に求められれば人を騙す事も、殺す事も躊躇なく出来る。出来なければ臨也に捨てられてしまうかもしれないから。倫理観も、道徳感も既に何処かへ消え失せていた。
でも名前はそんなことは気にせず、ただ渇望する様に臨也の元へ行く。そして臨也も臨也でそんな名前を受け入れていた。
正確に言うと臨也がそうなる様に名前をコントロールしで現状まで導いた。戯れに彼女を愛してしまったから。

「名前、愛しているよ」
「……本当に?」
「あぁ、本当さ。もうどうしようもない位好きで好きで好きで堪らない」

耳元で囁き、優しく体を抱き締める。いつも会う度するお約束だし、もう幾度も無くベッドの上でも抱き締め合った。
互いに相手を求めて求めて求め合い、そうして共に様を過ごす事すらある。きっと今日もそうなる事だろう。
でも、名前は瞳の色を悲しげに俯かせて、唇を恐怖に戦慄かせる。

「でも、そう言って臨也くんはいつか私を見捨てるよね」
「さぁね。でも名前にはそんな事しないと思うけど」
「嘘ばっかり。何時もそう言って興味が無くなれば捨てるでしょ?」
「……本当に痛いトコ突くなぁ、名前は」

ケラケラと純真な子供の様に臨也は笑う。
名前は臨也の腕に抱かれ、戦々恐々と彼の言葉を待っていた。臨也に捨てられたらどうしたらいいかわからなくなってしまうからだ。

「でも俺は名前を手放すつもりは毛頭無いよ」
「?」

臨也がそう言えば名前は意味が解らないと云わんばかりに首を傾げた。

「俺が欲に従順なのは名前も知ってるよね?」
「うん」
「だからさ」
「……意味が解らない」
「解らなくて良いよ。今は、ね」

妖しく笑う姿にすらくらくらする。
そして、気付く。自分が臨也に"重症"な位に依存してしまっていると。
こんな事実を臨也を殺したい程憎んでいる兄が知ったらどんな表情をするだろう。軽蔑するか、侮蔑するだろうか、罵倒するだろうか。それとも悲しむだろうか。
静雄の事は家族として、兄として大好きだ。だからこそ悲しませたくはないのだけど、自分の気持ちを隠したりはしたくない。

「ねぇ、名前。俺から離れたら、解ってるよね?」
「解ってるよ、その位」

臨也の腕に抱かれたまま、静かに瞼を閉じて思う。
そう言うのを解っていて、貴方は甘い睦言の様にそう言う。
サカナは水が無いと死んでしまうことを知っているのに。私が貴方無しじゃ、もう駄目なのを知っているのに。
もう一層私の足を掴んで引っ張って水底に沈めて窒息死させてくれれば良いのに。そしてそのまま私の事を取り込んで、次の獲物を誘えば良い。
だって、大好きな貴方に"利用"されるのが私の望みで、唯一感じられる"愛"だから。私が貴方を望んでいられる唯一の"証"だから。
そうやって利用して利用して利用し尽くしてから貴方のその手で直接私を殺してね、臨也くん。
貴方以外の水は要らない。だから貴方に殺されたいの。
"歪んでいる"?だってこれは歪んだ恋の物語

End.