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▼ バニラキス

秋ももう終わるというのに…、名前はそんな事を思いながらコンビニを後にした。
右手に持ったコンビニのビニール袋の中には大量のカップアイス。
夏の間、あんなに沢山食べたのに!寒い秋から冬の間はアイスの"ア"の字も見たくないのに。
寒くなったら寒くなったで急にアイスが恋しくなった。
この時の名前の服装は少し厚めのジャンパーに、首元にマフラーを巻き、フェルト生地の手袋をはめて。
しかしコンビニで買ったのは大量の、季節外れなカップアイス。
コンビニの店員が怪訝そうな顔をしてレジ打ちしていた理由は明らかにミスマッチな組み合わせの所為だろう。

「(まぁ、いいや。食べたいから買ったんだし)」

うん、と一人で頷き納得するが、矢張り買い過ぎただろうか。
ビニール袋がかなり重たい。季節外れな、寒い時期にたくさんの新商品を出すアイス業界にも非がある!なんて理不尽極まりない事を思うけど、新商品が出ていたら好きかどうかを確かめるために買ってしまうのは性のようなもので。
名前は嬉しさで顔を綻ばせながらルンルン気分で歩きながら自宅へ帰るもドアの前で感じた違和感でルンルン気分はどこかへ去っていってしまった。
家の中に誰かが居る。コンビニへ行く前、つまりは家を出た時はちゃんと鍵は閉めた筈だ。
スペアキーに至っても兄である静雄と幽以外には渡していないし、何かあって名前の部屋を訪ねる時は二人とも前もって連絡してくれる。
ずっとケータイをマナーモードにしていたから気付かなかっただろうか。そう思ってケータイを確認しても連絡一つ入っていない。
これはもしかして、ひょっとしたら泥棒さん、かもしれない。
名前が身構えてドアノブに手を掛けようとしたその時、ガチャリとドアは名前の目の前で開いた。

「名前、遅かったね」
「……遅かったねじゃないよね。臨也くん」
「うわ〜、名前のほっぺた真っ赤!」

人の話を聞かない不法侵入者を思い切り睨めば「怖いな〜」と云う軽口が返ってきた。
目の前の彼・折原 臨也が人の話を聞かないと云う事は名前も重々承知していたからもう何も言うまい。
少しだけ出た疲労感を感じつつも、名前はリビングの奥にあるキッチンへと向かった。
アイスが溶けてしまう前に冷凍庫にしまわなければならない。部屋の中が暖房で暖かくなっているから尚更だ。

「あ、チューハイも買ってくれば良かった……」

冷凍庫にアイスを仕舞ながらふと思った。
臨也が来ているなら酒の一つは用意しておけば良かった、と。アポイント無しで来た人間にそこまでしてやる義理もないのかもしれないのだけど。
しかしもう一度寒い外に酒(と肴)を買いに行く気力などは名前には無かった。
臨也は臨也でリビングのソファーに座り、自宅の様にくつろいでいる。TVから流れる音からして映画、洋画の恋愛モノだろうか。
それだけを考えて名前は淡々とアイスの山を冷凍庫に仕舞うと袋に残ったアイス、バニラアイスとシルバーのスプーンを一匙持って臨也がいるリビングへ戻った。
臨也のすぐ隣に座ってカップの蓋を開ければバニラアイスの表面が小さい氷の粒でキラキラと光っている。
表面をスプーンで掬い、口に運べばバニラのほんのりとした甘さとアイスの冷たさが口いっぱいに広がる。

「ん〜!!やっぱり美味し〜」
「……もしかして名前さぁ、出掛けてると思ったらアイス買いに行ってたの?」

映画を見ていた臨也が、アイスに舌鼓を打つ名前の反応に対して少しだけ怪訝そうな顔をした。
コンビニの店員といい、臨也といい、冬にアイスを食べてはいけないとでも言いたいのか。
でも名前はもう一度アイスを口に運んで嬉しそうに微笑む。

「別に冬にアイス食べちゃいけないなんて法律も掟もないでしょ?」
「確かに無いけどさ。オレも時々買っちゃうしねぇ……。と、云う訳で」

「あーん」とか言いながら臨也は口を開く。何が「と、云う訳で」なんだろうか理解出来ないけど。
名前が仕方無しにもう一つ、バニラアイスを取りに行こうと席を立ったら臨也に腕を引っ張られた。

「名前が今食べてるヤツ、食べさせてよ」
「え〜」
「一カップも食べないしさ……。ホラ、早く」

もう一度口を開く臨也に対して、名前は渋々と臨也の口へアイスが乗ったスプーンを運ぶ。
これではまるで雛鳥に餌をやる親鳥だ。
臨也の口へアイスを滑り込ませれば、少し不満そうな顔をした臨也に名前は押し倒された。

「ちょ、臨也くん?」
「そうじゃないって」
「は?」

言葉の意味が解らず名前は困惑する。
そうじゃない、と云うのはどう言った意味だろうか。
新婚の夫婦みたいに「あーん」と、こちらも言えと言う事なのだろうか。
そう思っていたら唇に冷たいものが当たり、唇を反射的に開く。
すると臨也がニヤリと笑い、名前の口の中に冷たいものを滑り込ませた。
それは名前が食べていたバニラアイスで。少しだけあたたかくなっていた名前の口の中てじんわりと溶けていく。

「オレはさ、こういう風に食べさせて欲しかった訳」

そう言うと臨也の顔が近付いてくる。
名前は咄嗟に羞恥で目を閉じたが、それはあまり意味が無い行動だった。唇が触れ合ったと思ったら、臨也の舌が唇を割って侵入してくる。
これでは"食べさせる"ではなく"食べられる"ではないか。
羞恥で赤くなった顔から臨也の顔が離れた時には口の中にあったアイスは全て舐め取られ、バニラの味が少しだけ残っていた位だった。

「ご馳走様」

舌を舐めずり、不法侵入者はそう言った。
そして名前の唇に人差し指を当て妖艶に微笑んでみせた。

End.

お題配布元「ポケットに拳銃」