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▼ 人間みたいに恋をしちゃって

※夢主は蝶の呪霊/自己投影はかなりキツイ口調


「人間は好かぬ」
 いきなり膨れっ面で、唐突にそう告げた名前に真人はきょとんとして。彼女が唐突にものを言うのが珍しいからだ。
「どうしたのさ、名前。俺も人間嫌いだけど」
「何故彼奴等は花を愛でる癖に森を壊すのか理解が出来ぬ!真人!お前はどう思うかえ?!」
 名前の言葉に「あぁ」と納得する。
 彼女がここまで荒れる理由なんて一つしかない。
(あ、花御関係か)
 名前は呪霊でありながら、同じ呪霊である花御の事を好いている。それは彼女が人間に翅をもがれ、バラバラになって死んだ蝶達の怨念だから、森林・樹木の呪霊である花御に惹かれているみたいだけど、真人にはよくわからない感情だ。確かに名前の事を好きか嫌いかで聞かれたら好き≠ニは答えられるけど、それが彼女が花御に対して抱いているそれと同じかはさておき。
「それは俺も理解出来ないけどさ、別に愚かな人間の考えなんて理解出来なくていいんじゃない?」
「じゃが……うぅ……花御殿が心を痛めておる」
「名前って変なとこで人間臭いよね」
「止めよ、怖気が止まらんわ」
 本当に嫌なのか名前は眉間に皺を寄せながら、腕を摩る。そういう仕草も人間と同じなのだけど、無意識なのだろうか。
 尤も、人間と同じ姿形をしていて、人間が居なければ生まれることも無かった自分達が言えた義理でもないけどだろうけど。
 きっとこの場に漏瑚が居たら名前と口喧嘩でもしていそうだ。二人が口喧嘩している所なんて見た事がないから、見てみたいだけなのだけど。
 すると件の花御が、のそりのそりと真人と名前に近付いてきて。
『名前、真人。楽しそうに話していますが、何の話ですか?』
「花御殿!」
 なんてわかり易い。真人はそう思う。
 花御がやってくるや否や名前は目をキラキラさせて花御に振り向いたからだ。心做しか人間の小娘のように頬を染めているようにも見える。
 そんな名前を見て若干のつまらなさを覚えながら、真人から状況を説明する。
「名前曰く花御が心を痛めてるって話」
『私が?』
 まさか自分の話だと思っていなかったのか、花御は首を傾げてみせて。
「真人?」
 しかし、名前は珍しく真人に向かって眼光を鋭く光らせる。
 名前を呼ばれただけではあるけど、その中には「余計な事を言うでないわ、痴れ者が」なんて副音声が着いている気がする。
「名前こわぁい」
 おどけてみせると名前は小さな溜息を吐いた。
『話の流れがよく掴めませんが……名前は私を安んじてくれるのですね。呪霊でありながら、仲間想いで優しいところが貴女の美点ですよ、名前』
「はうっ!」
『?!』
 急に胸を抑えて仰け反る名前に花御は驚いて、それからあたふたと『何処か悪いのですか』なんて声を掛けているけれど、それが名前にトドメをさしているということに気付いていないらしい。花御らしいといえばらしいのだけど。
 今度は真人が小さな溜息を吐いて。
「……花御、本当鈍いよね」
『なんの事です?』
 一体なんの事か、状況を呑み込めずにいる花御は名前を介抱しながら訊ねる。名前はと言うと至福の笑みを浮かべて気絶していた。呪霊も気絶するんだなと思うといよいよ人間みたいで嫌だけど。
「花御、夏油と漏瑚が戻って来る前に名前を何処かに寝かしてきたら?」
『そうですね。名前の沽券にも響きましょう。彼女は気高い呪霊です。この姿を見られるのに抵抗もあるでしょうし』
「ん」
 一言だけ返事を返して森林の奥へ向かう花御に手を振る。一応夏油と漏瑚が帰ってきたら話を合わせて、はぐらかしておいてやろう。名前の為に。そんな事をぼんやりと、空を眺めながら思っていた。

    ===============

 花御は森林の奥の花畑へやって来て、その真ん中に名前を横たわらせた。彼女は蝶だからきっと花が好きだろう、そう思って。それに彼女は傷付くとよく花畑に来て体を癒していた。
(そう言えば、初めて名前と出会ったのは名前が傷を癒していた時でしたね)
 まだ名前が呪霊として生まれたばかりの頃。呪術師に追いかけ回されて、破れた翅を引き摺りながら彼女はこの地に逃げてきた。
 蝶は自然に生きる物だ。だから花御も、彼女が回復するまでこの地に留まる事を許可した。それは遥か昔の話で、人間達が言う単位では数百年前の話。
 すると寝返りをうったかと思いきや、「んん……」とくぐもった声を上げながら名前が目覚める。
「真人め、余計な事を」
『目覚めましたか?』
「! 花御殿!」
 目が覚めたと思いきや、花御の姿を捉えた名前はまた顔を赤く染めて。直ぐに正座で座ると、深々と頭を下げた。
「お恥ずかしい所をお見せして、何と言えば良いのやら……」
『気にしなくて構いません。私と名前の仲です』
「……花御殿のお優しい心遣いが身に染みます」
 微笑む名前に何だか胸が温かくなった気がして花御は不思議そうに頭を項垂れさせて。
『?』
「いかがなさりました、花御殿?」
『いえ、なんでもありませんよ名前』
 それから名前の頭を撫でる。
『良くなったのであれば真人の所に戻りましょう。漏瑚達も時期帰ってきますから』
 立ち上がると名前の手を引っ張り上げて、そのまま肩に名前を乗せる。思ってもいなかった行動に名前は顔を真っ赤にして、珍しく声を荒らげた。
「はな……っ、花御殿!?」
『懐かしいですね。貴女が産まれたばかりの頃はこうして肩に乗せていた事を思い出します』
「……一体何時の話をなされておるか!」
 そうはいいつつも、そんな昔の事を覚えてくれている花御の事が矢張り好きで堪らなくて。だからこそ自然を破壊する人間が許せない。
「花御殿」
『何でしょう』
「妾達の手で愚かな人間達を排除し、また美しい緑を増やしましょうぞ」
『……ええ、そうですね』
 花御の回答に名前は嬉しそうに微笑みを浮かべた。


2020/02/27