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▼ 好みのタイプはいないのか

※教師と生徒の婚姻関係


「……」
「?」
 じーっと見詰めてくる呪術高専の女生徒、もとい婚約者に目隠しを外す。今までこんなに熱烈な視線をくれた事がないからだ。
 しかし、青い六眼で彼女を見つめた途端、女性とは思えない顔になって。
「……チッ」
「なんで舌打ち?!」
 自分に対して当たりが強い事は重々承知しているし、まだまだ子供なんだな、強がりだなと思って接していたけど、いきなり舌打ちされるのは幾ら五条でも傷付くもので。
 しかし、名前の言葉は意外その物だった。
「完璧だなぁ、って思って。性格破綻してるけど」
「外見と年収良ければそれで良くない?」
「ストレス溜まるから無理」
 キッパリと切り捨てた名前に若干のショックを抱きつつ、でもそれでも自分から隣に来てくれる事を思い返してニヤけてしまう。ニヤけたらニヤけたで「ニヤけないでくれる?」と睨まれてしまったけど。
「でも名前は一緒にいてくれるよね。悪態ついても何だかんだ言って僕のこと、好きなんでしょ」
 そう告げると重たく、長い溜息が聞こえてきて。
「何で悟と婚姻関係なんだろ。死にたくなる」
「そこまでショック受けなくても良くない?!流石に僕の方が傷付くからね?!」
 すると名前はまたジト目で五条を見つめて、それから頬杖をついた。
「だいたい私はまだ高専生で十九歳。悟は二十八歳。どういう勘定したら私達が婚姻関係になるかわからない。というか、今時婚姻関係とか時代錯誤甚だしいっていうか」
「えー?僕は構わないけどなぁ」
 目の前で目隠しをした男はケラケラ笑っていて。確かに五条は見た目も若々しいし(術式のお陰だけど)、下衆な性格はしてるけどそれなりには優しい。それは名前も認めるところだ。
 しかし、五条の気持ちはどこにあるのだろうか。名前はそれを測りかねていた。そもそも婚約者がいるとはいえ、三十手前の男性に彼女がいないというのも気になる。
「スタイル良しの美人には惹かれないの?冥冥さんとか」
「んー、別に」
 ぼんやりと「冥さんが美人なのは認めるけどさぁ」なんて。
 因みに関係ないが名前の憧れは冥冥だ。胡蝶蘭のような美しい佇まいに、凛然とした性格。前髪でかくしているけれど顔かたちも人形のように端正で、美しい。それでいて大きな斧を振り回すパワフルさもある。何よりも強さに憧れる。
 そんな冥冥と五条が並ぶと絵になるし、何よりも世界最強美男美女になるのでは?と思っている。しかし、冥冥がダメというのはなんという高望みだろう。
 そもそも名前は五条が好きな女性のタイプすら知らずにいて。確か学生時代も彼女といった存在はなかったように記憶してる。
 家の、家長同士が決めた婚約者が居るのに彼女を作るのも関係に罅が入るから普通はしないだろうけど。
 そうなると五条の好きな女性のタイプが気になって。名前は少しだけ笑みを浮かべて、少しばかり五条の事を詮索してみようと企んだ。
(あ、何か余計な事考えてるな)
 名前の表情の動きに五条も察する。
 でも、名前がなにかするなら付き合ってやるつもりではいるけれど。一緒にいる時間も少ないし、そういった戯れも必要だろう。
「歌姫先生は?」
「なしなし」
 そう言えば五条と歌姫は折り合いが悪かったっけ。五条は歌姫で遊び、歌姫が毎度それで怒る形だ。はたから見たら仲が良さそうなのだけど。
「んん……じゃあ」
 他の女性の名前を上げようとしたら目の前に五条の掌がぱっと現れて。五条の方を見たら、青い六眼で名前を見つめている。六眼には狼狽している自分の姿が写っていた。
 それから今度は五条が口を開く。
「あのさ、僕が婚約者だと不服?そりゃ、学生らしく彼氏作って恋愛して、青春感じて欲しいと思うけどさ。僕はお前が思ってるよりお前が好きなの」
「……は?」
 五条の思いがけない言葉に名前は目を丸くして、五条を見つめる。
 いつもは自分を子供扱いするのに。生徒の一人としか見ていない癖に。
 どうしてそういう事をこんな風に言えるのだろう。
「だから、このままの婚姻関係でいいというか。夫婦で呪術師って言うのも珍しくないし、幸せにする自信はあるよ?甲斐性はある方だと自負もしてるしね」
 金もあるし、外見も良い方だ。性格は自覚する程宜しくはないけれど。
 歯を見せて笑いながら頬杖をつくと、名前は頬をだんだんと薄紅色に染めていって。やがて諸々の感情に耐えきれなくなったのか、顔を俯かせる。
「……そういうとこだよ、馬鹿。好き」
「罵声は要らなかったかなぁ……」
 素直になれない子だというのをよく知ってるから許容出来る。そんな子供みたいなところが彼女の可愛いところで。
 早く名前が呪術高専を卒業してくれたら、大手を振って手を繋いだりできるのに。そんな日が来ることを五条は楽しみにしながら待つ事にした。


2020/01/16