他ジャンル短編 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ あの日君に言いたかった言葉

※2巻原作沿い


本当は卒業式の日に言いたかったのに、緊張してその言葉すら言えなくてそれからずっとうじうじうじうじしていた。
自分の気持ち二文字すら言えなかった所か携帯電話の番号とメールアドレスすら聞く事が出来なかった。
どうしようもない意気地なし。元々其処まで仲が良かった訳でもないし彼の性格を考えればもしメアドや携帯電話番号を教えてと言えてたとしてもきっと「何で」とあの吊目の青い瞳でそう言われるに違いないと今でも想像して勝手に萎縮している。
そんな様を見て同じクラスの国見が阿呆臭いと言いたげな、はたまた面倒臭そうな目で名前を見つめていた。何でそんな事位でうじうじ悩めるんだ、と。

「なんなら俺が教えてやろうか、影山の電話番号」
「何で影山君の事ボロクソ嫌いと言っていた君が番号知っているのかな、金田一君」
「いや、連絡網とかがあるだろ」
「普通は自宅電話じゃないの?」
「ケータイ持ってる奴が大半だから個人のケータイに電話掛けた方が早いんだよ」

他クラスから遊びに来ていた金田一とそんな会話をしていたら国見が小さく溜息を吐いた。そして呟く。「個人情報の譲渡は止めろ」と。
そして続け様に口を動かす。

「次の練習試合、烏野と試合らしいからその時聞けば?」
「! そうだ、名前。影山は烏野のに行ってるから運が良ければ話できるんじゃねえ?」
「良いのかな。私全くの部外者なのに練習試合の日に来ちゃっても」
「その辺はお前の兄さんに相談してみれば?1日マネとかでも歓迎されるだろ」

"お前の兄さん"と言う単語で「あ」と小さく声を溢すが果たしてあの兄が許可を出してくれるだろうか。兄が駄目なら幼馴染の主将に直談判する事も出来るが、彼も影山絡みだと気付くときっと「駄目」と爽やかな笑みを浮かべるだろう。
そもそも青葉城西男子バレー部は暫くの間、女子マネージャーは取らない事になっていると副主将である兄から聞いていた。主将・及川徹とお近付きになりたいだけの女子ばかりが入ってくるから、だそうだ。及川に然程興味が無く幼馴染であるだけの名前でもそれは例外ではないだろうけど。
しかしそんな事を考えていると金田一は名前を椅子から立たせ、休み時間が終わらない内に名前の兄・岩泉一が所属する3年5組の教室へ急いだ。


☆ ☆ ☆ ☆


練習試合当日。名前は専用のジャージを着て体育館でボール出しなどの準備を慣れないながらに頑張っていた。
あの後、兄に怒られる事を承知で1日だけでもマネージャーをやりたいと告げたらあっさりと「及川と監督に相談してみる」と言われ、その日の放課後、廊下を歩いていたらばったり会った入畑監督に「1日とは言わず是非とも」と言われ今日に至った。
体を動かす事は苦手だが、バレーは好きだし皆のサポートをするのも楽しい。それに今日は暫くぶりに片想いをずっと続けてきた影山を見られるという事で準備にも熱が入る。
そんな様子を相も変わらず国見は眠そうな目でじっと見つめていた。そして一通りの準備を終えた名前に近付き耳元で囁く。

「嬉しそうな所悪いけど影山の事応援出来ないの解ってる?」
「わ、わかってるよ!うん!!」
「……心の中で応援する分は構わないと思うけどな。そういえば金田一がさっき影山見たって。そろそろ烏野、体育館に来るんじゃない?」

「準備終わってるし少し席外す位は許されるんじゃない」とだけ告げて国見は踵を返し心がこもっていない「頑張れ」と言うおまじないをかけて行ってくれた。
だが体育館を出る前にコーチである溝口に未だコートに姿を現せない及川の事を聞かれ、確認で連絡をしたりと、中々影山に声を掛ける機会はなくなってしまい、ついに試合が始まってしまった。

試合は白熱。最初は青葉城西が優勢だったが結局は負けてしまった。それに"王様"と呼ばれ疎まれていた影山がチームの一員として試合をしている姿に名前はもっと影山を好きになっている事を感じた。
そして今、目の前にその影山が立っている。
これはいるかどうか解からない神様が与えてくれたチャンスかもしれない。買ってにそう思い、声が上ずる事を想定しながらも何か、何とか言葉を紡ぐ。

「ひ、久し振り、影山君!」
「おう、お前も城西に進学してたんだったな」
「うん。……影山君、元気そうで良かった」
「? 別に、何時も通りだけど」

名前の突拍子のない言葉に首を傾げるが取り敢えずは言葉を返す。そういえば中学の時もこんな感じの関係だったなとふと影山は思った。別に嫌いでも何でもない普通の存在。でも名前の話を聞くのは特に嫌いではなかった。それは今でも変わっていないらしい。
それに何だか名前の手振り素振りを見ていたら小動物がいるみたいで和む。動物に良く威嚇される分、尚更そう思った。

「でも、良かった。お友達出来たんだね」
「お前は俺のおふくろか」
「あ、その、そういう事じゃなくって。中学の時、影山君の周り、誰もいなかったから……。あのオレンジ髪の子と話してる時凄く楽しそうで、その」
「そんな事気にしてたのか」
「ごめん。お節介だったよね」

しょんぼりと顔を俯かせると影山はぎょっとして「違う!」と弁解する。如何にかして名前の顔を上げさせようと色々言葉を考えるが逆に萎縮してしまって中々顔が上がらない。
どうしたものかと思って一度顔を上げると影山は更にぎょっとした。澤村、菅原、田中、そして日向が一列縦直線状に並び壁から顔を覗かせてその光景をじっと眺めていたからだ。とりあえず後で日向だけはしばく。
一先ず影山は溜息を一度吐いて照れ臭そうに「さんきゅ」と名前に言葉を掛ける。
すると名前は「え」と声を小さく溢して、顔を上げて影山の顔をじっと見つめた。

「漸く顔上げたな」
「!」
「言っとくけどな、俺はお前の事お節介だって思った事一度もねぇから。寧ろ、感謝してる。中学の時勉強解らねぇ所丁寧に教えてくれたし、一人で練習して突き指した時も手当てしてくれただろ。あれ、本当に感謝してたんだ」
「……本当?」
「嘘ついてどうすんだよ」

その一言に名前の表情は段々笑みに変わっていく。そういえば名前なんて見た事が無いなと影山はふと思い、口元を少し緩ませた。
中学の時からそうだったが名前と一緒にいる時が一番リラックス出来ているかもしれない。何故だかは知らないが。それはきっと名前が持っている独特な、でも優しいこの空気のお蔭なのだろうけど。

しかし影山は青い、大きな目を急にカッと大きく見開いた。更に言えば剣呑な空気を段々濃く醸し出していく。
名前も最初はそれに「何か気に障る事しちゃったかな」とネガティブに考えていたが影山の視線が自分の遥か後ろ、一点のみに向いている事に気が付き、振り返る。
そして振り返った事を後悔した。後悔すると同時に少女マンガのヒロインみたいに顔が真っ赤になっていく。
廊下の壁の過度から烏野の小さなMBと坊主頭のWS、控えのS、そして一番背が大きいMBがニヤニヤしながらこちらを見ていたのだ。そういえばあの仲のMB2人とは何だか仲が悪かったような?と思いながらも、羞恥心の方が勝ってしまって両手で真っ赤に火照った頬を押さえる。

「悪い、少し待ってろ」
「う、うん……」

そう言うと影山は鬼の様な表情をして傍観者達の所に駆けて行く。

「(……あ)」

影山が通り過ぎた時に気付く。
彼は顔は赤くしていなかったが、僅かに耳を赤く染めていた。もしかしたら同じ様に照れていたのだろうか。そう思うと何だか別の方向で恥ずかしくなっていく。
少ししてから「ったく」と悪態を吐きながら戻ってくる影山に「ごめんね」と謝る。

「何で謝るんだよ」
「だって。そろそろ帰らなくちゃいけないのに呼び止めちゃって」
「別に。まだ帰る時間じゃねぇし」
「……」

これは大分気を遣わせてしまっているかもしれない。早く、早く胸の奥で喉から上に競りあがってきている言葉を、あの日からずっと言いたかった思いを目の前の彼に告げたい。
今此処で諦めてしまったら恐らくこの先、伝える事はできなくなってしまうだろう。

「あ、あのね。最後に、いい?」
「おう」
「……ちゅ、ちゅ、……中学の時からずっと、影山君の事が、す、す、す」
「酢?」
「好き、でした!」

一瞬何が起きたか解からなかった。影山は名前に言われた言葉の意味が上手く理解出来ず少しの間、頭の中がフリーズする。
やがて言葉の意味がそのままの意味だと理解して耳を更に赤くした所で名前は「っ、ごめんなさい!」と大声で謝ってからその場から走り去ってしまった。
呼び止めようとしたが思っていたよりも走る速度が早く、言葉が出る前に姿が消えてしまう。
もう一度名前の言葉を思い出して、口元を手で覆い、顔を僅かに伏せる。
今、漸く名前の事が特別に思えていた理由が漸く解かった。自分も「好き」なんだと。

「……言い逃げかよ」

小さく呟いたが、その言葉は夕方の烏の鳴き声に掻き消されて消えた。
そして思う。「また今度会った時に連絡先位は教えておこう」と。


end


夢小説企画「君と奏でる恋の詩」様提出

企画公開日 :2015/02/28
サイト公開日:2015/03/02