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▼ 君にだけは心配症

※東京合宿時


練習後の風呂で汗を流した烏野と梟谷学園グループの面々は就寝時間までの自由時間を各々好きな様に利用していた。
その中で音駒の弧爪 研磨は一人布団の上に寝転がって普段と変わらずスマフォを弄くっていた。

「おい研磨、名前ちゃん呼んでんぞ」

黒尾に呼ばれ今までスマフォに向けていた顔を上げる。
いつもであればそれだけなのだが、黒尾が出した名前に反応して目を少しだけ輝かせた。
起き上がってのそのそと部屋の入り口へ向かう。
黒尾がニヤニヤしながら研磨を見ていて、その表情に少しだけムッとするがすぐに黒尾が影になって姿が隠れていた件の名前を見て表情を柔らかくする。
そして「どうしたの」と、少しだけ鼓動を早める心臓を押さえ込んで声を掛けた。

「弧爪君と少しお話したくって。時間も時間だし迷惑だったかなーとは思ったんだけど、潔子さん達に何故か応援された」

そう言うと黒尾は何故か其処で噴出す様に笑う。
名前は「え、何で?!」と言った表情で黒尾を見たが、研磨は冷静に「いいからクロはあっち行ってよ」と邪険にする。

「おいおい、いつもは俺が一緒にいた方が良いって顔するのに何で名前ちゃんいるとそんなにツンケンするんだよ」
「……うるさい。クロはいつも名前の事で茶化すからあっち行って」
「あー、はいはい。解ったよ」

そう言いながら黒尾は大人しく、遠巻きに固まって研磨達の会話を聞いていた犬岡達に、その場に転がっていた枕を拾い上げてサーブを打った。
枕は思い切り山本の顔面に当たる。
柔らかい枕だから其処までの痛みはないだろうが、名前は「痛そう」と山本の顔を見ていた。
しかし、少し拗ねた感じの研磨に「行こう」と腕を引っ張られ、音駒高校に割り当てられた部屋から離れたロビーに向かった。

ロビーには人はおらず、しんと静まり返っていた。
研磨は名前を長椅子に座らせると自販機でジュースを二本買う。
名前には林檎ジュースを、自分にはスポーツドリンクをチョイスして。

「弧爪君、もしかしたら怒ってる?」
「怒ってない。……でも、名前は少し無防備過ぎだと思う」
「え?無防備?」
「まだ就寝時間まで時間あるけど、夜に男しかいない部屋に一人で来るのは無防備だと思う」

研磨の言っている事をよく解っていないのか名前はきょとんとした顔で首を傾げている。
小動物みたいで可愛いが、それは惚れた弱みと言うものなのだろうか。
しかし名前は女子だし、いざと言う時は危険に合う事も少なくない。

たとえば同学年の山本猛虎。
彼が女子好きな事は研磨はよく解っている。
ついさっきも風呂場で烏野の田中と烏野のマネージャーの話で盛り上がっていた。
烏野のマネージャーと言うからには名前の事も勿論含まれており、研磨も名前の話題の部分だけこっそり聞き耳を立てていたけども。

「名前は思ってるよりほかのやつに気に入られてるんだよ」

名前は烏野のマネージャーではあるが、この合宿の間だけマネージャーが居ない音駒のマネージャーをしている。
それは黒尾が何とか言って澤村やコーチである烏飼に頼み込んでの事なのだけど。
実の所をいえば黒尾も名前の事が好きだと零していた。
……それは自分に対するからかいであると研磨は思っているのが、昔からからかいだと思った言葉が本気だったりするから侮れない。

研磨は少しだけムッとした顔で指先だけで名前の頬に触れる。
思っていたより柔らかい頬に少しだけ驚いたが、漠然と女の子は本当に柔らかいんだなんて事を思う。

「何かされた後で、泣きついたりなんか出来ない」
「な、何だか弧爪君少し怖い……」
「うん。少し怒ってる」

「うぅ〜」と唸る名前に研磨は少しだけ微笑むと触れていた頬、両頬に触れたと思いきや思い切り頬を抓む。

「あいたたたたた。弧爪君いひゃい!」
「少し痛めにしているから当たり前」

涙玉が浮かび始めた頃合で手を離す。
その頃には名前の頬は真っ赤に染まり、見ただけでも痛々しかった。
少し罪悪感はあるが、名前が無防備なのが悪い。
そして、この行動で自分がどれだけ名前が好きなのか気付いて欲しいと研磨は思っていた。
見た感じかなり鈍そうな(実際も色んな事に関して鈍い様だが)名前がこれで気付くか問われればよくは解らないけれども。

「……ごめん」
「いや、大丈夫だよ。何だか弧爪君、私の事心配してくれてたみたいだし」

にっこり笑う名前に安心と心配の二極の感情が混ざった笑みを浮かべる。
名前の笑顔は抓った事を本当に気にしていないみたいだし、反面研磨が伝えたい事を解っているのかそうでないのか解らない状態だ。

「あっ、いけない。そろそろ就寝時間だね。私そろそろ部屋戻るよ。仁花ちゃん心配するし」
「あ、うん……」
「うーん、本当はもっと弧爪君と話したかったんだけど……」
「……大丈夫」
「うん?」
「おれも名前と話したい事あるから」

「また、明日此処で話そう?」と少しだけ照れた様に、名前から目を逸らせて呟く。
呟くとは言ってもちゃんと名前に聞こえるレベルの声量で。
名前は笑顔のまま「うん、また明日練習終わったらね!」と返事をしたから、研磨は一先ずほっとした。


===============


部屋に戻った研磨は少しだけ不機嫌だった。
名前と二人きりかと思っていたのに、途中から知っている人間の気配をひしひしと感じていたから。

「何で付いて来たの」
「嫌だなー、何の話ですか」
「しらばっくれないで」

声音がいつもよりも低い事に、話をはぐらかそうとしたリエーフが肩を揺らす。
これは本気で怒っている。そう、ひしひしと感じていたから。
黒尾が面白半分で付いて行こうと言ったのに便乗した自分も悪いが、矢張り普段他人に興味がない素振りを見せている研磨の恋愛事に好奇心の方が勝ってしまっていた。
他の部員に助けを求めようとするが皆狸寝入りを決め込んでおり、話を振ることが出来なかった。

「(はめられた!)」

そう、心の中で叫びながらリエーフは観念した様に研磨を見る。
が、既に研磨は其処にはおらず自分の布団に潜り込んでいた。

「早く寝なよリエーフ。明日も早いんだから」
「え?あ、うっす」

思い切り怒られると思っていたがそんな事もなく毒気を抜かれる。
でも明日の練習の時トスを上げて貰えなかったら如何しよう、などと気弱な事を考えてしまうが。
その時はその時で如何にかしよう。そうしよう。
そう思いながらリエーフも布団に潜り込んだ。


END


2014/06/16