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▼ Sky of Your Color

グリムジョーは三桁の巣に足を踏み入れていた。
理由はとある女破面に会う為。
その女破面の特徴と云えばなんて事はない普通の破面。
ただ一つ云えば一時的とはいえ十刃に居た元十刃、つまりは十刃落ちだという位だろうか。
グリムジョーはその十刃落ちの宮の扉を開き一番奥の部屋へと進んでいく。
扉の先にはしん、と静まり返った廊下が先が見えない闇に伸びている。
その廊下を歩く度にグリムジョーが立てる足音のみが響く。
しかもその廊下はくすんだ白色で建物の中だと言うのにもかからわず蔦が一面を覆い茂っていた。
所々壁が罅割れ、その隙間から蔦の蔓が伸びきっているのだ。
一度、現世でこんな風な洋館を見た事があったが、悪趣味としか言いようが無い。
下手をしたら蜘蛛の巣でも張っているかもしれないだろう、その位寂れている。

「(何度来ても薄気味悪りぃ所だな)」

微かに埃っぽい臭いがするが、これだけ暗ければどの位の埃が積もっているか解りやしない。
解りたくもないし確認するつもりも毛頭無いが。
暫らく薄暗く冷たい静かな廊下を歩き続ければライトが点いた明るく、広い部屋に出る。
その部屋から向かってすぐ左のドアを乱暴に開ければグリムジョーの目的である十刃落ちが背を向け、窓辺に立っていた。

「よぉ」

短く、いつもの調子で挨拶をすれば、その破面はピクリと体を一震えさせ、反応した。
しかし彼女はただずっと窓の外にある何かを見つめていた。
そして、たった今グリムジョーの声が届いた、かのように彼女は一言言葉を溢した。

「……また来たの?」
「悪りぃかよ」
「暇なのね。随分と」

ずっと窓を見ている破面は振り向く事なくグリムジョーに対し皮肉を吐く。
いつもならばそんな事を言われればグリムジョーは逆上して相手を殺しに掛かるのに、それがない。
その代わりに鋭い視線で彼女を射殺せそうな位に睨み付けているのだが。

「グリムジョー、痛い」
「あぁ?知らねぇよ。……名前」

グリムジョーに名を呼ばれ彼女・名前は漸くグリムジョーの方を向く。
そして名前は窓の縁に腰を降ろしにっこりと笑う。
それはグリムジョーに「こっちにおいで」と言いたそうな笑顔だ。
グリムジョーは盛大に眉をしかめるが、名前はそんな事はお構い無しに笑顔を浮かべ続けている。
心では名前が考える様な行動を取りたくはないのに、本能はそれに逆らって名前の方へ足を進める。
そして名前の所まで行くと彼女と同じ様に窓の縁に腰を降ろした。

「いつも思ってたんだけどよ、お前、何でそんなに空なんか見てんだ?」

唐突に発言されたグリムジョーの一言に名前はきょとん、と目を丸くした。
驚いたのはそれを発言したグリムジョーも同じだったらしく、彼は外方を向いた。
しかし名前はすぐにいつもの調子で微笑み、腕を伸ばしてわしゃわしゃとグリムジョーの頭を撫でた。
しかも「いい子、いい子」と、子供に対するそれの様に。
グリムジョーはそうされるのが嫌じゃないのか、寧ろ心地よさを感じているのか何にも言わない。
先程の問いにまったく答えようとしない名前に対しては少し苛立っているが。
しかしそろそろ頭を撫でられるのが嫌になったのか「止めろ」と言って名前の手を払う。
そうしたら「グリムジョーの髪、触り心地良いから好きなのにな」と、残念そうに言う。

「んな事より俺の質問に答えろ」
「あら、やっぱりはぐらかそうとしても貴方ははぐらかせないのね」

「残念……」と云う呟き声がしたが敢えて無視する。
そして名前は唇を三日月型に歪ませ、笑ったと思ったら口を開いた。

「私が空を見ている理由はね……」

窓の外に腕を伸ばし、右へ左へ泳がせる。
特に意味が無い行為だが、何故か名前がやれば絵になる。
そして掌をぐっと握り、拳をつくると窓の縁から部屋の中へ飛び降りた。

「……理由は、特に無いかな」
「あ?どういう事だ」
「だって綺麗なんだもん。綺麗なものを眺めるのはいけない事なの?」

そう言って名前はクスクスと、意味ありげに笑いグリムジョーに笑いかけた。
何故か胸の奥底が温かくなったのを感じ、グリムジョーは意味が解らず目をしかめたがそれもやがて普段誰にも見せないような笑みに変わる。

「おい、名前」
「ん?」
「そんなに空が好きなら今度は本物の、現世の空を見せてやるよ」
「本当に?」
「……オレが覚えていたらな」

柄じゃない発言だ。グリムジョーはそう思いながらも、名前の本当に嬉しそうな顔を見れたから、とその事は気にしないようにした。


Sky Of Your Color
青く蒼く、澄んだ貴方と同じ色


グリムジョーが去った後名前は最初と同じように硝子のはめ込まれていない窓から空を眺めていた。

「私が空を眺める理由はね、空と貴方が同じ色だからなのよ。グリムジョー」

ふんわりと緩められた表情でこの言葉をグリムジョー本人に言ったらどうなるだろうか。
きっと恥ずかしがるか耳を赤くして「うるせぇっ!」って言ってくるかのどちらかかな、と名前は思った。


END

2011.09.06