戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 祝福された夜明け

※学バサ卒業後設定


 クリスマス・イブは何処にも行かずに二人でのんびりと過ごしていた。
 三成も名前も態々人でごった返している所に好き好んで外出するような趣味は無い。寧ろ二人の時間を大切にするタイプだったし。それを左近に言えば「味気ない」と言われたがそんなのは人の勝手だろうと三成は思っている。嫌な気分になるのを承知でそんな所に飛び込むのはただの馬鹿がする事だと思っている。
「ケーキ、美味しくなかった?」
「何故」
 不意に問いただされた言葉に三成は眉間に皺を寄せた。そんな不機嫌な三成を見た名前ははにかみながらケーキにフォークを刺し、綺麗に一口大の大きさに切り分ける。手元を見ずに綺麗に切れるのは名前の慣れだろうか。
 しかし名前は何時まで経ってもそのケーキを口に運ぼうとはしない。それどころかグラスに注いだシャンメリーを傾けている。大きな炭酸の泡が一粒、ぱちんと弾けた所で名前は漸く返答の言葉を口にした。
「何故って、機嫌が悪そうだったから」
「貴様が作ったケーキが不味い訳が無い。不味かったら最初から口にもせん」
「なら何でそんなに機嫌が悪そうなの?」
 名前がもう一度質問を投げかけると同時に三成もケーキにフォークを刺して一口大に切り分け、切り分けた分を口に運ぶ。ケーキの仄かな甘みを味わいながら咀嚼を終えるとゆっくりをケーキを嚥下する。
 左近に言われた事を気にしている、だなんて正直に言えばきっと彼女は無駄に気を遣うだろう。今日と言う日位は無駄な気を遣わせたく無い。尤も勝手に気を遣っているのは名前なのだけど。
 しかし脳裏に浮かぶのは左近の言葉ばかりだ。それを一つ一つ思い出す度に苛立ちがぱちんぱちんと炭酸の泡と同じ様に弾けていく。
「おのれ、左近め……。余計な言葉ばかり私に吹き込みおって」
 ぼそりと恨み言を口にすれば名前にも聞こえたのか首を傾げて「左近がどうかしたの?」と尋ねてくる。
 仕方無しに「何でもない、気にするな」と答えれば「? そう?」とだけ返して先程切り分けていたケーキを小さな口に運び、幸せそうな笑みを浮かべる。
 この馬鹿みたいに幸せそうな表情が三成は好きだった。家に居る時の名前のこの幸瀬に満ちた表情が。それは何物にも変え難い宝物の様なものだ。

 ケーキを食べ終え、やるべき事とは全てやりきった二人はソファに座り、体を寄せ合いながら映画を見ていた。映画の内容はラブロマンスでもなければクリスマスがモチーフの話でも何でもないけども。
 ただ名前が内容が気になるなと言っていたDVDを三成が借りてきただけの話だ。蓋を空ければ中身はホラーで名前先程から絶叫に反応しては体をビクつかせたり、三成に体をぴったりとくっつけたりしてきているけれど。
「そんなに怖いのならば見るのを止めろ」
「怖いけど気になって仕方が無いもの」
「下らん感情だな。だが貴様らしく脆弱なのに愛らしい」
 リモコンに伸ばしかけた手を引っ込め、少しでも恐怖を紛らわせてやろうと肩をそっと抱いてやる。急に肩にのっかかった重みに名前は瞳を揺らめかせて三成の顔を見上げるが三成はそ知らぬ顔。
 其処で三成の行動の意図に気付いた名前は三成からテレビへ視線を移し、すぐにその視線を俯かせると頬を染めて「ふふっ」と笑った。
 映画も見終わった後、二人はリビングの電気を消して寝室に向かう。寝室には三成と名前のベッドがそれぞれ置いてあるのだけど、名前は自分のベッドに入らずじっと三成の方を見つめている。
 何かベッドにあるのかと思ったがそんな事は無い筈だ。もしかしたら先程の映画が怖かったから一緒に寝たいなどと言うのではないかと思ったけど、今日位は別に良いかと何故か心の奥でそう思ってしまう。
「名前、怖くて一人が嫌なのであればこちらに来い。今日位は一緒に眠ってやる」
「! 良いのですか?」
「夜中に啜り泣かれるよりはましだ」
 先にベッドに潜ると名前も少し恥ずかしそうな表情を浮かべながらいそいそと三成のベッドの中に入る。
「もう少し此方に寄れ」
 ぐいっと名前の体を抱き寄せると体が急に温かくなる。腕に閉じ込めている名前の体温が急に上がっているのだろう事は容易に想像が出来た。
 名前は抱き締めるたび逐一こうして頬を染めたり、体温を上昇させる。
 だがその上昇した体温がどうにも愛しくて仕方が無い。自分だけが生ませる事が出来る体温だと知っているから。
「……今宵だけだ」
「解かっています。……少し、寂しいけど」
 胸元をきゅっと握られる。だがそれは名前が本当に寂しがっているサインだと解かっているから何も言わない。どうして彼女はこんなにもしおらしく感情を伝えてくるのか。言葉で喧しく捲くし立てられるよりはましだろうけど。
「気が向いた時は一緒に寝てやる。だからそんな寂しそうな顔をするな」
「……うん」
「明日は早いのだろう?早く寝ろ」
「寝てる時に私のベッドに戻さない?」
「戻さん。私が約束を違えると思っているのか」
「思っていません!」と、そう言って名前は三成に身を寄せたまま瞼を閉じ、眠りの世界に向かおうとする。
 そんな様を薄暗闇で見つめながら三成は薄く笑むと自分も瞼を閉じた。微かに名前の髪から甘い花の香りがする。そういえばシャンプーを変えたと言っていたなとまどろみ始めた意識の中で思い出す。
 だが、無音の空間にぽつりと名前の声が三成の鼓膜をゆっくりと揺らして。
「来年のクリスマスもこうして二人で過ごせるかな」
「……貴様が望むのであれば何時までも隣に居てやる」
「本当?」
 名前の訝しむような声に瞼を開くとばっちりと視線が交わる。
 暗闇に慣れた、カーテンの隙間から月光が差し込む薄暗闇の中でその瞳が僅かながらに不安の色を濁している事に気が付いた。
「何故そんなにも私の言葉を疑う。私は貴様の信用に足らない人間か?」
「そうじゃないの。……刑部が」
「刑部?刑部がどうした」
 いきなり出された親友の名に戸惑いが生まれる。
 刑部、大谷吉継はよく名前の事をからかって遊ぶ事がある。特に三成との関係に対してのからかいが多い。その事を以前咎めたのだけど、「これも主と名前の為よ」と言って上手くはぐらかされてしまった。
「三成は女性に人気があると、そう聞いています。確かにこの前も、その前も女の人の香水の匂いがした……。それにクリスマスなのに何も進展なかったからその、不安になってしまって」
 涙交じりの今にも泣きそうな声音にただ一言「……馬鹿が」と言って強く体を抱き締める。
だが三成は嬉しかった。名前が其処まで自分の事を想い、愛してくれている事に。
 小さな嫉妬でも嫉妬と言う感情を醜いと思ってはいるが名前からの嫉妬はいじらしくて可愛らしくて愛しく思う。
だからこそ隣に居て欲しい、隣に居てやりたいと思う。
「昔から言っているだろう、私が側に置く女は貴様だけだと。不安に思うな。私の言葉に嘘も濁りも無い」
「……」
「私関係の話で刑部に何を言われようとも気にするな。あれは奴が面白がってそう言っているだけだ。貴様がそうやって反応をする度にエスカレートしていく。胸に刻んでおけ」
「……うん」
 少し説教じみてしまっただろうかと思うけど、名前にはこの位言っておかねばまた変に塞ぎこむだろうとそう思った。
 そして今更ながら思う。左近が言った通り少し位外に出て思いで作りに勤しむのも大切だという事に。
 ――「思い出を作って置いた方が名前様も変に不安がったりしないと思いますよ」
 この言葉にちゃんと耳を傾けて置けば良かったなと今更ながらほんの少し後悔をした。
「……来年は、何処かに連れて行ってやる。貴様が行きたい所に」
「? どういう風の吹き回しですか」
「少し思い出と言うものを作るのもいいと思った、それだけだ。来年のクリスマス前までには考えておけ、良いな」
 すると名前は不安そうな表情から一変、笑みを浮かべながら「はい、考えておきますね」と三成にささやきかけた。

 翌朝。二人は目覚めた際に抱き合う体制から指を絡ませ、手を繋ぐように眠りについていた。
「何だかこのまま起きるの、少し勿体無いですね」
「馬鹿め。遅刻するぞ」
「そう言って三成も手を離そうとしないのですね」
「……。後10分だけこうさせていろ」
「はいはい」


2014/12/27