戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 焦らして言わせる

※微裏


「元就様」
「何だ名前」
「……いえ、何でもございません」

機嫌が悪そうな元就に声を掛けてみたが、名前が声を掛けると殊更機嫌が悪くなってしまった。
と言うのもここ数日毎に起きる戦の所為で元就の国主としての執務が溜まりに溜まり、中々時間を掛けて日輪を拝めずにいた。
いつもの様に日輪を拝んでいる合間は機嫌が良いのに。
名前の元就が手をつけるに値しない書類関係を片してはいたが、ずっと書類と向き合っているのに書類の山は減ってはくれない。
しかしそんな元就と名前を嘲笑うかの様に次から次へと何処其処で戦が起きた等と言った報告が飛び込んでくる。

そして今も廊下から騒がしく足軽の一人が走り、部屋の中に飛び込んできた。
その音に元就は眉間に深く皺を寄せる。
名前も「またか……」と思うと少しだけ表情をげんなりさせた。

「も、元就様!名前様!」
「今度は何だ!」
「ヒッ……?!も、申し訳ございません!!四国の長曾我部が!!」
「元親殿が攻め込んできたのですか?」
「は、はい!厳島神社に」

足軽の言葉に元就は大きく舌打をした。
今の報告に相当機嫌が悪くなったのだろう。
足軽は今の舌打に脅えた様に大きく体を震わせた。名前も少しだけ体を萎縮させる。
元就は席を立ち、戦装束や武器である輪刀が置いてある部屋の方へ向かうと「名前」と一言呼びかける。

「はっ」
「我はすぐに厳島に向かう。その間そなたは片せる分で良い、少しでも書類を片せ。良いな」
「承知いたしました」

その場で片膝を付き、頭を下げる。
しかし大丈夫だろうか。名前もだが元就も其処まで睡眠は取れていない。
このまま戦に行っても勝利が掴めるとは到底思えない。
そんな事元就本人だって解っている筈なのに。
すぐさま戦準備を始めた元就を見送り、名前もすぐさま書類の仕分けを再会した。


数日後、元就は一部の兵を連れて城に戻ってきた。
先に名前の元に、足軽が報告に来る。
長曾我部軍に勝つ事は出来なかったが、何とか退ける事は出来たと。
その報告を聞いて少しだけ胸を撫で下ろす。
名前も名前で死ぬ気で書類を減らせる所まで減らし、漸く半分以下まで減らした。
後は元就の花押が必要だったり、元就でなければ内容が解らない物ばかりだ。

程なくし、元就が執務室に戻ってくると量が大幅に減った書類を見て感嘆の息を零す。

「お帰りなさいませ、元就様。門にてお出迎えが出来ず大変申し訳ございませんでした」
「良い。名前、そなたよく此処まで書類を減らしたものよ……」
「戦からお戻りになられる元就様の心労を少しでも減らせればと思い……」
「ふむ、相変わらず出来た駒よ」

片されている書類にさっと目を通し、文机の前に座る。
見た所元就は大分疲労は取れてたみたいだ。
その様に少しだけ安心し、頬を緩ませる。

「名前、そなたは休め。此処まで減らせば上出来よ」
「……では、お言葉に甘えて。半日程休養を取らせて頂きます」

その場でいつもの様に頭を下げて名前は執務室を出る。
元就はその背をじっと見つめながら、残りの書類に早速筆を走らせた。
書類を片している間に気が付いたが、乱雑になっていた書類が内容事に確りとまとめられている。
恐らく寝呆け眼の中、元就が執務をし易い様にせっせと纏めてくれただろう事が容易に解る。
全く恐ろしい位に有能な駒だ。そう思うがそんな名前が自分の傍にいる事に元就は薄く目を細めた。

その日の晩、名前が突如元就の部屋に訪れた。
彼女が夜、元就の元を訪れる際は夜襲があった時と元就の命で夜伽の相手に選ばれた時位。
そんな彼女が自立的に部屋に訪れた事を元就は不思議に思った。
名前を夜伽の相手に選んではいるが彼女は性交渉に対しては恐ろしい位に潔癖だ。
何時抱いても彼女はおぼこの娘の様にその行為を拒む。
最終的には無理矢理にも快楽に落として抱き潰してやっているが。
そんな彼女が一体何をしに来たのか。
もしかしたら暗殺しにでも来たのかと思ったが名前の性格上はそれはない。それにそんな動機もないだろう事を元就は解っている。

「何用だ」
「元就様がお疲れだと聞き、少しでもその疲労を緩和出来ればと思い、香を……」
「香だと?」

名前の口から香と言う言葉が出て元就は殊更不思議に思った。
彼女は香の類は余り好きではない。
元々は姫の立場にあったがそんな扱いをされるのを嫌がる彼女は香を焚くのも少しばかり嫌悪を示していた。

「そなたは香を嫌っていた筈。なのに何故その様な物を持っている?」
「……金吾君が以前疲れが取れるといって私にくれたのです」
「金吾が?」

金吾。その名が出た途端にこめかみがぴくりと動いた。
何かとあれば名前に助けを求める金吾が名前に思慕の念を抱いていても不思議はない。
そう思うと少しだけ腹の底が焼け付くように熱くなる。
名前はどれだけ金を貢こうが、どんなに高価な物を贈ろうが決して他人には靡かない性格だと知ってはいるが少しだけ腹が立つ。

少し意地悪でもしてやろうか。
布団の傍で香を焚く準備にかかっている名前を背後から、包み込む様に抱きしめてやる。
柄でもない行為だとは自分でも思っているが、こうしたいと彼女が部屋に入ってきた時からずっと思っていた。
名前もいきなりの事に目を見開いて、香を持つ手をぴたりと止めてしまっていた。

「元就様?如何されましたか」
「そのまま続けよ。少しばかりの戯れよ」
「ふふ、元就様がお戯れるなど珍しい事もございますね」

現状を楽しんでいるのか何なのか。名前の声は少し弾んでいた。
戦の時や、執務の時とは違う女らしい声。
女中達と歓談を楽しんでいる時の歳相応な女の声に元就は少しばかり胸を高揚させた。
こんな名前の声など、長い間彼女を傍に置いていた元就も滅多に聞けやしない。
首元に回していた手をゆっくりと、着物の上を這わせながら胸元を、腹を探る。

「も、元就様。少しばかりお戯れが過ぎるのでは?」

雰囲気に呑まれ始めているのか、名前の口からは熱い吐息が零れた。
少しだけ開かれた口の中に指を二本だけ食ませる。
そして耳元で、意地悪そうに囁いてやる。

「その気になった。舐めよ、名前」
「ん、むぐっ……」
「そうだ、舌を動かし満遍なく舐めろ」

手に持っていた香の入れ物が盆の上にごとりと言う音を立てて落ちる。
名前は命じられるままに口腔内に突っ込まれた元就の指を舌先で舐める。
その感覚に元就は唇を歪ませる。
適度な疲労感があるとこう言った事をしたくなるし、何より時間は経ってはいるが長曾我部との戦の所為で高揚してしまっている。
本当は戻ってきてすぐにこうしたかった。
首筋にも顔を埋めて吸い上げる。業と跡を幾つも残し、それを満足げに見つめた。
名前は唾液を飲み込めないのか開いた口の隙間から唾液をぽたぽたと滴らせて横目で元就に視線を向ける。
そして体を抑えていた元就の手に手をそっと重ねた。
そろそろ堕ちると思っていたがもうその頃合になったのか。
しかしまだだ。名前の口から乱暴に指を引き抜き、布団の上に押し倒す。
名前の襟を掴み、溢れた唾液を舐め取る。
舐め取り終わってからすぐに間髪入れずに唇に噛み付き、口内を犯す。
名前は元就の下でもがきながらも求められるままに舌を絡ませる。
そんな頃合で元就は名前の口から舌を引き抜くと、もう一度首筋に口付けた。

「やっ、もと、元就様っ。首、いやっ」
「嫌、ではないだろう?欲しい癖に何を言っている」
「だって、こんな、いきなり」
「そなたは夜、男の寝所に入る意味を解っておらぬ。そなたもこうされたくて、望んで参ったのだろう?」

そんな事はないという事は元就も重々承知だ。
名前は主君を思う一心で此処に北と言う事くらい解っている。
すると名前は少しとろけた様な目で元就の両頬を震える両手で包んだ。
元就の頬が冷たかったのか、名前の手は温かい。

「元就様が望むのであれば幾らでもこの身を委ねます」

そう言って名前は元就からの口付けをせがむ。
乗り気になっているのは雰囲気の所為か、体が疼いているからなのか。
そんなことは如何でもいいと思い、元就はもう一度、今度は優しく啄ばむ様に名前の口を吸う。
だが、少し時間が経てばすぐに唇を離してしまった。

「名前、そなたは何が欲しい?」
「……そんな、元就様は解っておいでではないでしょうか」
「言わねば解らぬ。それに、そなたが請わねば我はそなたが望む物を与えるつもりは毛頭ない」

そう言うと名前は恥ずかしそうに目を伏せ、暫し何かを考えると吹っ切れた様に唇を小さく動かした。
その言葉に元就は歓喜し、三度目の口付けを名前に与えた。


2014/10/24

お題配布元「モノクロメルヘン」