戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 貴方の××を頂戴な

※首切断や流血描写有


「刑部さん、俺ずっと気になってた事があるんですけど」

戦の後、左近は地べたに座り込みながら横に輿に乗り、ふよふよと浮かんでいる主人の右腕に声掛ける。
二人の視線は交わっては居ないが、吉継は「何だ」と一応返事をする。
二人は目の前に居る主・石田三成とその妻の名前のやりとりをじっと見つめていた。
名前は先程の戦で自身で討ち取ってきたのであろう。
白い布でくるんだ男の生首を細い腕に抱いていた。
しかもそれは一つではない。二つだ。

「名前様の武器って鉄扇っしょ?なのに何で首とかちゃんととってきてるんですか?」
「皎月は鉄扇の他にも小太刀も腰に携えておる。大方それで刈っておるのだろう」
「ひえぇぇ、名前様おっかねぇ。そんな風に見えねぇのに」

今も二人の視線の先の名前は笑顔で三成に語りかけている。
三成は名前の話に耳を傾けているが、名前が怪我をしていないかどうかが気になって仕方がないといった様子だ。
柄にもなくそわそわしている。
三成にそんな行動を取らせられる女は後にも先にも名前しか居ない。そう吉継は思っていた。

しかし、左近がいう事も何となく吉継は解かる気がする。名前が恐ろしいという点で。
名前は何食わぬ顔をしているが、吉継は一度名前が相手武将の首を刈っている場面を見た事がある。
一言で言えば"狂喜的"。そう現すのが相応しい雰囲気だった。
きっと左近が見たらあまりの恐ろしさに腰を抜かすだろうと思い、何時もの引きつった様な笑い声を発した。

「刑部さん、名前様の事で何か知ってる事あるんじゃありません?」
「はて、何の事やら?」

そこで漸く吉継は左近の顔を見た。
左近は今までずっと三成と名前の方を見ていた吉継の横顔を見ていたようだが、目があって肩をびくりと大きく振るわせた。
其処に更に今まで二人が見ていた二人が傍に駆け寄ってくる。

「何をしているのだ貴様らは」
「み、三成様!!」
「何もしておらぬ。ただ左近が皎月の事を憂い顔で語るからつい、な」

業とらしく含みを込めた言い方をすると三成の眉がピクリと動く。
憂い顔で女の話をするという事はその女に惚れているからだと吉継が昔、名前に出会うよりも前にそう言っていたからだ。
それを真摯に今もそうだと信じ続けている。
吉継のそれが業とだと察知した左近は手足をばたばたさせながら「違ッ、そうじゃないんですって三成様!!」と喚いているが三成は未だに刀の柄に手を掛けている。
三成も三成で本気で左近に斬りかかろうとは思っていないのだろうが。

吉継はそこで何か足りないと違和感に気がついて辺りを見渡した。
そういえばさっきから一向に名前が輪の中に入り込んでこない。
何時もであれば三成が刀の柄に手を掛けた時点で「止めなさい」と、恐れ知らずに三成の背後から頭を叩く位の事はしでかすのに。

「皎月?」

いぶかしむ様に、ポツリと彼女を冠する名を口にすると今まで喧しかった三成と左近が急に静かになる。
そしてぼんやりとした瞳で頭上に果てなく広がる蒼穹を見つめている名前に目を向けた。
名前の白い戦装束は今までの戦の所為で乾き始めた血で茶色くなり始めていた。
まるで枯れ始めた花の様に。

「皎月、何を見ておる」
「……ごめんなさい、少しぼんやりしていて。特に何も見ていないよ、うん」
「? 主は可笑しな女子よ。まぁ、三成に嫁いだ所で狂気の沙汰ではないがな」
「おい刑部、それはどういう事だ」
「ヒヒッ」

吉継の物言いに不服があるのか三成はいつでも不機嫌そうな端正な顔を更に不機嫌そうにして見せた。


その日の内に三成達石田軍は本拠地である近江・佐和山城に戻ってきていた。
吉継は湯浴みを済ませ、三成から充てられた自室で月を眺めていた。
白日の下、名前は今日もあの狂喜を滲ませながら三成に献上した敵将の首を掻き斬ったのだろうか。
その様を三成は知っているのだろうか。
名前が敵将の首を斬る時の姿は悪癖を拗らせた童子の様に目を背けたくなる物だった。
しかし吉継にとってはそれは目を離すには惜しい光景だったが。
あの狂喜的な名前がどうにも愛しくて仕方がない。

「刑部?起きてる?」
「皎月か。どうしやった」
「眠れないから一献付き合って貰おうかなって思って」

名前が手に持っていた酒を吉継にちらつかせると吉継は身をたじろかせる。
名前は豊臣軍きっての酒癖の悪さを誇る。
以前なんかあまりの酒癖の悪さを見兼ねた三成が止めに入ったが、彼を背負い投げで庭の池に放り投げて叱り付けられる前に馬乗りになって三成を襲っていた。
その場にいた誰もが呆然とし、当事者の三成も平静を取り戻してから怒鳴ろうとしていたら三成の上ですやすやと寝息を立てて眠っていたから怒る事もなかった。
それを思い出すと名前と一緒に酒を飲むと言う行為自体は自殺行為に等しい。
そんな吉継を見て名前ははにかみながら「以前の様に悪酔いするまで呑みはしません」と言い、もう一つ持っていた水が入った入れ物を見せた。
水で薄めて呑むのか。それであれば吉継も安心して付き合える。
名前を部屋の中に招き入れると名前は笑顔で吉継に酌をする。

「しかし何故我に晩酌の共を頼む?今宵の新月位三成と水入らずで楽しめば良かろ?」
「三成が余りお酒を嗜まないのを忘れた?それに三成、今日は一人になりたいって言ってたから。一人で呑むのもつまらなくて……。刑部であれば何か楽しいお話を知っているでしょう?」
「主が好む話と我が好む話は程度が違えば趣向も違う。その様な話を聞いて楽しいか?」
「時には自分に趣向以外の話も聞いてみたいもの」

本当にこの名前と言う女は愚かなまでに向上心が強い。
だからこそ疎まれていた事を既に忘れ去っているのか。そう思う位に。
尤も自分に向けられた悪意を物ともしないし気にも留めないからこそ、今こうしてこの場にいるのだろうが。

「そうよなァ。三成もそうだが主も大概ジュンシンよ。此処は艶話でも興じて見るか?……いや冗談よ。三成の様な顔をするな」
「艶話とかそういう性に関する話だけは却下します。刑部、私の事をおちょくっているでしょ?!」
「未だに生娘の様な態度を取る主をからかうのが楽しくてなァ。何、それが主の美点よ、ビテン」
「……」

そう言って更にからかうと名前は目に見えるように顔を赤くする。
そして水で希釈に希釈した酒を嘗める様に呑む。

「皎月。いや、名前よ、主はアヤカシ話は好むか?」
「アヤカシ?妖怪の事?……怖いのは苦手だわ」
「ならば恐ろしくないアヤカシ話をしてやろ。あれは我が戦の最中に見た光景よ。女童が戦場に紛れ込み何をしていると思いきやその女童は何をしていたと思う」
「? お金に換金出来る様な物を漁っていたのではないの?」

時折名前もそう言った子供達を見かける。
普段であれば無視をする様にしていたが、流石に戦渦に巻き込まれそうな時は安全な場所まで逃がしてやるのだが。
しかしそれの何処が妖怪の話になるのだろうか。
吉継の事だから話の中にも大事な経過があるのではないかと思うが、結論だけを急いでしまう。

「首を刈っていたのよ」
「首?首で首級?」
「そうよ、我らが戦果に刈り取るあの首級よ。しかもその女童は嬉々として首を刈り取り、愛しそうにその腕に掻き抱く。衣が朱に染まろうと、な」
「確かに怖くはないけど不気味ね」
「そうであろ?」

不気味とそう口にした本人がこの話の塑像なのだが気付いていない様だ。
吉継はそれを滑稽に思いながら名前が告いだ酒を口にする。
桃酒だろうか。甘口だが口当たりがいい。恐らく三成が名前でも飲み易いように用意させたのだろう。
……悪酔いさえしなければこのまま呑む事も出来たであろうに可哀想な事だ。

しかしそんな時名前が「でも、その子の気持ち解かるなぁ」と呟く。

「何故」
「だって戦果として首級を取れば三成が褒めてくれるから嬉しくて。ほら彼、余り人を褒めないでしょ?だからつい。だから敵将の首級が愛しくなる」
「なんと、主はアヤカシ者か」
「白々しい。私が阿修羅姫じゃないかと思っていた人の口ぶりですか、それは」

「別にいいけど」と言って新たに盃に酒と水を注ぐ。
少し頬が赤らんでいるが大丈夫か。そう思いながらも吉継も空になった自分の盃に酒を注ぐ。
吉継自身も大分酔って来ている事を悟り始めたから名前に水を要求すると、名前は少し危うい手付きで吉継の盃に水を注いだ。

「ねぇ、刑部」
「何だ」
「病身の貴方にこんな事を言うのは酷だけど……私や三成より、先に逝かないでね」
「……確かに酷よな。主は悪女よ、アクジョ」
「酷いなぁ。もし刑部が先に逝ったら、刑部の首、斬り取って飾っても良い?」

名前は吉継の肩に頭を預けてそう言った。
何時もの凛とした声音ではなく、少し甘えた様な声音で。
その発言に少しだけ心臓の鼓動が止まった気がした。

「? 刑部?」
「いや、何、主のらしくない言葉に少しばかり時が止まっただけよ」
「確かにらしくないかもね。でも刑部が悪いのよ」
「はて、我が悪い?一体何の事やら」

そう言って片手で優しく名前の髪を撫でてやると気持ちよさそうに身を捩る。
だが、吉継の肩から頭を避けると彼の耳元に唇を寄せて囁く。

「だって、貴方が私の話を妖怪話にして当の本人に語ったのだから」

横目で名前の表情を盗み見たらあの時の恍惚とした、狂喜的な笑みを浮かべていた。


2014/08/07