戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 居なくなった君を探せ

鹿之介の尼子晴久探しを手伝う事になった名前は薄墨色になりかけた空をぼんやりと眺めていた。
今や毛利軍の駒となった名前にとって生家でも尼子一族はもう既に過去の遺物の筈なのに。
それなのに当代である尼子晴久が失踪したという話を聞いた途端に毛利軍から飛び出し、鹿之介とおやっさんと共に晴久探しの旅に出てしまっていた。

「名前様、魚焼けましたよ。一緒に食べましょう?」
「あ、あぁうん。ありがとう」

笑顔で、先程川で釣り内臓の処理などをして焼いた魚を名前に差し出す。
それを少しだけ申し訳なさそうに受け取ると、鹿之介は名前のすぐ隣に腰掛けた。
名前は鹿之介と面識はあったが、それは"一応"といった位の認識でしかない。
名前がいた時の尼子には確かに鹿之介もおやっさんも居たが、その頃の鹿之介は今よりもうんと幼かったし、名前も姫として晴久の許嫁として城の奥にひっそりと大事に仕舞われていた。
尤も、大事に仕舞われていたとは言っても晴久に手を引かれてよく外に出て遊んでいたし、男児の服装をして薙刀の稽古にも励んでいた。
それを当時の尼子一族の長・経久に見つかった時は文字通り雷を落とされたけども。

それに名前は尼子を棄て、敵である毛利に属した人間だ。
そんな人間を頼ってきた鹿之介と馴れ合うつもりもなかったし、彼が名前を尼子に是が非でも連れ戻そうとするのは彼女にとっては合点がいかない事であった。
名前は尼子を棄てたが、それは名前が同じ尼子一族である父に棄てられたから棄てただけ。
生んで育てて貰った恩はあるが、今は怨みしか持ち合わせていない。
鹿之介もそれは解って居る筈だと思っているのだが、一緒に行動していたらそうではない様な気がしてきて若干頭が痛くなってきていた所だ。

「鹿之介」
「はい?」
「貴方は私が尼子を怨んでいるとは思わないの」
「……僕も最初は名前様とお話しする前はそう思いました。でも、怨んでいたら晴様探しを手伝うだなんて言わない筈です」
「甘いね。もし仮に詮久様を見つけたとして、私が詮久様と鹿之介、それにおやっさんを纏めて殺そうとしているとは思わないの?」

そう問うと鹿之介は少しだけ間を空けて「うーん」と悩み始める。
しかし、それはすぐに消えて先程の人懐っこい笑みを浮かべた。

「でも、名前様はそんな事はしないって僕、解ってます!」
「なっ……」
「僕は名前様の事を今まで"晴様の許嫁"としてしか知りませんでしたけど名前様と一緒に旅を始めて解ったんです。名前様は卑怯な事は絶対しない、って」
「呆れた。人が良いんだね、君って」

つい、毒気が抜けてくすっと笑ってしまう。
鹿之介は此処に来て初めて名前が笑ったのを見て「名前様が笑った!おやっさん、見ました?!ねぇおやっさん!」とはしゃぎ始めておやっさんに後ろ蹴りを食らっていた。
何だか気が抜けてしまい、鹿之介とおやっさんのやり取りに思わずくすくすと笑いが溢れてくる。

「君達、本当に仲が良いんだね」
「そりゃあもう!何たっておやっさんは僕の尊敬するお師匠様ですから!!」

えっへんと胸を張りおやっさん自慢をする鹿之介に、おやっさんは嬉しいのか高い声で鳴いている。
最初は鹿が師匠?と半信半疑で居たのにこうして見て見れば立派に師匠と弟子と言った様に見えるから不思議だ。

しかし、今になって少し後悔をしていた。
元就にきちんと文なり何なり残して厳島を、安芸を出ればよかったと。
元就は冷酷でいてあれで結構名前の事を気に掛けている。
それは今や国長になった元・風来坊の青年に言われて気がついた事なのだけど。
きっと突如名前が姿を消した事に対して兵士達に、特に清水に当り散らしているかもしれない。
しかも姿を消した理由が敵国の殿を探しに行くという理由だと知ったら戻った時に殺されるかもしれないなと思い、段々と表情が苦しくなっていく。
気の所為だろうがチリチリと胃も痛み始めてきた。
そんな名前の気を察しておやっさんが心配そうに名前の頬に自分の頬を擦り付け、きゅーっと鳴く。

「大丈夫、心配掛けてごめんね。おやっさん」
「おやっさん、名前様の事大好きみたいですからね。名前様が毛利さんの所から出て来るときも心配してましたし」
「そうだったんだ。ありがとう、おやっさん」

優しい手付きでおやっさんの顔、鼻先を撫でるとおやっさんは気持ち良さそうに泣き声を上げる。
そんな様を見て鹿之介は羨ましくなって「僕も!僕も心配してたっスすよ?!」と声を荒げる。
心配していたのは嘘ではない。だから声を荒げても問題はない筈だ。
必死な鹿之介を見て名前は呆れたのか「はいはい」と言いながらはにかんで鹿之介の頭も撫でる。
撫でられた箇所が少しだけ熱を帯びたかの様な錯覚を覚え、鹿之介は嬉しそうに歯を見せて笑った。

「でも鹿之介、一つ聞いてもいい?詮久様が何処にいらっしゃりそうか大体の目星は付いているの?目星もなく当てもなく彷徨い続けるのは得策ではないと思うけど」
「……」
「こら。いきなり目を逸らさない」
「だって、何時もはおやっさんの鹿仲間情報網で得た情報や、伝聞で得た情報で行動してたんで……」

鹿之介の発言に少しばかり呆れてしまったが全く何も考えず、と言う訳ではなさそうだから呆れの感情を表に出さない様に努める。
そして鹿之介から渡された魚を一口、口に含み咀嚼する。
とりあえず一夜明けてから次の行動を考えよう。

「鹿之介。明日の朝、伊予河野に行ってみよう」
「伊予河野、ですか?」

どうして伊予河野に?と言いたげな鹿之介とおやっさんに「鶴ちゃんなら何か解かるかも」と告げる。
するとそこで名前の意図を漸く理解したのか鹿之介は「はいっ!!」と元気に返事をした。
少しだけ先行き不安だが、此れだけの元気があれば有力な手がかり位であればすぐに見つかるだろう。
そう思い、名前は満天の星空を見上げながら故郷の風と砂の夢幻郷と失踪した、立場こそは解消されているが気が強い婚約者の事を思い浮かべていた。
そして、すぐに嬉しそうな顔で焼き魚を頬張る鹿之介を見て、早めに晴久が見つかったら少し位故郷に帰っても良いかな、とそう思うようになっていた。


2014/08/07