戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 月下でふたりきり

名前は一人露天風呂に使っていた。
丁度良い暗さの空に、湯船に浮かべた灯篭の灯り。
その二つを見つめながら、暫くの間ぼんやりとする。
こうしてゆっくり温泉につかったのは何時振りだっただろうか。
孫市や鶴姫、直虎に誘われて加賀の温泉には数度行っているが毎回毎回誰かに邪魔をされるからこんな風にゆっくり出来るのは本当に久し振りだ。
この温泉旅行を提案してくれた秀吉と半兵衛に感謝してもし尽くせない。

「でも、一人きりと言うのも寂しいな……」

以前加賀の温泉でマリアが話し相手が欲しいといって男性でも構わず自分の所に呼ぼうとした気持ちは良く解かる。
今、温泉に使っているのは名前唯一人だったから。
貸切状態のこの温泉で誰かが都合よく来てくれる訳もないのだけども。
溜息を吐いてそろそろ上がろうかと思った時、湯煙の向こうから人影が揺らめいた。
名前は目を凝らしてその姿を確認して見るが、見た所女ではなさそうだ。
慌てて温泉の中にある岩の陰に身を潜める。
三成に言われている。異性に体を見せるなと。
無論、夫君である三成以外の男性に自分の体を見せるつもりは名前にもないけど。

「……名前?貴様一体何をしている」
「その声、三成?やだ、どうして三成が此処に」
「今時間は混浴だと店主が言っていた」
「う、嘘……。私が入る時はそんな事言われなかった」

確か名前が入浴したのは物の数分前。
そんな数分で混浴の時間になんてなりやしないだろう。
名前は頭の中が混乱し、そしてやがて店主に化かされたと察した。
三成はそんな名前を尻目に湯船につかる。

「名前、此方に来い」
「わ、私もう上がります。混浴だったら他の人も来るだろうし、そうなる前に……」
「要らん心配だ。この宿は私達石田軍の者しか宿泊していない。他の者達は皆入浴を済ませているし、私が入浴している間は誰もきやしない」

人払いを確りされている事に名前は面食らった。
もしかしたら三成も共謀者か。そうなのか。そう思ってしまう。
三成の場合は謀を労する事はしないけれど。
それは全て刑部の仕事だ。
名前は三成に呼ばれるがまま、頬を少しだけ火照らせて三成の隣に座る。

横目で三成の姿を見るが相も変わらず白くて細い。
でも付くべき箇所に確りと筋肉は付いている。
その視線に「何をじろじろと見ている」と言いたげに三成は名前の顔をじっと見つめた。

「何を見ている。見慣れないものでもないだろう、貴様にとって私の体など」
「相変わらず細いなって思っただけです」
「それを言うのであれば貴様も相変わらず……いや、止めて置こう」
「ちょっと、それ、私が太っていると言いたいのですか?」

怒った様に声を業と低く出すと三成は「そういう訳ではない」と少し照れた様に訂正をするが、名前はそれを聞き入れようとしない。
どうせ孫市や直虎、マリアの様に細くて美しい体でない事位自分自身でも解かっている。
三成は嘘を吐く事を嫌っているし、だからこそ言葉を止めたのではないか。そう思ってしまって仕方がない。

「不貞腐れるな。貴様は貴様のままで良い。変な気は起こしてくれるな」
「嘘。もう少し細い方が好みなんじゃないの?そういえば……三成、貴方は孫市にご執心だものねー。孫市の方が好きだからそうなのかしら」
「ふざけるな。貴様が、名前が良いから妻にした。孫市は契約している間は決して裏切る事はしない。だからだ」

この言葉が嘘じゃない事位、重々承知だ。
だが、その言葉が真か嘘かを確認するかのような言葉を口にしてしまう。
彼に、三成に対して地雷にしかなりえないあの言葉を。

「……三成の手から離れて、敵対してみようかな。そうしたら必死になって追って来てくれるだろうし」
「いい加減にしろ。そんな行為許可しない」

只でさえ眼光が鋭い三成に思い切り睨み付けられて少しだけその形相が恐ろしくなって顔を背ける。
冗談で言ってみただけなのに冗談すら通用しない。
だが、そんな生真面目で正直な三成がどうしようもなく愛しい。

「冗談です。貴方に殺されたくないもの。……呼吸も出来ない位、三成が傍に居ないと生きて行けない位に溺れさせて欲しいと、そう思っているけど」
「何を阿呆な事を言っている。そんな懇願をされずとも私は名前を手放そうとは思っていない」
「本当?」
「嘘は吐かん。吐く気もない」

その言葉に名前は少し悩んでから三成の方に頭を預ける。
三成は顔を赤くして驚きの声を上げたが、直ぐに顔色を何時もの青白さに戻し名前の肩を抱いた。

「余り私に甘えるな。私は他人の甘やかし方など知りやしない」
「十分に貴方は私や刑部、左近に甘いから安心して。それに三成も時々で良いから私にだけでも甘えて見せて。傷付いたままの三成を見ているのは、その……、心臓に悪いから」
「甘え方などもっと知らん。適度に貴様から私を甘やかせ」
「もう、言い方が何時まで経っても威圧的だなぁ」

名前が呆れると三成は「フン」と鼻を鳴らす。
しかしこの強がっているようで強がって居ない姿勢も名前は好きで仕方がなかった。
妙に意地らしくて可愛くて。
可愛いなんて言葉を三成に使ったらきっと三成は怒り狂うだろうけど。

「ねぇ、三成。この後暇?」
「何故だ。暇な時間などはないが貴様が望むのであれば時間位空けておいてやる」
「本当?さっきね、とても綺麗な花が咲いていたの。滅多に見ない花だから三成と二人きりで見たかったからとても嬉しい」
「ほう。貴様が滅多に見ないと言うのであればさぞ珍しい花なのだろうな」
「もしかしたら昔半兵衛様が仰っていた"月下美人"と言う花かもしれない。真っ白で……まるで三成みたいなお花だったの」
「下らん。私に似た花などあって堪るか」

顔を背けられるがそれは三成の照れ隠しである事を知っている名前は微笑ましそうに頬を緩ませるだけ。
三成は湯に映り込んだ名前の表情を見て微かに笑みを浮かべた。

2014/08/01