戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 優しい眠り

三成は何故、今こんな状況になっているのかを冷静に分析していた。
頭は優しい手付きで髪を撫でられ、顔の側面片方だけに暖かく柔らかい感触。

「三成、気分は如何?」
「あぁ……、悪くはない。だが名前、貴様は一体何を考えている。また刑部に何か吹き込まれたのか」
「こら、友達の事を悪く言わないの」

三成は正座で座っている名前の太腿に頭を乗せていた。
それは所謂膝枕と言う奴で。
畏れ多くも過去に刀の稽古で疲れた時に半兵衛にして貰った事があった。
しかし、その時の膝枕の感触とは違う。
それは半兵衛が男で、名前が女で体の作り自体が違う事に他ならないのだけど。

名前は少しだけ嬉しそうに三成の顔、顔の輪郭ににそっと触れた。
擽ったかったのか「止めろ」と言って体を捩る。

「少し、こうして体を休めれば良いのに」
「何時も言っているだろう、休養など不要だ」
「……疲労が元で死んでしまうこともあるのよ。ほら、過労死」
「軟弱な奴の言い訳だ。私は疲労如きで死ぬような軟な鍛え方はしていない」
「……はぁ。本当頭が固いんだから」

心配するだけ損な人間だという事は百も承知ではあるが、名前にとって三成は大事な旦那様であるからほんの一日でも良いから身を休めて欲しいと思っている。
最近は食事は少しであれば摂ってくれるようになったがそれだけだ。

「……そもそも」
「?」
「何故私に膝枕などしている。このまま眠らせるつもりか」
「あわよくば眠って欲しいとは思っているけど、そうじゃない」
「ならば何だ」
「三成は何時も頑張っているから、少し位甘えて欲しいのが本音」
「下らん」

付き合いきれないと言いたげに体を起こそうとするが体がぼーっとして上手く起き上がれない。
もしかしたら食事か茶に薬でも盛られたか。
そう思い名前の事を恨めしそうに睨みつける。

「貴様、其処までして私を堕落させようとしたいのか」
「え、膝枕一つでそんな事言われるなんて思わなかった」
「ふざけるな。私の食事か茶に何か薬でも盛ったのだろう」
「そ、そんな事私はしません!三成ってば酷い!!」

少しだけ子供の様に頬を膨らませて怒り始める。
この様子では名前が薬を盛ったのは間違いのようだ。
本当に薬を盛ったのであれば視線を合わせずに言葉がしどろもどろになる事を三成が一番理解している。
さもすれば刑部か左近か。あの二人は何だかんだ言って名前に甘い節がある。
特に刑部、吉継に至っては名前と同じ様に食事を摂れ、休養を取れと言ってくる。
苦虫を噛み潰したかの様な表情をした。
しかし、名前はそんな三成を見て呆れた様に溜息を吐いた。

「……全く。今の貴方の体の状態を考えれば薬なんて盛らなくても楽に眠らせられます」
「何?それは如何いう事だ」
「今の三成の体は疲弊しきっているの。だから横になったお陰で体を束縛していた緊張が解れてぼんやりとしている。そんな所じゃないかな」
「私は横になりたくて横になった訳ではない。矢張り貴様が私を謀ったのだな、名前」
「だからそんなんじゃ……あぁもう、面倒くさいからそれで良いです」

しかし、名前はそれでも三成に対して優しい笑みを浮かべて、頭を撫でる。
頭を撫でられる、と言う行為は名前にとってはとても安心出来る行為だった。
半兵衛にも、秀吉にも幾度となく「良くやった」と褒められながら撫でられた時には胸が温かくなって体の芯からふにゃんふにゃんになっていた。
だからきっと三成も頭を撫でられたら少しは緊張が解れるのではないかと思ったら案の定。
しかし、本人はこの状態に抗っているみたいだが。

「こんなに無茶ばかりして、私は辛い」
「貴様が何故辛い思いをする」
「……大切な人が無茶していて辛くない人間なんていないんじゃないかな。私は少なくともそう思います」
「……そうか。私はそれ程迄に貴様に心労を掛けているのか」
「別にそういう訳じゃないけど、でも少しは適度に休養をとって欲しいし、さっきも言った様に出来ればもっと甘えて欲しい」
「休養をとるまでは良いが誰が甘えるか。私は餓鬼ではない」
「解ってるけど、少し寂しい」

ふいと顔を背けながらそう言う名前に三成は名前の顔の方向に視線をずらす。
全く以って女と言う生き物は面倒極まりない。
者によっては男の心を惑わせたり、我儘を言ってみたり、心配したり。
名前に関しては全て当て嵌まっている様に思えてくるが、煩わしくはない。
他の女に対しては煩わしいし、鬱陶しく邪魔なだけなのだけど。
名前だけ特別に思えるのは矢張りそれは自分が名前を愛しているからだという事を自覚しているけど。

三成は途端に名前の頬に手を伸ばし、指先で触れる。

「むくれるな」
「だって、三成はいつも無茶ばかり」
「それは貴様とて同じ事だ。名前、貴様は何時も私や刑部、左近や兵に時間を割き自分の身を安んじていないだろう」
「そんな事ありません。私は適度に休んでいます」
「どうだかな。ならば何故昨晩もその前も貴様の部屋に灯りが点っていた。貴様に付けた女中が喧しく騒ぎ立てて迷惑だ」
「……」

三成はふらりと体を起き上がらせると、座っている名前の腕を引き掴み、その場に組み伏せた。
名前の上から避けると名前の隣に寝転がる。
至近距離で見て初めて気が付いたが名前の目の下に薄っすらと黒い隈が浮かんでいた。
今度は指先で隈をそっと撫でる。

「隈が出来ている。私は貴様に心労を掛けたい訳でも、寧ろ無理を強いたい訳でもない」
「私の事を心配する位なら自分の体も気遣って……。もし三成が倒れでもしたら私、どうにかなってしまいそう……」
「……善処する。だが名前、貴様も無理だけはするな。自愛しろ」

そう言って三成は畳の上で寝そべりながらも名前の体を優しく抱き締めた。
名前の体からはふんわりと竜胆の花の香りがする。
何時も戦場で嗅いでいる血の鉄臭い臭いとは比べ物にならない位に心が休まる。
きっとこの香りもあるから体がぼんやりしたんだとなんとなく三成はそう思った。
香りだけじゃない。きっと名前の存在そのものに安心しきっている。
そう気付いても余り認めたくはないが、名前を好いて傍にいる許可を出したのは自分だ。

すべてを忘れる様にゆっくりと瞼を閉じ、意識も閉ざす。
少し位なら眠っても執務には差支えなど出ない。
やがて三成の口からは穏やかな寝息が零れ始めた。

「……眠っている顔はこんなに幼いのに、何故貴方はこんなに精悍で美しいのかしらね」

三成の腕に抱かれながら名前ははにかむ。
やがて名前も三成につられる様に瞼を閉じて眠りに就いた。


2014/06/24