戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 裏返りの感情

「名前様って何だか無理して生きてるって感じ」

突飛もなく、名前の部屋でさも当然に寝転がっている左近に名前は目を丸くした。
そして急に笑いがこみ上げてきて、声に出してクスクスと笑う。

「左近、貴方一体如何したの?」
「知ってますか、何時も笑顔な人は裏ではすっげー悩み抱えてる人だって」
「全く。貴方は無駄な知識を頭に詰め込む前に確りと軍略と毎度の戦の作戦を詰め込んで頂戴」
「うぇぇー、名前様も刑部さんと同じ事言う」
「当たり前です。左近ってはいっつもあっちへふらふら、こっちへふらふら……。武功を上げてる分三成は其処まで言わないけれど貴方の行動ははっきりいって処罰対象!軍機違反も甚だしいの」

ぴしゃりと一息でそう言われて息を詰まらせる。
そして名前は呆れた様に溜息を吐いたと思いきやぼそりと呟く。

「貴方の行動で悩んでいる事を少し理解して」
「う……、でも名前様の苦労は何も俺だけの所為じゃないっしょ?!」
「そうだけど。でも最近の私の苦労は左近、殆どが貴方の所為です。理解して」

ぎろりと睨みつけられて左近は思わず萎縮する。
確かに最近の名前は左近に時間を割いている様な気がする。
三成に言いつけられたからなのか如何なのか定かではないけれど。
それが嬉しくて、嬉しさ余って名前に迷惑を苦労をかけていたのか。
そう思うと急に申し訳なくなってくる。

しかし、左近の中で矢張り三成と名前が似た者夫婦だと思ってしまい、不意に口元がニヤついた。
深いそうに眉を顰めた名前に「何一人でニヤついてるの、気色悪い」と罵倒の言葉を貰ったが。

「いやだって、三成様と名前様似た物同士過ぎて」
「? 似た物同士?」
「だって三成様は相手が誰であっても絶対他人に相談とかしないし」
「……言われてみたらそうかも。今まで三成に何か相談された事の記憶なんて皆無だわ」
「でしょ?!」
「でも、それとさっきの私の悩みが如何とかの話が如何繋がるの?」
「人に相談事しない人は人に心配掛けたくない人らしいっス」

その一言に名前は苦い顔をした。
結構長い時間三成と時間を共有しているが三成は心配を掛けたくないとかそう言った気質ではない気がしたから。
どちらかと言うと周りに如何思われようが我関せずな気質だ。
寧ろ、逆に彼の言動の所為で名前はいつも三成を心配している。

「(あれ、此処でも思わず苦労の種が……)」
「? 名前様?如何したんです?」
「何でもない。でもその話を聞く限りは性格と本心は裏返っているような感じがするね」
「あー、言われてみれば……」
「ちょっと左近、貴方気がついてないでその話を私に振ったの?」

怪訝そうに尋ねると左近はケロッとした表情で「え、だって名前様が此処まで食いついてくるとは思ってなかったし」と言われる。
確かに名前自身も其処までこの話題に食いつこうとは思わなかったけども。
しかしそれにしたって少しは内容を考えて話題にするという事は出来ないのだろうか、この島左近と言う男は。
若干の頭痛に頭を抱えるが左近は気楽に「大丈夫っスか、名前様」とのたまっている。

そもそも君主の妻の部屋でのびのびと寝転がっている男が何かを考えているとは思えないのだけど。
こんな所を三成に見られたら烈火の如く怒り狂うに相違ない。
逆に吉継に見られるのも厄介な事この上ないが。
彼の場合事を面白可笑しく伝達して真実を引っ掻き回す傾向にある。
自分が面白ければそれで良いといった感じに。

其処まで考えてふと、左近の事で思い出した事がある。

「事象の裏返りといえば……三成に会う前の貴方は随分と死にたがっていたと聞いたけど、本当は誰かに受け止めて欲しかったんじゃない?」
「! ……ほーんと、名前様って性格悪い」

罰の悪い顔をした左近に名前はフッと笑う。
左近にとっては三成に会う前の自分は消し去りたい存在だったかもしれないが、むごったらしく三成に殺されたいと、そう思った瞬間に誰かに自分の罪も何もかもを受け止めて貰いたかったのだろう。
そして、三成がそれを受け止めたからこそ、三成の生き様を見て憧れて、生きていたいと、そう思ったのではないかと名前は思った。
尤も、名前はその渦中にいなかったし当事者でも何でもない。
矢張り、三成と左近の縁は、絆は切っても切れないなと名前は嬉しそうに微笑んだ。
左近もそんな名前を見て同じ様に、嬉しそうに微笑を浮かべる。

「ま、名前様の言う通りかも知んないけど」
「?」
「あの時は自分の無力さだけが歯痒くて仕方なくて、どうしようもなく死にたかった。俺自身が生きている事に憤りを感じていた。だから、あん時の俺が何を考えていたかなんてまるっきり覚えてないし、覚えてても理解出来ない」
「……素直ね」

そっと左近の赤と茶の髪に触れ、子供をあやす様な手つきで頭を撫でる。
急に子供扱いされたと勘違いしたのか左近は名前の手を払い、その場に胡坐を欠いて座った。
しかしその表情はまるっきり、子供が拗ねた時のそれと同じ物だったから名前は思わず噴出して笑ってしまう。

「なっ、名前様笑わないで下さいって!」
「だって左近ったら本当に子供みたいで、……っ、あはははは」
「だー!腹抱えて笑うなーっ!」

それでも尚、心の底から笑っている名前を見て左近は「こういう笑顔で居てくれるなら何だって良いや」と思い、笑った。


2014/06/22