戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 血と涙

※血に関する話題


名前は悲しい事があっても嬉しい事があっても涙を流す。
三成は泣きじゃくっている名前を腕に抱きながら考えていた。

「何を泣く必要がある。私が生きている事が嬉しいのであれば歓喜しろ。泣くな。いつもの様に笑え」
「泣くな、なんて無理。だって、勝手に涙が溢れ出てくるんですもの」
「貴様は何時も何時も……。私が傷付けば悲しいと言い、それでも生きていれば嬉しいなどとのたまう。嬉しいのか悲しいのかどちらかに感情を絞れ」
「三成は感情に乏しいから簡単にそう言えるの。私には三成が言う事を実践するのはとても難しい……」

ぎゅうっと三成の陣羽織の胸元を掴み、涙で濡れた睫毛を伏せる。
普段であれば「泣き言を言うな」とでも冷たく言い放っている所だが、名前の悲しみの度合いが解っているから今は冷たい言葉などは掛けない。
今の三成の格好は普段の陣羽織に胴鎧の格好ではなく、いつもの陣羽織に包帯と素肌といった格好であった。
包帯には傷口がまだ塞がりきれていないのか所々血が滲んでいる。

三成は先の戦で大怪我を負った。
それは報で聞いていた物よりも酷いもので名前は三成の傷の手当の途中にも関わらず、三成に抱きついていた。
軍医達には着物が汚れると諭されたし、三成からも「この程度如何という事はない」と言われ引き剥がされた。
しかしその直後三成が少しだけ、ほんの少しだけ口元を弛ませて名前に「手当てが終わったら抱いてやる」と言ったからこうなっている訳なのだが。

「三成が生きていて嬉しい反面、こんな大怪我を負うだなんて始めてだから怖くて……」
「だが私は今もこうして生き永らえ、貴様をこの腕で抱いている。恐れる事などない」
「恐れる事あります!だって、貴方が此処まで大きな怪我をするだなんて……。相手の強さが如何程か解ってしまう……」

また更に涙を流す。
別に三成は名前に泣いて欲しくはない。寧ろ笑っていて欲しい。
それなのに気持ちとは裏腹に泣く名前に苛立ちを覚えていた。
全て三成の思い通りに名前が動くとは思っていないけど。
名前が体の良い傀儡ではない事を三成は解っている。

「貴様はよく手傷を負わされた時こう言うだろう。"生きているだけまだ良い。生きていれば再起を図れる"と。その言葉を捻じ曲げるのか」
「……いいえ」
「なら泣くな、悲しむな。私の負傷を悲しみ嘆く事は私に対する冒涜だと知れ」
「……」

それでもまだ泣きたいのか名前は下唇を強く噛み締め、何とか泣きそうなのを堪える。

この女は強いのか弱いのか。
そう思ったが名前が強かろうが弱かろうが三成には関係はない。
大切に思っているし、愛しい。
それにどんな存在であれ傍にいて、支え守ってやろうとそう思っていた。
結納を収めた時、一人で密かにそう誓った。

少しでも名前の心を慰めようと努め、言葉を選ぶ。
そして話を転換した。

「名前。貴様は涙が元は血である事を知っているか」
「血と……?ううん、知りません」

ぐすっと鼻を啜り、肩をピクリと震わせた名前の目尻に指を伸ばす。
そして、その指で名前の涙を掬うと舌先で舐めた。
血の様な鉄の味や臭いはしないし、血は涙の様にしょっぱくはない。
しかし半兵衛が昔、三成が豊臣に加わった時に涙と血は同じ物だとそう言っていた。
だから滅多な事で泣いてはならないと、優しく頭を撫でながら。
そのお陰で三成は此処まで生きるにあたって泣いた事など片手で数える位しかなかった。
それでも泣いてしまった事には変わりはないのだけど。

「以前から私は私は貴様の血など見たくはないと、そう言っている」
「……うん」
「それは涙を流されている事と同義であり、貴様の血を見ている様で気分が悪い」

その一言で名前は少しだけ目を見開かせる。
そして先程よりも強く三成の陣羽織を握り締めた。
震える声で自らの感情を主張させながら。
必死に涙を押さえ込んで。

「それなら、私だって……」
「何?」
「三成が怪我をしているのを見るの、凄く……辛い」

その言葉を聞いて無言で名前の体をもっと自分の体の方へ引き寄せる。
名前に対する感情はいつも自分の抱いているそれとは違う、柔らかくあたたかい物に変貌していく。
それは紛れもなく三成が名前を愛しているからなのだけど。
それに今の三成の理論で行けば名前にとっても三成が怪我をしていると言うのは彼が泣いている事と同義だ。
名前の前で泣いた事などは今まで一度足りもないけれど。

泣きそうな名前を諭す様に優しげな声音で語りかけた。

「二度と……二度とこんな下手は打たん。だから安心しろ」
「三成」
「私と貴様は共にある。それはこれからも同じだ。それに私が貴様よりも先に死ぬなど到底ありえん事象だ。私は他でもない、秀吉様の左腕なのだから」
「……ふふっ、相変わらず自信過剰な面があるんだから」

今のは笑い処ではないのだが、とそう思ったが漸く見られた名前の笑顔に三成は口元を弛ませた。
そうだ。この笑顔が一番良い。泣いている顔よりも。
透明な血液で汚れた顔よりも。
ずっとずっと笑顔でいてくれる方が良い。

すると名前は薄い笑みを浮かべて三成の顔を上目遣いで覗き込んだ。

「なぁに、三成。今の一連の流れで何か嬉しい事でもあったの?」
「そんなものあってたまるか。貴様の馬鹿さ加減に呆れただけだ」
「……ふぅん。そういう事にしておきましょ」
「何だその口ぶりは」
「ふふっ」
「笑ってはぐらかすな」

そう言いつつも何やかんやで名前の事が大切過ぎてずっと抱き締めたまま、三成は瞼を閉じた。





「そういえば三成、知ってる?」
「何だ」
「大好きな人と抱きしめあうと傷や痣の治りが早くなるんだって」
「……つまり、何が言いたい」
「もう少し、三成に抱きついてる。そしたら三成の怪我も早く癒えるでしょ?」
「そんな迷信に踊らされるな。……だが、私はそれを拒否しない。して堪るものか」


2014/06/22

最後の「大好きな人と抱きしめあうと〜」の下りはオキシトシンと言うホルモンが出るから治りが早くなるそうです