戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 尊ぶべき存在

名前は秀吉に謁見しに大阪城の天守閣に来ていた。
秀吉はそれを三成の事で相談があると思い受け入れたのだが、名前は予想だにしない事を口にした。

「秀吉様の手を測らせてください」

そう言った名前の腕には筒状に巻かれた固めの半紙に、墨絵画家が屋外で絵を書く時に使う携帯用の筆、巻尺が抱えられていた。
しかし何故手なのか。手の大きさが如何したのか。
それを問いたいが名前の雰囲気はそれを聞いた所で答えてくれなさそうだ。
無理に聞く事もない。きっと何か理由があっての行動だろうし、それであれば何時かは意味が解かるだろうと思った結果だ。

大人しく名前に手を差し出すと名前はにこにこと、花が飛びそうな笑顔で秀吉の手の大きさを測量する。
測量し、その結果を紙にスラスラと書き記していく。
そして、墨が乾くとすぐに半紙を元の形状に丸めて「ご協力ありがとうございました!暫しの間お待ちくださいませ」と言って天守から出て行く。
秀吉はその背をただただ静かに見つめているしかなかった。
入れ替わりに不可思議そうな表情をした半兵衛が入ってくる。

「? どうしたんだい秀吉。今、大荷物を抱えた名前君が元気よく駆けて行ったけど。何かあったのかい」
「我にも解らぬ。が、手を測量された」
「手?あぁ、君の手は大きいからね。どの位の大きさか確認したかったんじゃないかな。ほら、彼女は時々突飛な行動を取るだろう?」
「それにしては些か突飛過ぎはせぬか」
「うーん……、そうだね」

名前を実妹の様に可愛がっている半兵衛も時折名前の起こす行動についていけないらしい。
しかし秀吉から聞いた行動から何かを察して考えているようにも思えたが、「君は特に気にしなくても良いんじゃないかな。害はないと思うし」と言って書類を置いていった。


一方名前は以降ずっと部屋に篭り針仕事に励んでいた。
この前城に来た反物屋が見せてくれた布と布の間に綿を挟み、格子状に縫い合わせた柔らかい布を秀吉の手に合う大きさに裁断していく。
何を作っているのかと言うと、これまた以前所用で半兵衛と九州に行った際に市で聞いた異国の"みとん"と言う物を作っていたのだ。

秀吉は素手で戦う。
防具になる物を装備してはいるが戦が終わった後、時折拳を痛そうにさすっている時があるのを名前は知っていた。
この布であれば少しはその痛みも緩和出来るのではないか。
そう思いながら名前は鼻唄混じりに布に針を通し始めた。

「名前?やけに上機嫌だが、何をしている」
「三成。うん、秀吉様に贈り物をと思って」
「なっ?!秀吉様に畏れ多くも贈り物だと?我が妻ながら貴様、何を考えて生きている」
「うっ……其処まで言わなくても良いじゃない」

三成の言葉にやや沈みながらも名前は器用に手元を見ずにしっかりと布同士を縫い付けていく。
呆れながらも名前の作業を隣に座りじっと見つめる。
恐らく秀吉に渡す物と言ったから一部の乱れもないか確認しているのだろう。

「あのね、そんなにじっと見られると縫いにくい……」
「そもそも何を作っている。袋か?」
「袋といえば袋かな。"みとん"と言う装身具」
「"みとん"?何だそれは」
「だから装身具」

装身具と言われても実物を見た事がない三成にはどんな物か予想も付かない。
その事でじっと悩んでいたのだが名前には違う風に取られたらしく「三成も欲しいの?」と聞かれる。
名前が作ってくれるというのは嬉しい事なのだが秀吉と同じ物を身に付ける等それこそ畏れ多い。

「いや、良い」
「そう?もし必要な時には申し付けてくださいね。手の大きさ測って型紙作るから」
「型紙?」

その一言に三成は嫌な予感がして名前に作業を止め、しっかりと自分の目を見るように命令した。
そして、少しだけ怒りを込めた様な声音で名前に言葉を語りかける。

「今、手の大きさを測ると、そう言ったな」
「はい」
「もしや貴様、秀吉様の元へ赴き秀吉様のお手を測量したと……そんな事はしなかっただろうな?」
「……」
「何とか言え。黙秘は許可しない」
「……しました。秀吉様も快く測量させて下さ……痛い!何も拳骨落とさなくても良いじゃない!」
「貴様と言う女は正真正銘のド阿呆だな!救いようがない」
「ド阿呆じゃありません。三成ったら酷い!!」

三成に拳骨を落とされた頭を両手で抑え、涙目で訴えるも三成はいつもの調子で名前を睨みつけていた。
それは秀吉を神の如く崇拝している彼の事だから自分に何の断わりもなく秀吉に謁見した事を怒っているのだろう。
それは名前も似たような(三成の様に過度ではないが)感情を持っているから解らないでもないけれど。
でも、事前に三成に話をしていては秀吉の手の寸法など測る事すら叶わなかっただろう。

それに秀吉は以前から名前に「何かあったら気兼ねなく我の元に来い」と、名前に育ての父の様にそう言っていた。
それなのに許可を通す道理はないとも思っていたから、三成にこれ以上怒られる事は筋違いだと思い始めていた。

「もう、三成ったらそろそろ喚くなら針と糸で口を縫いつけますよ」
「出来るものならやってみろ」
「……じゃあ遠慮なく」

そう言って糸を通した針を持ち三成ににじり寄る。
まさか本当に縫いつけようとするとは思っていなかったのか三成はすぐに素直に「すまん」と謝った。


数日後。名前は三成に監視されながら秀吉の為に縫ったみとんを完成させた。
渡しに行く時はなるべく慎重に。三成にどやされない様に。
そう思っていたが、常に三成が名前の傍にいたから共に秀吉がいる天守に赴く事になったのだけど。

名前は完成したみとんを大事そうに両腕で確りと抱え込んでいた。

「しかし、本当にそれを秀吉様にお渡しするのか」
「えぇ。何か問題でもある?」
「……いや。貴様の感性を疑う訳ではないが、それは些か、秀吉様の威厳に欠けると思うのだが」
「そう?秀吉様、喜んでくださるかな」
「……私はもう何も言わんぞ」

天守に着くと二人は名前だけ告げて天守の襖を頭を垂れながら開く。

「三成と名前か。何用だ」
「はっ。実は名前めが畏れ多くも秀吉様にご献上したい物があると……」
「む、以前手を測らせろと言っていた物と関係があるのか」
「作用にございます」

名前は秀吉の目の前まで近づくと片膝を着き、両腕に抱えていた真っ赤なみとんを秀吉差し出す。
見た事がない袋状のそれに秀吉は「何だこれは」と問いかけると名前は緊張しながらも「異国の装身具である"みとん"と言うものです」と秀吉の目を確りと見つめて返じる。

「秀吉様は拳で戦われていますが、戦の後に手を擦られている所をよく拝見致しましたので……。少しでも痛みを軽減できればと思い作りました」
「そうか。……すまぬな名前。ありがたく使わせて貰おう」
「秀吉様……!」

秀吉に頭を撫でられ名前は感極まって、嬉しそうに三成に振り返る。
三成も秀吉にに頭を撫でられたいのか羨望と若干の嫉妬が入り混じった眼差しで名前を見つめるが、名前の表情に小声で「良かったな」と零した。


私にとっては尊ぶ存在


三成と名前が去っていった後、秀吉は名前から渡されたみとんを見つめていた。
手に嵌めてみるが、流石確りと寸法を取っているだけある。
大きすぎもなく小さくもない。丁度良い大きさだ。
しかし、これは些か可愛過ぎではないのかと秀吉は思っていた。

「秀吉、それは……。あぁ、名前君からか」
「うむ」
「それね、この前彼女を九州に連れて行った時に市で話を聞いてね、ずっと君に為に作るんだって名前君、意気込んでいたんだよ」
「そうだったのか」
「……まぁ、秀吉が使うには少し可愛い意匠を凝らしたみたいだけどね」

半兵衛は名前に対して「困った子だ」と言わんばかりにはにかんでみとんの甲を見つめた。
其処に縫われていたのは豊臣の家紋である五七の桐にデフォルメされた秀吉が布を組み合わされて縫い付けられていた。
しかし、嫌な気はしない。

「よい。これは名前なりの表現の仕方だ」

その後、城の中でこのみとんを使用している秀吉が複数の武将に目撃された。


2014/06/15


秀吉様の味沌が可愛かったので。
しかしあれは昔ねねさんが縫った物じゃないかと思っていたり