戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ どうして世界は報われない

※半兵衛ドラマルート、死ネタ


名前は目の前で起きている光景に「嘘であって欲しい」と願っていた。
報告で聞いていたがまさか本当にこの人が攻めてくるだなんて。
左近が、吉継が、三成が、名前を城の奥底に閉じ込め様とした意図が少しだけ解った様な気がした。

「次は君だね、名前君」
「半兵衛、様……。何で?何で、ですか……」
「聡い君なら解る筈だよ。僕が何故こうして反乱を起こし、此処佐和山城に攻め入ってきたか」
「!!?」

半兵衛の言葉を聞いていたら意味が解らない間に半兵衛は関節剣で名前に攻撃を仕掛けてくる。
目の前に迫る刃にハッとして鉄扇で防御し、弾くも半兵衛はすぐに次の攻撃を仕掛けてくる。
しかし名前は半兵衛に反撃する事など考えていなかった。
そんな事、名前に出来る筈がなかった。

名前は半兵衛が胸を病んでいる事を知っていた。
その事に気がついた時愕然と、絶望を味わいながらも半兵衛に従事し、彼の言付けを守ってきた。
半兵衛の胸の病の事は内密に。半兵衛の負担を少しでも軽減する為に尽くした。
それはこの佐和山城城主である石田三成に嫁いだ後もそうだった。
尤も名前が半兵衛の病に気がついたのは三成に嫁いだ後だったのだけど。

「何をぼんやりしているんだ。武器を構えたまえ、名前君」
「嫌……嫌です!半兵衛様の意図を汲めたとしたとして、それでも貴方様に牙を剥くだなんで私には出来ません!!」
「何を腑抜けた事を言っているんだい?君の意思なんて関係ない」

冷たく言い放たれた言葉に名前は動揺した。
名前にとっての半兵衛は優しい、実の兄の様な人間だったから。
こんなに突き放した様な言葉を言われるのは初めての事だった。
それ故に心に重い衝撃が走る。
その言葉が本心の物ではないと解っていながらも。

だからこそ名前は感情を押し殺し、半兵衛が望む様に全力で戦おうと心に決めた。
そして勢いよく地面を蹴り、半兵衛の懐に入ろうとする。
が、半兵衛の関節剣の方が近距離での戦いでは有利。
鞭の様にしなやかな動きを見せる剣に当たらない様にかわすのは中々に難しい。
既に何回か攻撃が当たり、皮膚が裂かれ、血が滲んでいた。
しかしその痛みを我慢し、体を震わせる。

「嫌、です」
「?」
「嫌です半兵衛様!私はまだ貴方様との夢の続きを叶えたい!!だから、こんな事をせずに療養なさってください!!」
「……何時までも甘えないでくれないか。君はもう支えられる立場の人間じゃない。支える側の人間なんだ。そして支えるのは僕じゃない。……それは解っているね?」
「解っています。でも!!」

堪えていた涙がぼろぼろと玉になり、頬から顎を伝い落ちていく。

「君と言う子は……。ほら、左腕の嫁が他人の前でめそめそ泣くんじゃない。矢張り君は戦に関わってはいけない人間の様だね、名前君」

「君は可哀想な位に優し過ぎる」。そう言って半兵衛は両腕を広げた。
どうやら名前の涙を見て彼女に対する戦意が少し薄れたらしい。
名前は鉄扇をその場に棄てて半兵衛の元まで駆ける。
そして広げられた両腕の中に飛び込むと声を荒げて泣き始めた。
そんな名前の後頭部を半兵衛は優しい、柔らかな手つきで撫でる。
この子は何時まで経っても子供のままだと若干の憐れみを込めた笑みを浮かべながら。

しかし、何時までも甘やかしてはいけない。
それを頭では理解しているのにどうしても半兵衛は名前に対して親の様な感情を出してしまう。
彼女を拾って豊臣の将として育ててきた途中で情が生まれてしまったのかもしれない。
そうじゃなければこんなに可哀相で、愛しくて別れが辛いなどと言った感情は湧き上がって来ない。

「君は僕の言いたい事を理解出来ては居ない。君が置かれた立場も、だ。それは三成君も同じ事。僕は君達がそれに気付かないと次代の豊臣に未来がないと、そう思っている」
「それなら何故此処を、佐和山を攻めになられたのですか……!」
「……こればかりは僕の口から言葉として教えるのではなく、君達が置かれた立場を体現して足りない部分に自らの思考で気がつかなければいけない事なんだ」
「でも、それでも!命を削る事などないじゃありませんか!!」

名前が吼えた言葉に半兵衛は儚い表情を浮かべた。
その笑みに名前は「まさか……」と声を震わせて、零す。

「僕にはもう、時間がないんだ。一刻の猶予もない位にね」
「そんな、嘘。嘘!!半兵衛様……」
「だから聞き分けてくれ。僕の最期の"お願い"を」
「……え?」

気が付いた時には名前は地面に倒れ付していた。
一体何が起きたのか。
目の前で赤い飛沫が宙を舞い、半兵衛は悲しそうに其処に立っていた。

「半兵衛、様?」
「大丈夫、死にはしないよ。それに、三成君も殺しはしない。だから少しの間君は其処で眠っていてくれ」

優しい子守唄の様に紡がれる半兵衛の声に段々と名前の意識は霞んで行く。
そしてゆっくりと名前は意識を閉じて動かなくなった。

「すまない名前君。でも、僕にはもう本当に猶予がないんだ。この命の灯が尽きる前に三成君にも……」

痛み始める胸を右手で掻き抱き、三成がいる佐和山城の広間をキッとねめつける。

「君は何時までも幸せに生きていてくれ給え」

そう、意識を落とした名前に告げて半兵衛は三成の元に向かった。


どうして世界は報われない


「名前様、名前様っ!起きてください名前様!!」
「……ん、左近?」
「! 刑部さん、名前様目覚めましたよ!」
「然様か。ふむ、見た所傷も浅かろ。痛みで少しばかり気を失っていたか」
「刑部、も……。……三成と半兵衛様は?!」

左近に抱き抱えられていた体を勢いよく起こし、名前は声を荒げる。
半兵衛に切りつけられた傷口から血が噴出すが、今はそんな事は関係なかった。
すると左近はやるせなさそうに顔を伏せ、吉継は腕を伸ばして「あちらを見よ」と指を指す。

其処には半兵衛を抱き抱えた三成がいた。
三成はしきりに半兵衛の名を呼び、泣いている。真っ赤な涙を流して。
名前も三成の所に行こうと左近の腕から離れる。

「半兵衛、様……」
「名前様」
「左近、止めよ」
「でも刑部さん!あんな三成様と名前様、俺見たくねぇ」

「きっと、半兵衛さんもあんな二人の姿見たくないに決まってる」。
そう言った左近に吉継は目を細めた。そしてそのまま半兵衛の躯を囲い、泣きじゃくっている二人を見つめる。
どうしていつもこんな結末しか訪れないのかと、腹の底で嘲り笑いながら。


2014/06/13

外伝では半兵衛生存ルート切実希望