戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 鎖で繋ぐ狂気

※死ネタ、狂っている


何だか今日は夢見が悪かった。
故郷の風と砂の無何有の中で一人ぽつんと立ち尽くし、幼馴染の名を呼び続けていた。
その場から走り出したかったか、砂に足を取られて動き出せない。
そしてそのまま、砂が名前の足を飲み込んでいく。声もやがては出せなくなり、もがきながら砂の中にどぷんと水に石が落ちたかの様な音を立てて沈んでいった。
その所為で昨日の疲れが取れずに酷い顔をしていたのか、主君は不快そうに顔をしかめた。

「酷い顔よ」
「申し訳ございません」
「その様な顔、我に見せるでないわ。今日は一日療養しておれ」
「なりません!!今日は、元就様が城下にお忍びで視察に向かわれる日!私が貴方様のお傍に居らず誰がお守りするのです」

そう言うと元就は采配の先端を名前に突きつけた。
刃物を突き付けられている訳でもないのに、戦場の感覚が体に走り、汗が噴き出す。
普段から威圧感があるこの君主だ。
この氷の様な瞳で何かを向けられればその場に恐怖で縛り付けられた様になる。

だが、名前はそれでも心から、命が尽きるまで彼に付いて行こうと決めているのだけど。
その言葉を手向けた時の元就は冷笑を浮かべながらも快く名前を迎えたけれども。
だからこその今の言葉が名前の口から吐き出された。

「そなたが居らずとも我は怪我など負わぬ。我を誰と心得る?」
「私共の君主であり日輪に定められし神子・毛利元就様です」
「解っておるなら戯言を口にするな」
「しかし、もしもの事態がございます!最近は義輝公の天政奉還により諸侯の動きは活発化しています!元就様に傷一つつく事があれば私は自害せざるを得ません!」

凛と元就の冷たい目を見つめる。
元就の本質が解らなければ、彼の目が恐ろしくて大抵の人間は目を背けるだろう。
しかし、名前は元就の全てを解ってはおらずとも、ほんの一握りでも彼の本質をその手に取り、理解している為に目を叛ける事はしなかった。
それに此処で目を背けるのは彼に対しての忠義を曲げる事になると考えている。
元就に対しての思いだけは何があっても絶対に曲げたくない。

元就も名前の意思に珍しく折れたのか、はたまた面倒くさくなったのか、「すぐに支度をせよ」と短く名前に申し伝えた。
その言葉だけで名前の表情は途端に明るくなる。

「すぐに、すぐに用意をして参ります!ですから、少々お待ちくださいね元就様!」
「無駄口を叩く暇があるのならば早う着替えて来い。我を待たせるつもりか」

ばたばたと騒がしく名前は元就の部屋から自室へ走っていく。
全く落ち着きの無い犬だと元就は溜息を吐いた。
だが、名前と居る時は何故だか楽しい。

以前敵対している西海の鬼に「あんたが死んであんたの顔を思い出す奴はいねぇ」とそう言われたが、そんな事は無い。
名前が、名前が思い出してくれる。
そんな根拠の無い考えが珍しく頭の中に生まれ落ちたが、らしくもないとすぐにその考えを頭の中で殺した。


名前の支度もすぐに完了し、二人は徒歩で城下まで向かう。
馬を使った方が早いと名前は元就に進言したが、そんな事は解り切っていると言いたげな表情で、でも無言で名前の手を引き城下まで歩いてきた。
歩いている間、名前があれやこれやと耳が暇にならないように言葉を紡いでいたが、ずっと返答しないで此処まで来た。
しかし、それがつまらない訳でもなく。
名前も元就がつまらないと思っていない事を理解していたからずっと話を続けていたのだけど。

城下についた途端、状況は少しだけ変わった。
行きかう人の波と活気のある声に名前は感嘆の息を零した。

「元就様、市は人で賑わっていますね」
「ふむ」
「元就様の統治のお陰でしょうか」

頬を染めて嬉しそうにそう言った名前に顔を背ける。
この表情を見るとつい表情が崩れそうになる。
そしてこの前、彼女以外の部下から聞いた彼女の行動を話題転換に利用する。

「当たり前よ。それよりも名前、そなたの独断専行を我が見落としていると思うてか」
「えっ?!……一体何の事を仰ってるのでしょうか。私には解りかねます」

急に狼狽し始めた名前に元就は本日二回目の溜息を吐いた。

「農民の年貢の量を勝手に減らしたというのは本当であるようだな」
「……申し訳ございません」
「別に構わぬ。そなたの事ぞ、考えなしに慈悲のみで減らした訳ではない事くらい解っておるわ」
「無いと言っている者から無理に巻き上げても、それが次回に繋がる訳ではありませんから。軽減してやればその分、次は頑張ってくれる。少なくとも私はそう思っています」

「こんな私の考えは甘いと思いますか」。
少しだけ悲しそうな声音でそう言った名前は、元就の言葉を待っていた。
しかし、その言葉に元就は言葉を返そうとは思わない。
確かに甘いといえば甘い。農民がそれを癖にし、その後も繰り返し同じ手が通用すると知恵をつけては元就側も困る。
だが、名前は自分とは違い農民に慕われているから彼女の命であれば今名前が言った言葉通りに、次回の年貢収めを頑張ってくれる事は元就の頭ではすぐに解っていた。

その後も二人は城下の町を視察する。
少し休んで今度は町の南を見てみようと話をしていたら、途端元就は何かの気配を感じた。
これは明らかに元就に向けられた殺気。
名前もそれを感じ取ったのか「お下がりください」と、元就を自分の背後に隠す。
そして腰に携えていた刀を鞘から引き抜き、構える。

「元就様を狙うとは相当の馬鹿に雇われている様だ」

そう言うと名前は足を器用に使い、其処に転がっていた石を殺気が放たれている方向に飛ばした。
石は見事に殺気を放っていた人間に当たったらしい。鈍い音が聞こえた。
この殺気の放ち方。忍のそれではないなと名前も元就は考える。
そもそも忍であれば此処まで露骨に殺気などを放ちはしない。

その考えは的中したのかぞろぞろと刀を持った牢人が二人を囲む様に現れた。
そして、一瞬時間を置いて名前に斬りかかろうとする。
が、逆に名前に斬られその場に真っ赤な血と腸をぶちまけてその場に崩れる。
一人斬っただけなのに名前の体の半分は鮮血で真っ赤に染まっていた。
しかし、名前は元就を守る為に牢人に斬りかかりに行く。
何人も何人も。無我夢中で斬り刻む。
その様に怖気ついた数人はその場から逃げ出してしまったけれど。

元就はぼんやりと何時もの光景だと、それを見つめていた。
この時の名前はまるで名前ではない、別の人間のようだと思いながら。

「派手にやりおって。これでは忍んで視察に来た事がばれるであろうが、たわけ」
「元就様、お怪我は?」
「無い。だが、そなたの所為で着物が血で汚れたわ」
「ご無礼を……!申し訳ございません!!」

深々と頭を下げる名前は何時もの名前だ。
下げられたままの頭にそっと手を置き、撫でてやる。
すると名前はバッと勢い良く頭を上げ、元就を見つめた。

「元就、様……?」
「気にするな。そなたは我の為に働いた。これからも我を守る犬(こま)であれ」
「!! はい、元就様!!」

この人を思い戦う度に自分が自分で無いような錯覚に陥るが、元就の為に戦う事が全てであるから名前は自分が壊れて、何か別な物になっても構わないと思っていた。
こうして名前を呼んでもらえて、傍に置いて貰う事が出来て。
それだけで至福だ。天にも昇る心地になる。
以前、友人である鶴姫に悲しそうな顔で「名前ちゃんは毛利さんの傍に居ては駄目です。心が冷えて死んでしまいます」とそう言われたが、別に元就の為に戦えるのなら別の者になっても構わないと思っていた。
そう思っているのに、何故か悲しい気がしてならない。

「名前、そなたに新しい着物を買ってやる。早く来い」
「お待ちください、元就様!」

刀に付いた血油を払い、鞘に収める。
そして元就の後を何時もの様に付いて行く。
その場に散らばった牢人の腸を踏み潰し、血の足跡を作りながら。

2014/05/01