戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 鼓膜を犯す

※微裏


一体何処からこういう技を覚えてくるのか。名前は三成に問い質したかった。

「名前……」
「止めて三成。擽ったい……」

耳に掛かる吐息に、耳に直接掛かる低くて甘い声。
全て好きな人間が名前の耳にそれを与えているのだが、背中がぞわっとして仕方がない。
三成から離れたいが背中にしっかりと腕を回して拘束されている所為で身動きが出来ない。
離れて欲しいという意思表示だけ、一応しっかりと現せておくかと身を捩るが、それをさせない様に今までよりもしっかりと腕に力を込めて名前を拘束した。

「三成」
「貴様が悪い。私から離れようなどとするから」
「だって、こうして抱き付かれていたらまた耳元で囁くでしょう?その、何だか恥ずかしいから止めて欲しい……」
「何を恥じる必要があるんだ、この部屋には今私と名前しか居ない。それに私達は夫婦なんだ、こうしていて何の不都合がある」
「……膝枕してあげるのじゃ、駄目?」
「満足しない」
「……そう」

膝枕じゃ物足りないのか。
よく、結婚している女中や侍女の話を聞いていたら膝枕は男性には効果覿面だと思っていたのに。
よくよく考えれば三成は普通の人間とは感性が違うから仕方がないけど。
それに、この体制は三成の顔を間近で眺めるには丁度良い。
端正な顔立ち過ぎて直視していたら恥ずかしくなって、目を逸らしてしまうけれど。

すると今度はそれが気に食わなかったのか片手だけで器用に自分の顔に名前の焦点を合わせようとする。
無理やりに交じり合った視線に何故か羞恥心が沸く。
こんな事、今更過ぎる事なのに。

「や……」
「私の事を拒否するな。それとも私の事など嫌になったのか?」
「そういう訳じゃありません。三成の顔、近過ぎてドキドキして仕方ないの」

そう言って見せると三成は名前を抱きしめたまま、少しだけ体を屈めて片手を名前の左胸に当てる。
あまりの事に恥ずかしくなって顔を真っ赤に染めるが、三成はお構いなしだ。
別に如何わしい事をしている訳ではないのに、そう言った事をしているように思えてくる自分の頭が酷く憎らしい。
本当はそうされたいと願っているのではないかと心の底では思っているのかと、心配になる。
確かに三成の事は愛しているが、そう言った事は余りしたくはない。
三成はいつもわざと痛くして来る。はっきり言えば痛いのは嫌だ。

しかし、名前が色々思案している内に三成はまた名前の耳元に唇を寄せていた。

「偽りは無い様だな。掌に心の臓の鼓動が伝わってくる」
「やっ?!だから、耳元、止めて!!」
「騒ぐな、喧しい」

表情は何時もと同じ、不機嫌そうな物なのに何故こんなにも名前を求めようとしているのだろうか。
大抵三成が名前にこうして抱きついてきたり、言葉を求めたりしてくる時は構って欲しいという意図があったりするのだが。
だが、今回は少し戯れが過ぎる。
彼が他人に甘え慣れていないというのは重々承知だが、止めてと言った事を何度もするような人ではないのに。
一体何があったのだろうか。

「三成、私に何かして欲しい事でもあるの?」
「ない。ただ、こうして腕の中に置いておきたいだけだ」
「解りました。好きなだけ閉じ込めていて良いから、お願いだから耳元で喋るのだけは止めて。可笑しくなっちゃいそう」
「可笑しくなる?何故だ」
「何故って……。そう聞かれると返答に困るなぁ……」

三成の声は大好きだし、ずっと聞いていて飽きないが、至近距離で聞いていると矢張り背中が粟立つ。
嫌悪感等は全くないが、とにかく嫌だ。
耳が、鼓膜が犯されている様な感じがして。
そう思ったが、何となく耳元で喋られるのが嫌な理由が思案の中に現れた。

「耳が、三成の声に犯されている気がして可笑しくなりそう」
「下らん。耳が声で犯されるなど聞いた事がない」

少しだけ三成の纏う空気が不機嫌な時のそれになってしまったが、すぐに何時も二人きりで居る少し穏やかな物に変わった。
何か考えでも浮かんだのだろうか。
だが、それが何故だか嫌な感じがして仕方がない。

「今、貴様は私の声で耳が犯されると言ったな」
「う、うん。そんな感じがするっていうだけだけど」
「なら私の声だけで名前の耳を満たしてやる。そうだ、他の者の声など聞く必要は無い。私の声だけ恋い得る様になればいい」
「それは困るなぁ。秀吉様と半兵衛様のご命令聞けなくなると大変だし、刑部や左近とお話出来なくなるとそれはそれで退屈」
「私が居れば満足だろう?」
「確かに、三成が傍に居れば心は満たされるけど……。三成が遠征とかで遠くに行ってしまって傍にいない時は如何すればいいの?」
「……」
「考えていなかったのね」

なんて可愛い旦那様なのだろうか。
うっかり言葉にしたら怒鳴られるに相違ないけれど。
しかし、表情を欺ける事は出来なく、うっかりにっこりと笑ってしまった。

それに、そんな事をしなくたって名前は何時でも三成を求めている。
そんな、わざとらしい事をしなくたって心も体も全ては三成に捧げている。

「それに三成の声は何時も通りの距離で聞いていたいな」
「そんなに近くで喋られるのは嫌か」
「嫌じゃないよ。でも、三成の声はとても素敵だから。余り近くで聞いているとその、頭がぼーっとして何にも考えられなくなっちゃいそう。それに……」
「?」
「三成に体中を触れて欲しいと、そう思ってしまうから、やっぱり駄目」

自分で言っていて恥ずかしくなり、そのまま三成の胸板に顔を埋める。
しかし、それがいけなかった。
三成は名前をそのまま抱え、床の上に転がす。
そして、体を密着させるように上に覆いかぶさってきた。
今、何が起きているのかを頭の中で整理していると、三成は指先で名前の頬を撫でる。

「今も、触れて欲しいと、そう願うか?」
「え?」
「貴様は何故、私を逐一その気にさせる様な言をとる。気持ちに収まりがつかなくなっただろう、馬鹿」
「……馬鹿で良いよ」

手を伸ばし、三成の頭を優しく撫でる。
そして名前は自分から三成に口付けた。
名前からそう言った事をされるのは初めてな所為で面食らってしまっている。
そんな三成に優しく微笑む。

「今日は三成が好きな様にして良いよ。三成に触れられるのは、大好きだから」
「……明日は一日歩けんぞ」
「構いません。貴方の傍で眠るから」
「矢張り貴様は正真正銘の馬鹿だ」

そうして三成は名前の耳朶を軽く噛んだ。


2014/04/25

お題配布元「モノクロメルヘン」