戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 鳥籠の蝶

珍しいものを手に入れたと云うから名前はすぐに彼の部屋に向かった。

「刑部、入りますよ」

断りを入れてから襖を開ける。
普段から吉継は名前に対して、自室に入る時はこの程度の作法で良いと申し伝えていた。
部屋の中は何時もと同じなのに、少しだけ異質な感じがする。
それを探ろうとしていたら、少しだけ不機嫌な声を上げられた。

「皎月。部屋が冷える、早に戸を閉めよ」
「あ、あぁ、ごめんなさい」

吉継は皮膚の病で体温調節が出来ない。
だから空調だけはしっかりと管理しないといけない。
直に襖を閉めると名前は吉継の傍に寄った。
吉継の膝の上には金色の、籠の様な物が置いてあった。
その籠の中には真っ黒な烏揚羽が数羽、ヒラヒラと羽をはためかせて飛んでいる。
自由を失って可哀想に見えるのに、何故だか幻想的に見えて仕方がない。

「刑部、それは?」
「鳥籠よ、トリカゴ」
「中に蝶を入れて楽しいの?可哀想だわ」
「可哀想?主がそれを言うのか」

「それはどういう意味?」と、首を傾げながら吉継に言葉を問う。

名前は籠の中の蝶とは違う。
城の中からは確かに三成から許されては居ないが、三成が一緒に居てくれるのであればそれでいいし、ちゃんと外に出して貰える。
自由はちゃんと与えられている。
思案している名前の姿が面白かったのか、吉継は意地悪そうに笑い声を零した。

「主はほんに素直な女であろ」
「意地悪しないで頂戴」
「すまぬ、すまぬ。主ほどからかって面白い女はそうはおらなんだ」
「もう、刑部は意地悪ばかり。でも、本当にどういう意味なの?気になって仕方がありません」

吉継に詰め寄ると、蝶の入った籠をほうり投げられる。
これは受け取れないと中の蝶はバラバラになって死んでしまうかもしれない。
それは蝶が可哀想だと必死になって籠を受け取る。
籠は見事に名前の腕の中に納まった。

「刑部!」
「受け取れたのだからそれでよかろ?」
「もし受け取れて居なかったらバラバラになって死んでいたかもしれないわ」

睨みつけながらそう言うが、吉継はものともしない。
別に自分が凄んでも怖くは無いと云うのは自覚している事だけど。
今だ笑っている吉継は漸く笑うのを止め、名前を赤黒く、濁った目で見つめる。

吉継は言葉に出さずに、胸の内で言葉を吐き出す。
お前は籠の中の蝶ではない。
もう、蝶ですらない、と。
吉継の中では名前は翅すらもがれた哀れな蝶。
しかも翅は自分でもいだに他ならない。
三成の嫁になるとはそういう事だと吉継は思っている。
凶に見初められては自由などあってない様な物だ。
当の本人の名前はそうは思っていない様だけど。

「主には自覚と云うものが欠けておろ」
「自覚?さっきから一体なんだと言うの?」
「気付かずとも良い、良い。主のそういう所が愛おしい」

吉継の物言いに名前はムッと頬を膨らませるが、吉継はその仕草も可愛いなどと茶化す。

「私は刑部のそういう人を茶化す所が嫌いです」
「我は主の頭が足りぬ部分が好きよ」
「それって暗に馬鹿って言ってるよね?」
「ヒヒッ、頭の回転は速いな、皎月」

名前は無言で鳥籠の戸を開けようとする。
籠が斜めに揺れた事で蝶はばたばたと慌てた様に飛び回り、鱗粉をそこらに散らす。
それは名前の指にもかかり、光を浴びてキラキラと光った

「これ皎月、止めよ。我の愛玩物を勝手に逃がすでない」
「私の事を茶化して馬鹿にするから腹いせよ。それにこの子達だって窮屈で可哀想」
「窮屈、か。主は自分の事はそう思わぬのか?」
「? 何故?此処には三成も左近も貴方もいるし、ちゃんと三成は外に出してくれるわ」

それが窮屈だと思うのだがとそう言おうと思ったが、名前はそうは思っていないらしい。
窮屈である事すら解っていないらしいし、それどころか吉継達が居ればそれで良いと言う。
やはり、この女は聡いと見せかけてかなりの阿呆だ。
だが、そんな阿呆な所が愛しい。

「矢張り主は阿呆よ皎月」
「誰が阿呆ですか、誰が」
「主よ、主。ヒヒッ」

しかし吉継は、名前はずっとこのままで良いと思い、一度永く目蓋を閉じた。


2014/04/17