戦国BASARA短編 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 素直になれない傍ら

※一部吉継戦国創生ルート


数日前の事。
名前は三成と共に佐和山城の城下町を視察と称して歩いていた。
尤も、名前が三成に対して少々我儘を口にしたのが始まりだったのだが。

「名前、何をぼやぼやしている。早く来い」
「待って、三成と私の歩幅では差が開く!!」

人に当たらない様に駆ける。
その場で待っていてくれるのは嬉しいが、少し位歩幅をあわせてくれたって良いのに。
そう思うが三成がそんな気を利かせてくれるとは名前も思っていはいないから、頭の中で左から右へ流すけど。
そもそも元はと言えば自分の我儘で三成を巻き込んでいるのだから、そんな事を言えば怒鳴りつけられる事必須だ。

「漸く追いついたか。相も変わらず鈍い女だ」
「その鈍い女が心配だからと言って付いてきたのは何処のお殿様だったでしょうね」

意地悪くそう言うと三成は鼻を鳴らしながら顔を叛ける。
普段から名前の行動に「知るか」「勝手にしろ」と悉く関わらずを決め込んでいた三成だったが、今回ばかりは「私も行く」と同行の名乗りを上げた。

名前の"我儘"と云うのは城下町に出て色々な物を見たい、というささやかな願いだった。
別に姫君でも何でもないのに、自分の夫が治める国の情勢を知らないと云うのは名前の中で納得がいかない。
秀吉から頼まれた地だからと吉継の力を借りながらもしっかりと三成は統治に励んでいるのは知っている。
それに、左近からよく城下町の話を聞いて一度自分の足でどんな町なのかを見てみたくて仕方がなかった。

「貴様の事だ。私の許可なく鉄火場に出入りするつもりだったろう」
「……そんな危ない所、行きたい訳がありません」
「嘘を吐くな。私は知っているのだぞ、貴様が左近に博打がどういった物なのかをしきりに聞きに行っているという事を」
「……左近のおしゃべり」
「名前、貴様は鉄火場がどういった場所か知らんから行ってみたいなどと夢想を口に出来るのだ。貴様がその様な場所に行けば襲われるに決まっている。痛い目に合いたくなければ城で大人しくしていろ」

三成の言葉にむくれていると呆れた様に溜息を吐かれた。
溜息なんてこっちが吐きたい位だと名前は思ったが、これも上手く飲み込んで言葉にはしない。
言い方に問題はあるが三成なりに名前の心配をしてくれている事を理解しているから。

「もしや、鉄火場に赴く為に一人で外出したい等とのたまった訳ではあるまいな?」
「そんな訳ないでしょう?貴方が治めている国がどんな物なのか、私にだって知る権利はある筈。大好きな人の事を見たい知りたいと思うのは行けない事なの?」
「そんな事、貴様の好きにすれば良い」
「えぇ、だから私は自分の好きな様に行動しようとしたのに貴方は不機嫌になりながら無理に同行してきた。違う?」
「……」

無言になる三成に優しく微笑むと名前は三成の目の前に手を出した。
それを訝しげに見つめ、「何だ」と返す。

「三成、手繋ぎましょう?」
「ふざけるな。そんな餓鬼の様な事私がすると思うのか」
「歩幅が合わないならこうした方が良いでしょ?それに私が繋ぎたい」
「……勝手にしろ」

そういいつつも名前に手を差し出す。
名前が三成の手を取ろうとしたその途端、名前の左肩に大柄の男が一人ぶつかってきた。
体がよろけて尻餅を付きそうになるが三成が手を引いてくれたから転びはしなかったが。

「怪我はしていないか」
「う、うん。大丈夫。でもあの人……」

名前は心配そうにぶつかってきた男を見る。
男はその場にうずくまり、呻き声を上げている。
そんなに痛かったのだろうかと心配になるが三成は「放っておけ」と冷たく言い放った。
しかし、途端に男は名前を睨みつけるといきり立ちながら詰め寄ってきた。

「ねぇちゃん、いてぇじゃねぇか」
「え?」
「ねぇちゃんがぶつかってきた所為で左肩の骨が折れちまったみてぇでなァ……」

男は業とらしく左肩を抑えながら名前を頭の天辺から爪先まで舐め回す様に見つめる。
そして下ひた笑いを浮かべるとずいっと名前と距離を詰め、ばっと腕を掴んだ。

「こりゃあ、甲斐甲斐しく看病してもらわねぇといけねぇな」
「ぶつかってきたのは貴方じゃないですか、何で私が……」
「あぁ?何か文句あんのか」

流石に、訳の解らないいちゃもんをつけられるとイラッとする。
余り目立つ事はしたくはないが、腕を本当に捻り潰してしまおうかと穏かではない事を考えてしまう。
しかし、名前が行動に移すよりも早く、三成が男に一撃を入れていた。

「なっ……何しやがる」
「その汚い手で私の妻に触れるな。斬り刻まれたいか」
「そんな凄まれたって怖くもなんとも……」

そう言った途端にぱらりと男の髷が切れ落ちる。
戦ではないから無名刀を持ち歩いてはいないが、衣服に忍ばせていた短刀を居合い抜く。
三成の金色の瞳は本気で男を斬り刻もうとしていた。
男は「ひっ……!!」と声を上げ、名前を突き放すと何処かへ逃げ去っていった。
突き放された衝撃でまた転びそうになるが、今度も三成は名前を転ばせない様に抱き抱えた。

「三成、あれは?」
「当たり屋だ。秀吉様から任されたこの地にあの様な下劣な男がいると言うのは嘆かわしいが、それが私の統治が甘いと云う事なのだな……」
「それは三成の所為ではないと私は思うけど」
「そんな事より、怪我はないか。怪我をしたと云うなら今すぐあの男を追いかけて斬滅してくるが?」
「ううん、いいよ。三成が手を繋いでくれれば」
「……貴様といると調子が狂うな」
「調子を狂わせる相手を妻にしたのが間違いでしたね」
「黙れ。……あれは」

三成は彼方を見つめて何かを見つけた様にそう言った。
名前もつられる様にその方をみると其処には三成の部下の島左近が何時もの様にその場にいた。
が、二人には全く気がついていない様だ。
そしてそのまま何時もの様に例の如く、鉄火場に入っていく。

三成に仕官してからあれほど鉄火場通いを止めるようにと言いつけられていたのに。

「左近……、私との誓いををああも易々と破り捨てるとは……」
「戻ってきたらお仕置きね」
「あぁ、そうだな」

===============


その日城に戻った直後秀吉、半兵衛から戦を興すと書状が届いた事で左近への詰問はまた後日、という事になった。
状況が落ち着いた後、三成は左近に先日の件を詰問していた。
きっちりと背後に名前を連れて。

「左近……貴様。また性懲りもなく鉄火場に赴いていたな?」
「ぎくっ?!ややややだなぁ、三成様。いわゆる思い違いってヤツじゃ……」
「この私自らの目に止まってもか……?今の内に頭を垂れろ、套言は許可しない!」

情けない声で「名前様、助けて!!」と縋ってくるが名前は困った様にはにかみ、左近を蹴落とす様な言葉を紡いだ。

「そうよ、左近。私もしっかりとこの目で見ています。嘘を吐かずに観念なさい」
「貴様、名前に助けを請うつもりか。いい加減にしないと刻む」
「ひええっ!?すんません、ついいつもの出来心でっ!」

そんないつものやりとりを遠目に吉継が無言で見つめていた。


2014/03/09