戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 睡蓮の微睡み

何故、今の自分は三成に組み敷かれているのだろうか。
目を見開いて三成の表情を見ていたが、三成は何時もの表情を浮かべている。両手首もあの細い手で床に押さえ付けられてびくとも動かない。

「あ、あの……三成?これは一体……」
「言葉にしなくては解らぬのか」
「その、貴方がこういう事をするだなんて思ってもみなかったから……」

三成は「フン」と鼻を鳴らしたが、一向に名前の上からどこうとはしない。
拘束された腕を何度も動かしてはみるが矢張りびくりともしなかった。
食事も睡眠もまともに取らない彼にどうしてこんなに力があるのか問いたかったが、今はそんな気分ではない。
それに普段であれば叶えたいと望む三成の願いも共に叶える気も無かった。

今はただ眠りたい。その一身であった。

しかし、今の三成はそれを許してくれそうに無い。
相も変わらず腕で名前の体を拘束しているが、膝でも名前の体を拘束し始めている。

「三成」
「黙れ。私の事を拒否するのか」
「そうじゃないけど、今日は駄目。眠くて仕方がないの……」
「眠ると斬滅するぞ」
「そんな事言われても、眠いものは眠いの。子供みたいな我侭言わないで頂戴。それに私を斬滅する気もないのでしょう?」
「……」
「痛っ。三成痛い、痛い!!」

軽く言葉でいなしてそのまま眠ってしまおうと瞼を閉じたのだが、瞼を閉じたすぐ後に三成に思い切り首筋を噛みつかれた。
三成の下でじたばたと体を捩ってみるが三成は未だ名前の首筋を噛んでいる。
漸く噛むのを止めたと思いきや、犬の様にその傷を舐める。
恐らく血が皮膚から滲み出ているだろう。

「痛みを与えれば眠気などは吹き飛ぶだろう?」
「そういう問題じゃ……、貴方の犬歯は鋭いから噛まれたら痛いの」
「なら貴様も私の首を噛めば良い。それならであれば問題はない」
「大有りです」

涙目で訴えてみるが三成には通じなかった。
そんな事は三成には通じないと云うのは当の昔に解っている事だが。
このまま頑張って上体だけを起こして三成の頭に頭突きでもお見舞いしてあげようかとすら思う。
後が怖いからそんな事はしないけど。

「いい加減、喚くのを止めろ。私は、貴様とこの様に戯れたい訳ではない」

耳朶に唇を寄せながら、低く優しい声で囁きかける。
一体何処でこんな技を覚えてきたのか問い質したくなったが、それ以前に三成が此処まで自分の体を求めてくる事自体が珍しい。

しかし、痛みを賜ったとはいえ名前の意識は眠りに溺れ、微睡んでいる。
もう瞼を開けている事すら億劫だ。
三成は睡眠を取らなくても大丈夫な体質になってしまっているから、今の名前の辛さも忘れてしまっているのだろうが。

「お願い、今日はもう本当に……」
「……解った、今日はもう眠れ。疲労を体に残すな」
「う、ん……」

あれ程寝るなと言っていたのに、素直に睡眠を取る事を許可したなと閉じかけている意識の中で名前は思ったが、そう思ったが最後、名前はそのまま眠りに就いた。
三成は名前を抱き上げ、布団の上に寝かせると暫く彼女の観察を始める。
穏やかに寝息を零す姿は何度も見てきたが寝始めの顔なんて始めて見た。
少しだけ、ほんの少しだけ穏やかな気持ちになるが、途端に恐怖が過ぎる。

もし、このまま名前が永久に目覚めなくなったらどうしよう、と。
だから、名前を眠らせたくなかった。

「貴様が死んだ暁には、私は一体どうなってしまうのだろうな、名前」

そんな事は自分の心の中では十二分に分かっている事なのに、敢えて何も答えない名前に問掛けてしまう。

なるべく優しい手付きで名前の頬や髪を撫でる。
これ程までに愛しいという感情を植え付けてくれたのは彼女が初めてだ。
だから、名前を正室にと娶ったのだけど。
今度は先程自分が付けた真っ赤な噛み跡に指先で触れる。
眠りに就いていても痛みは感じているのか、名前は穏やかな寝顔から一変、眉間に皺を寄せて苦悶の表情を浮かべた。
すぐに指先を離し、再び名前の観察をはじめる。
が、眠っている人間を観察していても何も面白くない。

「……久方ぶりに私も眠るか」

普段睡眠を取らないものだから三成の布団などはこの部屋には用意されておらず、かと言って布団を態々敷くのも面倒だった。
名前の布団に潜り込んで共に眠っても良いだろうか。
きっと名前の事だからいつものへらへらした笑顔で許してくれるだろうが。
柄にも無くそんな明日を望みながら三成は瞼を綴じた。


翌朝、名前はいつもと違う何かを感じていつもよりも早く目を覚ました。
眠たい目を手の甲で擦ると、ぼやけた視界に見慣れた銀色が移り込む。

「三成?」

あの後三成も珍しく睡眠を取ったんだ、と何故か当たり前な事に頬が綻ぶ。
それに、三成の寝顔なんて始めて見た。その事に酷く幸福を感じる。
これは、気付かないふりをしてまた眠りに就く方が良いかもしれない。何たってよくよく考えたら三成が添い寝してくれているのだから。
名前は頬を綻ばせながら、今度は三成の体に身を寄せて瞼を綴じる。

「お休み、三成」


2014/03/06