戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 心配なのは誰でも一緒

左近はハラハラしていた。
最近、この石田軍の中において一番優しい名前が元気がないから。
最近戦の連戦で、軍団の長である三成が軍を休ませず進軍しているから疲れが溜まっているのかもしれない。
名前は戦働きの他に兵糧の調理や、簡単だが負傷者の手当てもしている。

今も名前は鍋の前で杓子を持ってうとうと船を漕いでいる。
下手をしたらぐらぐらと煮えたっている鍋に顔面から突っ込みそうだ。

「名前様、少し休んだらどうっスか」
「左近……」
「うわっ、めっちゃ顔色悪いじゃないっスか。此処は他の奴に任せて横になって、ね?」
「でも、まともに調理できる人間なんてこの軍には私くらいよ?そもそも、三成が今皆の鍛錬してるし……私が休んだりしたら皆がお腹空かせて倒れちゃう」
「今は他の奴より自分の身をですね……」

そう言うが名前は中々に頑固な性格だ。
それを知っているからこそ、左近は他にどんな言葉を掛ければ良いのか解らなくなっていた。
どんな言葉を掛けても押し問答にしかならない。

それに、三成も大概休養も食事も摂らない人間だが名前も気休め程度の休養しか摂らない。
大概似た物夫婦だなとは思うが、心配と共に庇護欲が沸いてくる。

名前は左近の顔を見て、はっとした様に目を見開く。
そして、左近の右手を掴む。

「左近、貴方この怪我は?」
「え?あ、何時の間にこんな怪我してたんだ。全然気付かなかった……」
「余り深い傷ではないみたいだけど化膿したりしたら大変。直に手当てしますね」
「こんな怪我、唾でもつければ治るからヘーキっスよ。それより名前様は休んでください」
「いいえ、貴方の傷の手当てが先です」

少し怒った様な顔で左近の腕を掴む手に力を込める。
女の力とは言え、常日頃から戦に出ている名前の力だから、流石に痛い。
これは手当てを受けなければ逆に腕の一本を持っていかれそうだ。
今だって腕がミシミシ言っている。

「痛ッ、痛い痛い痛い!!名前様、痛い!!」
「手当て、受けてくれるよね?」
「は、ハイ!!ありがたく名前様のお手当て受けたく存じます!!」
「そう」

にっこりと笑顔を浮かべて、漸く左近の腕から手を離した。
これはきっと服の下で手形の痣が出来ているかもしれない。
後で確認してみよう、そう思ったがすぐに自分の腕を確認する羽目になった。

名前が勢い良く左近の着物を左右に引っ張ったからだ。
普段そんな事をしない名前の行動に左近は「……え?」と声を零し、目を丸くした。
何が起きたか頭で理解出来た時には、急激に顔が熱くなった。

「ちょ、名前様!?一体何をして……!!?」
「何って、傷の手当てです。あぁ、やっぱり!!左近、他にも怪我をしてるじゃないの!!」
「それは昔の戦の傷ですから!!名前様、お願いですから着物直させて」
「手当てが先と言ったでしょう?」

ズモモモ……と言った禍々しい擬音とオーラが発せられそうな、ある意味で素敵な笑顔を浮かべているから「このまま手当てお願いします」と、そのままの姿で手当てを承諾してしまう。
こんな場面を三成や吉継に見られでもしたら間男扱いされてしまいそうなのだけど。
それ以前に名前に体を見られる事に対して妙な羞恥心が沸いてくる。
他の女には見られても然程気にはならないのに。


名前は医療道具を持ってきて、左近の体の傷を消毒してから薬を乗塗り込み、包帯をくるくる巻いていく。

何でこの人はこんなに他人の為に頑張れるのだろう。
既にこの人が三成の妻だという事は解っているのだが、こう、自分に尽くしてくれる女性は悪くないと、ぼんやりとした頭で左近はそんな事を考えていた。
妻を娶るのなら、こんな人が良い。

「左近、痛む場所は無い?」
「あ、ハイ。痛い場所は特に」
「そう、良かった。全く、三成もだけど左近も左近ね。怪我をしたら誰にも言わずほったらかし。だから世話を焼かずにいられない」

呆れながら言われたその一言に左近は苦笑する他なかった。
まるで「世話を焼かせないで」と、そう言っている様にも思える。
それだったら自分から無理に世話を焼きに行く必要もないと思うのだけど、自然に世話を焼いてしまうのかもしれない。
そう思うと何故か急に名前がただの心配性の女の子にしか見えなくなる。
少しだけ口元をにやけさせると名前はそれに気が付いたのか何時もの微笑みを浮かべた。

「左近。貴方はもう、この豊臣の一員なの。それ以前に私達にとっては大切な仲間……。だからもう少し、自分の事を大切にして……」

切なそうに言われた言葉に、左近は一瞬言葉を詰まらせる。
戦場に切り込んで戦うのが役目なのだが、その傷の所為でこんなに悲しそうな顔をされてはバツが悪い。
取り繕う様に左近は言葉を紡ぐ。

「……それは、名前様にも言える事っスよ。俺や三成様の事を心配してくださるのは嬉しいんスけど、もう少しご自分の体を労わってください」

「顔色、今もちょっと悪いんで」と言うと、まだ手当ての途中だというのに左近はその場に立ち上がる。
そして、名前の正面に立つと背中と腰に手を回して横に抱き上げた。
途端、名前の顔が真赤に染まる。

「ちょ、さ、左近!!」
「うわ、マジ名前様軽ぃー。ちゃんと飯食ってます?軽すぎるっしょ」
「降ろしなさい左近、降ろして!!まだ手当ては終わっていないのよ?」

足をじたばたと動かすが、左近はものともしない。
それどころか「威勢良いっスね、名前様」と笑っている。

「手当ての続きは名前様が元気になってからお願いします。料理も、俺が何とかしておきますから、心置きなく休んでくださいよ。あ、それとも俺も一緒に添い寝して休んだ方が……」
「調子に乗らないの」
「痛っ!!」


2014/02/19