戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 崩れるように泣いて、消えるように眠る

※死ネタ、7〜8巻ネタ


「全てを調べさせてもらった。俺達の島……、四国壊滅を計画した張本人は毛利、そして大谷。あんた達だったと!」

今まで知らなかった事実に名前は意識が眩んだ。
その足で立っている事すら覚束無くなり、ふらりと体が揺れた所を毛利の雑兵達に支えられ、漸く立っていられると行った所だ。

まさか、主君である元就が大谷吉継と共謀し四国。長曾我部領を壊滅させただなんて。
あまつさえ、豊臣の元軍師・黒田官兵衛を利用し、その罪を被せただなんて。
名前は元就が自国である安芸を守る為であればどんな手でも使う事は理解していた。
心を痛めながらもその策に従い、身を赤く染めながら戦場を右往左往、東奔西走と駆けずり回っていた。
元就は何かを成す時は自分を信頼し、策の内を明かしてくれているとそう思っていたがそれは名前の思い込みだったらしい。
四国壊滅の真相なんて今始めて耳にした。

「そんな、元就様……何故、その様な事を……」

小さく震える名前の声は未だに長曾我部元親の言葉を信じられずに居た。
しかし、元就は名前を冷たい目で一瞥くれて忌々しそうに舌打ちをした。
その音に名前はびくりと肩を震わせる。

「黙れ駄犬。貴様は今も今後も我の策に大人しく従っておれば良いのよ」
「!!」

元就の言葉に名前は愕然とした。
遂には兵士の支えがあっても立ち上がっていられない状態になり、その目は上を向く事を止めた。
雨の様に涙が地面に降り注ぐ。
今まで元就に命を賭して尽くしてきたのに。
悲しい。悔しい。辛い。負の感情がぐるぐると渦を巻き、胸を締め付ける。
元親はその様子を見て犬場をむき出しにし「野郎……」と低い声を唸らせる。
それ以降の音がぼんやりと、靄が掛かった様にしか聞こえなくなり、そのまま名前はその場で泣き続けた。

しかし。
元就の悲痛な叫び声が脳に直接響くかの様に聞こえ、名前は涙に濡れた顔を上げた。

「そのような目で……、我を見るなァァァッ!!」

振り下ろされた元就の輪刀が逆に振り上げられた元親の碇槍とぶつかり、途端に砕ける。
その瞬間に二人の勝負は決着が付いた筈なのに元親は尚も攻撃を続けようとする。
「止めて」。そう叫びたかったが声が喉の奥で引き攣って出ない。
元就と元親の間に割って入ろうとするが体すらも動かない。
元就の言葉で心と体が上手く連動してくれない。

「じゃあな、毛利元就」

元親の怒気を孕んだ声音に元就の表情が一瞬泣きそうな子供の顔に見えた。
その時になって漸く体が動き、声も上がる。

「元就様ぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

しかし、名前の行動は遅く、元就の体は碇槍に振り上げられ、宙を舞っていた。
崩れかけている崖に体が叩き付けられた後にはその衝撃で岩が元就の体に影を落として襲い掛かる。
名前の体は近くに居た長曾我部軍の下っ端たちに拘束されて身動きが取れなくなっていた。
今元就の近くに行ったら名前は岩に潰されて死んでしまう。そう思っての咄嗟の判断だった。
しかし名前は小さな声で早口に「離して」と「元就様」と言う単語を交互に紡ぐだけ。
その目に光などは宿っておらず、下半身が潰れて身動きが出来ない死にかけの主のみを映していた。
元就が吉継に何かを告げた途端に大岩が落下して元就は息絶えたが、その際に弾け飛んだ血が名前の頬に飛来する。生暖かい感触に吐き気がしそうだ。
それを認識した途端、名前はその場で意識を手放した。


関ケ原の戦いは三成の死を持って幕を引いた。
名前はその後元親に引き取られ、長曾我部軍客将として生活を送っていた。
だが、名前は元就の死を目前で見た心因性ショックで言葉を話す事が出来なくなっていたが。
それでも長曾我部軍の面々は名前に気を遣い、優しくしてくれる。
自分達の国を壊滅させた人間の部下だった過去を知りながら。
その優しさに生かされている事に若干の歯痒さを感じていた。

「何してんだ名前」
「!」

背後から掛けられた元親の声に名前は今まで海を見ていた体を振向かせた。
元親が最初、名前を長曾我部軍に迎え入れるとそう言ったのだ。
名前は加害者一味ではあるが被害者でもあると。
最初はそんな言葉を甘んじて受け入れるはなく、失意の中ででも舌を噛み切って死んでやろうとした所を元親に何とか諌められた。
そして、思い出してしまう。元就に初めて出会い、その手を取ったときの事を。
泣きそうに顔を崩すと元親は何かを感じ取ったのか少し距離を置いた。
しかし、名前に関わる事を止めようとはしない。

「四国の海、綺麗だろ?気に入ったか?」

こくんと頷けば「そりゃぁ良かった」と優しい声音でそう言う。
だが、次の言葉の時には至極真面目な声音で名前に言葉を掛けていた。

「あんたはとっとと死にたいと思っているかも知れねぇが、そんな若いのに死ぬだなんて勿体ねぇ。俺の軍で第二の人生でも切り開いて行きな。……あんたがこの軍を嫌だって思った時は好きな時に出て行って良いからよ」
「……」

顔を伏せると、そのすぐ後に頭に何か乗せられた。
一体何だと思い手で頭上を探り、乗ったものを掴む。
それはテッセンの花の冠だった。
恐らく元親が肩に乗せている鳥に名前の頭上に落とさせたのだろうと思い、礼だけ告げようと思ったのだが其処にはもう元親は居なかった。
後で探して文にして言葉をを告げよう。

そう思ったら背後に誰か人の気配を感じた。
だが、その気配は名前がよく知る太陽の様なあたたかな、でも少しだけ冷たいに気配。
あの人は死んだのだ。そう自分に言い聞かせるが怖い物見たさで振り返る。
もしかしたら似た雰囲気の人かもしれない。

「!!?」

名前は手に持っていたテッセンの花冠をその場に落とした。
そして口をパクパク開かせ、信じられないという表情を浮かべ、その場にへたり込む。
名前の目の先には関ケ原で岩に潰され死んだ筈の元就が其処に居たから。
今ものうのうと生きている名前に対して化けて出たのかと思ったが、元就は少し穏やかな表情を浮かべて其処に居た。生前、側近だった名前も見た事がないような表情だ。

「名前」
「!」

その場にすぐに立ち上がり、名前は元就に駆け寄る。
無礼承知で抱きつき、胸に顔を埋めてそのまま泣き続けた。
冷たくあしらわれたが、酷い事を言われたが名前にとっては元就こそが生きていくことの全てだった。
元就も大事そうに名前の体を腕に抱き閉める。

「声を失ったか。まぁよい、そなたが此処にいるのであれば」

哀れむかのような声でそう言うと元就の体は発光し、腕に抱いたままの名前も包み込んでそのまま消えてしまった。
名前が居たその場にはテッセンの花冠だけがぽつんと残されていた。


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「おーい名前、晩飯の時間だぞ!早く戻って来い!ったく、何処行っちまったんだ名前の奴」

あの後、何時まで立っても戻ってこない名前を心配して元親自らが名前を探しに来たがその姿はどこにもなかった。
もしかしたらもう此処に居るのが嫌になって何処かに行ってしまったか。
だが、それはないと思う。長曾我部軍にそれなりに馴染んでいたし、彼女はそれなりに義理堅い性格だと元親は数日の付き合いで即座に理解したからだ。
少し移動していたら何かを踏み、その違和感に眉間に皺を寄せて足元に目をやる。

「こりゃぁ、テッセンの花?テッセンなんてこの時期咲いてねぇぞ」

不思議に、でも不気味に思いながら元親は近くを飛んでいた鳥にその花冠を被せ、もう此処にはいない名前を探しに戻った。


2014/10/01

お題配布元「VIOLENCE.com」

テッセンの花言葉は「縛り付ける」。