戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 追い詰められた先

※暴力流血描写有


「家康、家康、家康、家康ゥ!!!」

"家康"。その名を呼ぶ憎悪の声に名前は「またか」と思う反面、恐怖に身を震わせた。

先日、名前達の君主であった豊臣秀吉は、同僚であった徳川家康によってこの世から姿を消した。
それ以降の豊臣内部は荒れに荒れまくっている。
三成は家康の名を叫びながら憎悪に身を焦がし、軍師である竹中半兵衛は病が悪化しずっと床に臥せたまま。
その半兵衛すらも秀吉の死を受け入れられずに妄言を吐き、暴れだす。
正直の所、豊臣の栄華は終わったと名前は感じていた。
そんな事をうっかり口に出来る筈もないから咽の奥で言葉を殺すけれど。

しかし、今の荒れ果てている三成の心を少し位は癒せればと、竦む足で三成の居る部屋に立ち入る。

「三成」
「……名前か、どうした。もしや半兵衛様の病が悪化した等と報告しに来た訳ではあるまいな?」
「違います。三成、少し落ち着いて……」
「落ち着く?落ち着いて等居られるか!!」

怒鳴られ、名前は肩を萎縮させながら瞼をぎゅっと閉じた。
大好きな筈なのに、どうしてこんなに恐ろしい。
決して嫌いになる等といった事はないだろうけど今の三成は名前にとって三成ではない人間に見えた。
三成はずんずんと名前の元まで近寄り、見下ろす。
しかし、名前は目を逸らさずに確りと三成の鋭い瞳を見つめた。

「貴様は家康が憎くないのか」
「何を言っているの。憎いに決まっています。私達から秀吉様を奪い、私達を絶望のどん底に陥れたのに、憎くならない訳が無い」
「当たり前だ。だが名前、貴様は何故そんなに落ち着き払っていられる?何故、憎悪を表に出さない?本当に秀吉様の死を悼んでいるのか?」
「悼んでいます。でも、今此処にいない家康を怨むより、私達にはまだ沢山すべき事がある」
「……貴様、秀吉様を蔑ろにされるつもりか」

「違う」。そう言おうとしたら急に体が重力に従い、床に叩きつけられる。
幸い、床は畳であるから体を痛める事は無かったが、それはすぐに無に帰した。
三成に肩を脚で踏みつけられ、前髪を鷲掴みにされて上体だけを起こす状態になっていた。
ぶちぶちと髪が抜ける音が聞こえる。
髪が抜ける事などは如何でも良い瑣末な事であったが、今視界に映る三成の怒りの形相を見て体がまた震えだした。
今まで理不尽な言葉の数々を浴びせられはしたが、こんな風に体を痛めつけられるような事はされた事がなかった。
だからこそ今の三成が怖くて仕方が無い。

「答えろ名前ッ!!秀吉様の死を悼む他に何をするべき事がある?!」
「民草達が、乱を企てているという知らせが入っているから止めないと。半兵衛様も病床におつきになられている今、指揮できるのは左腕である貴方だけなの、三成」
「民草風情の起こす小事など他の者に任せておけ!」
「それに……」
「何だ」

段々怒りが収まってきたのか、言葉が普段通りになった三成に改めて自分が得ている最悪な情報を知らせる。
本当は知らせたくは無いが、先程名前自身が口にした通り、今の豊臣を動かせる事が出来るのはもう三成しか居ない。
名前は恐怖で唇を戦慄かせながら言葉を一つ一つ紡いだ。

「……右京殿が同盟を破棄し、豊臣を出て行かれた」
「何、だと?!」
「このままだといずれ豊臣は総崩れになる。その前に何とか手を……ッ?!」

言葉を紡いでいる途中で乾いた鋭い音と、頬に鈍い痛みが走る。
それが三成に打たれたという事に気が付くのにそう時間は掛からなかった。
髪から手を離され、三成の手からは名前の抜けた髪がぱらぱらと畳の上に落ちる。

「右京!!この豊臣を裏切るなど、よくも愚弄してくれたな!!それもこれも全て家康、あの男の所為だ!!」
「……っ。三成、お願い落ち着いて!!」

矢張りこの情報を今の三成に伝えない方が良かったか。
後悔しても既に口にしてしまった事だから仕方ないと思うが、自分で自分を責めずには居られない。
余りにも軽率な判断をとってしまった。
三成の背に抱き付いて止めようとするも三成の力の方が強く、意図も簡単に名前は振り払われてしまう。
自然に瞑ってしまってた瞼を開くと、いの一番に映りこんだ光景に名前は呼吸を一瞬だけ止めた。

三成が自分に向けて刀を、抜き身の刀を振り上げているからだ。

「三成、嫌……。何をしているの?」
「黙れ」

空を切る音と一緒に刀が振り降ろされる。
名前は恐怖でその場から動く事が出来ず、声すら発せられなかった。
このままだと斬られる。殺される。そう解っているのに。
そしてそのまま三成の刃で体を縦に斬られた。
しかし、三成の方が無意識の内に加減をしていたのだろう名前の体は着衣を裂き、皮膚を薄く切っただけで其処までの大怪我ではなかった。
それでも痛いものは痛いし、斬られた箇所から止め処なく溢れてくる自らの血に顔色を悪くした。

だが三成はそんな名前に容赦なく馬乗りになり、無心のままに拳で体を、顔を殴打していく。
名前は声を出さずに、呻きながら泣いてそれを耐える。
余計な抵抗などをすればきっと今の三成であれば躊躇無く名前の首をへし折り、殺す事すらしてくるだろうから。
それであれば大人しく、彼の気が済むまで殴られている方が良いに決まっていると思案する。
それにきっとこのまま名前を殴打していればきっと少しは冷静になってくれるかもしれない。
そう思い、名前は眠るように、はたまた三成からの痛みを享受するように瞼をゆっくりと閉じた。
次目覚める時に死んでいない事を願いながら。

やがて三成は気が済んだのか、それとも名前が動かなくなったからなのか殴るのを止め、名前から降りるとふらふらと何処かへ行ってしまった。
まるで憑物でもついているかの様だ。
痛みが走る体を起こし、噴出している鼻血を拭う。
こうする事でしか、三成を支えられない。救えられない。
救うといってもほんの一瞬の安寧にしかならない。
それが不甲斐無くて仕方がない。

「私は一体どうすれば三成を救えるのでしょう。支える事ができるのでしょう。お教え下さい、秀吉様……」

既にこの世に居ない君主に問いかけてみるが、矢張り其処にあるのは静寂のみで。
名前は暫くの間、その場で声を殺しながら涙を流し続けた。


2014/06/28

お題配布元「nightmare girl」