戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 白月の夜に寄り添う

石田軍は小早川 秀秋を仲間に引き入れるため、烏城に滞在していた。
謎の僧・天海の介入等もあって話は一時暗雲を被ったが、結果は天海のお蔭で秀秋を仲間に引き入れられた。

その日の夜、三成は一人で月を眺めていた。
夜になれば日常的に見ているはずの物なのに、今宵の物はやけに美しい。
信望していた君主・豊臣秀吉に、その右腕・竹中半兵衛がこの世から去ってから、そんな事は露とも思わなかったのに。
秀吉から賜った自分の獲物、無名刀の鞘をなでる。

そんな時、三成の右手側の廊下から一人の女性がスタスタと歩いてくる。

「三成」
「何だ」
「そのままだと体が冷えます。陣羽織の上に何か羽織るものでも……」
「要らん。名前、余計な世話を焼くな」
「でも……」

少しだけ言葉を紡いだが、名前はすぐに口を噤んだ。
昔から三成は自分に言葉なんて耳に入れてくれない。
特に秀吉、半兵衛の両名が亡くなってから尚更。
以前は体の一部に触れて三成の行動を諌めれば、少しは話は聞いてくれていたのだが、今の三成には触れる事すら叶わない。

名前は地に項垂れる手で拳を作り、強く握り締めた。

「何をずっと突っ立っている。座ったら如何だ」
「そうする」

少しだけ三成と距離を置いて、正座で座る。
本当は三成にぴったりとくっ付ける距離で座りたいのだが、きっと三成は拒否するだろう。
以前から他人との繋がりを否定していたのを名前も良く知っていた。

何を口にして良いか解らず、沈黙だけが続く。

名前は立場上的には三成の妻として兵達には敬意を示されている。
しかし、その"夫婦"の繋がりも三成には否定されているされている気がして、最近はずっとしょんぼりしっぱなしだ。
そもそも、自分が結婚した身である事を理解しているのか。
それを理解しているかすら危うい。

「名前」
「?」
「貴様こそ寒くはないのか」
「私は厚着しているから、平気です」
「そうか。だが、変な安我慢などして体を壊す事は私が許可しない」
「解ってる」

珍しく気を遣ってくれているのか。
しかし、そんな些細な気遣いがとてつもなく嬉しい。
若干火照りを感じた頬に、あぁ今頬が赤くなっているんだろうなと、素直に感じてしまう。

「名前、もう少しこっちに来い」
「え?」

今、三成はなんと言ったのか。
聞き間違いでなければ「こっちに来い」と言われた気がする。
だが、考えるよりも先に体が動き、三成のすぐ隣まで距離をつめて座る。
それこそ腕など伸ばさずとも触れられる位の距離まで。
恐る恐る三成の表情を横目で覗き見るが、三成は別に憤慨している顔などはしていなかった。

三成の銀色の髪に満月の光が降り注ぎキラキラしていて美しいから、見惚れたままでいると、その視線に気が付いたのか、少し低めの声で「何をそんなに私の顔を見ている」と言葉を返される。

「何て事はありません。ただ、綺麗だなって思っただけ」
「綺麗?何がだ」
「さぁ……。私の視線の先を見てみれば解ると思う」

これで上手くはぐらかせる訳でもないと解っている。
が、三成はその言葉を軽く受け取ったのかそれ以降は何も追求はしなかった。
きっと、名前が"綺麗"と言った物が自分だと気が付いて、腹の中で「下らん」と思っているのだろうなと思うと少しだけ物悲しいが。

「……恐ろしくは無かったか」
「? 何が」
「あの僧だ。彼奴が出てきた時、尋常じゃないくらいに脅えていたと刑部から聞いた」
「あ、あぁ天海殿の事ね。怖かったけど、今はもう大丈夫。尤も、あの人の存在よりも三成が傷付く事の方が私はよっぽど怖いけどね」
「そうだな、貴様はそういう女だったな。しかし何故だ、秀吉様の望まれた世を築く為には不要な物と解っているのだが、貴様のその安穏とした気性は嫌いではない」
「……もう少し、素直に言葉を紡いだら?」
「黙れ。これでも十二分に気遣いの言葉を使ってやっている」

よくよく思い返せば、近頃こういった会話などはとうとしていなかったなと思い、名前は薄く唇を緩ませた。
例え"凶王"と渾名されても三成は三成で、彼の本質そのものはなんら変わってはいない。
そう思うとひどく嬉しい。

「薄ら笑うな、気色が悪い」
「気色悪いなんて他人に言う言葉じゃないよ」
「貴様が私の妻だから素直にそう言ってやっている」
「……三成、貴方の正室が私だったからまだ良いけど、他の人なら背後から刺されますよ?」
「フン、刺される前に斬滅してやる」

三成の言葉に大概苦笑を零したが、自分が妻として見られていて内心安堵する。
こんな形で安堵などしたくは無かったが。

すると、三成は右腕を名前に伸ばし、肩をそっと抱いた。

「戯言は終いだ。見ろ、今宵の月は美しいぞ」
「本当、綺麗……」

その後も二人は肩を寄せ合いながら、無言で月を眺めていた。


2014/02/09