戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 凶王の妻たる人

※左近夢ですが三成→←夢主


名前様は可愛い。

左近は最愛なる君主・石田三成に遣え始めてからずっとそう思っていた。
しかしこの可愛いと云う感情は決して恋愛感情的な"可愛い"ではなく、動物を愛でる様な"可愛い"である。
こんな本心をついうっかり口にしたらきっと彼女を大切にしている三成や、その友人の大谷吉継がただでは置かないだろうけど。

「左近!!」

今も左近を見つけて仔犬の様に左近に駆け寄る。
耳と尻尾が着いていれば嬉しそうに尻尾を揺らしている事だろう。そんな勢い。
そして左近の目の前で止まると「左近、ちょっと来て!!」と、手を取り引っ張る。

「ど、どうしたんですか名前様?!」
「いいから早く!!」
「かなり急いでるご様子ですけど、ちょーっと落ち着いてくれませんかね?!こんな光景を三成様に見られたら俺、斬滅されそうなんすけど!!」

そう言うと名前は左近の手を引っ張る手を離す。
少しもったいない気もしたが三成に斬滅されるよりはマシだ。

「で、どうしたんです?」
「あのね、庭先に鳥の巣があるのは知っているでしょ?」
「あ、前名前様が見てた鳥ですか?」
「えぇ。その巣が落ちちゃいそうなの」

はにかみながら左近に「左近なら元の場所に戻せるでしょ?」と、言うものだから思わず安請け合いしてしまう。
しかし、何故自分に頼むのか。
いつもであれば自分で木に登るのに。
そう言えばこの前も城の屋根の上に登っていたのを三成に見られてこっ酷く怒鳴られたばかりだったか。
あの時の名前は見ていて可哀想だった。

しかし、今は三成は秀吉に呼ばれて吉継と共に大阪に向かっている為に近江にはいない筈だ。
それでもやはり三成に怒鳴られた事が効いているのか。
捨て猫の様な瞳で見られては左近も無下には断れない。
重苦しく溜息を吐くと肩を落とした。

「解りましたよ。他ならない名前様の頼みですからね」
「左近……。ありがとう」

にっこりと愛らしい笑顔を浮かべられて左近の頬は若干火照った。
どうしてこの人は誰にでもこの顔をするのか。
この笑顔を向けられた者はもれなく陰で三成に斬滅されかけている事を知らないのか(但し、秀吉と半兵衛と吉継は除く)。
この呑気で優しい人がそんな事を知る由は恐らくないだろうけど。


「はい、名前様。鳥の巣はこの左近がしっかりと元の位置に戻しましたよ」
「ありがとう、左近。これであの子達も地面に落ちて怪我をするなんて事はなくなったわね」

ほっと安堵の溜息を吐いて微笑んだ名前に左近もつられる様に笑った。
石田軍に来る前もこうした安穏とした空気の中で過ごしてはいたが、その頃よりも今のこの殺伐とした中の安穏さが心地よい。

「そういえば、三成様は何で大阪城に呼ばれたんスか?」
「この前の三成の独断専行によるお説教。私も行きますって言ったのに秀吉様も半兵衛様も私が向かう事は許してくださらなかったの、お前は悪くは無いって言って」

「私は三成の妻だから一緒に罪を被ることも厭わないのに」。
そう言って少しだけ顔を俯かせた。
三成も大概名前を大切にしているが、名前も三成の事を愛しすぎている。
それは初めて名前と共に居る三成を見た時から思っていた事だが、この軍にずっといると尚解る。

普段の凶王の姿たる三成も左近は好きだが、名前と一緒に居る時の安心している三成も好きだ。
それに名前も好きだ。
だからこそ、この軍がもっと好きになってしまう。

「左近?」
「あ、は、ハイ?!」

気が付くと名前は下から左近の顔を覗き込んでいた。
そして、何時もの柔和な笑みを浮かべて左近の手を取る。
この人は何故こうも簡単に人の手を取るのか。
そう思ったが、別に名前に触れられる事自体は嫌いではないから構わないのだけど。

「少し疲れたでしょう?お茶でも飲みましょう?今日は美味しいお菓子が手に入ったと、私の侍女が言っていたの」
「名前様のお誘いとあれば、喜んでお供しますよ」


凶王の妻たる人


「そういやぁ、名前様が佐和山城に残ってる理由は解ったんですけど、 何で俺までお留守番なんですかね」

左近は名前が侍女に用意させた茶菓子を食べながら、名前に問うた。
名前ならきっと理由を知っていると踏んだから。
すると、その予想は当たっていたのか名前ははにかんだ。

「三成は貴方に処罰があたるのが嫌だったみたいよ?だから佐和山に残る事になった私と共に此処に残した。だからそんなにむくれないで。左近、貴方は三成に買われているのよ。それに、私も左近が一緒に居てくれて心強いな」

名前の言葉に左近は感動していた。
三成がまさか自分の事を買ってくれているだなんて。
それに名前までも自分の事を買ってくれているだなんて。

「名前様、俺、より一層三成様と名前様の為に励みます!!」

「だから、貴方達ご夫婦の傍にずっと置いてください」と、名前に言うと、名前は静かに微笑んだ。


2014/02/05


左近は可愛い