戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ 鳳仙花の化粧

名前は生徒会室で黒い小瓶を見つめていた。
それはマリアから貰った黒いマニキュア。
呼びつけられて「わらわの趣味の色ではないから貴方にあげるわ」とそう言って押し付けられた。
返そうと思ったのがこれを押し付けた後のマリアは本当に嫌そうな顔をしていたから返すに返せない。
だが、かと言って処分するのも勿体無い。
元々名前は化粧などには興味がなかったから。
一度化粧をしてみたが三成に「似合わん」とばっさり言われてから化粧品を見るのも嫌になっていた。

「皎月、一人で何をしておる」
「刑部。……マリアさんからマニキュアを貰ったの。でも使う事がないから扱いに困っていて」
「ほう?して色は何色だ」
「黒」

空中に浮いた座布団に乗ったまま近くに来ると名前からマニキュアの瓶を受け取る。
使う事がないと言うが折角だから爪に塗って見れば良いのに。
そう思うが名前が化粧嫌いなのは吉継も良く知っている。
そしてその嫌いになった要因の三成の言葉の意図も良く知っている。
三成のあの似合わないという言葉は実は照れ隠しの言葉だった。
名前が慌てて化粧を落としに席を外した後に気分を悪くさせたのではないのかとかなり落ち込んでいた事は記憶に新しい。
しかし弁明などは一切行ってはないが。
名前はまだ化粧が必要な年齢でもないし、化粧をしなくても美しい顔をしていると吉継も三成もそう思っていた。

「黒か。ふむ、主には似合わぬ色であろ。皎月よ、これが不要であれば我にくれぬか」
「? 別に構わないけど。何に使うの?」
「似合いそうな女子が居ったらその者に渡すだけよ」
「……人の手から人の手に渡り歩く奇怪なマニキュアって言う話を作っては駄目よ?」

名前ははにかみながらそう言うが吉継にはその発想は言われるまでなかったらしい。
手を叩き「皎月、主は頭が良く回る女子よ」と嬉しそうに言った。
まずい。余計な話をしてしまったか。そう思ったが吉継をとめるのは困難に限りなく近い。
溜息を吐きながら「勝手にして」と言うと吉継は名前に小さな、ほんの小さな不幸が降ったと喜び、笑う。

しかし名前の指先が色付く様は少しだけ見てみたい。
そう思った吉継は少しだけ考えていた。
するとふと、以前暇潰しで読んでいた本に書いてあった内容を思い出してこれであれば、と吉継は口元を歪ませた。

「皎月。明日も生徒会室に来やれ」
「どうして?」
「良い物をやろ。楽しみにしておれ」
「良い物?」

怪訝そうな顔をして復唱した名前に吉継は「見てのお楽しみよ」と笑って見せた。


翌日の昼休み、名前は吉継に言われた通りに生徒会室に来ていた。
しかしまだ吉継は生徒会室に来ていないらしい。
部屋の中には名前一人しかいなかった。
とりあえず椅子に座ろう。そして予め配られていた今日の議題が書いてある書類に目を通す。
すると吉継が紙袋を持って生徒会室に入ってきた。

「待たせたな」
「今来た所だから気にしないで」

そんな他愛もない会話をしながら吉継は名前の隣に腰を下ろす。
紙袋を机に置き、鼻歌を歌うかのように中身を机の上に広げていく。
紙袋の中彼出てきたのは赤味の強い橙色の液体が入った瓶と小さな筆。
後は薬局で売っているなんら変哲のないコットンにラップ。
これを一体何に使うのか名前は理解が出来なかった。

「何、これ?」
「鳳仙花の汁よ。皎月知っているか」
「何を?」
「先人達は鳳仙花のこの汁を爪に塗り、爪化粧をしていたらしい」
「へぇ、刑部は物知りね」

もしかしたら昨日言っていた良い物と言うのはこれの事なのだろうか。
マニキュアではないが爪でも化粧をするのは多少抵抗があるのだが吉継の好意には素直に従っておこうと思う。
手を出せといわれたから大人しく手の甲を差し出す。
すると吉継は鳳仙花の汁を花のペーストと共に名前の爪の上に置き、ラップでくるくる巻いていく。

「これは韓国では一般的な染め方らしい。明日になれば色素が爪に染み込む」
「それまではこのラップは取っちゃ駄目なの?」
「我慢しやれ」

吉継の手の包帯にも鳳仙花の汁が落ち、赤い斑を作っていくが彼は意に介していないらしい。
赤いから手首を切ったなどと思われては大変だと極端な考えに至ってしまう。
吉継はまた紙袋に片手を突っ込み、今度は包帯を取り出した。
そして鳳仙花を塗った名前の手にくるくると巻いていく。
その手付きは悲しいかな慣れたものだった。

「スマヌな、固定できそうな物がこれしか見あたらなんだ」
「構わないわ。ふふ、刑部とお揃いみたい」
「我と揃いである事を喜ぶとは主も本に変わり者よな」
「生徒会は、ううん、この学園の生徒は変わり者しか居ないでしょ?今更です」
「言われてみればそうよな」

手首よりも下の部分で包帯をきつく結ぶともう片方の手にも同じ様に鳳仙花を乗せ、同じ様に包帯を巻いていく。

「主のこの白魚の手の爪先が朱に染まる様はきっと美しかろうなぁ」
「でもそれは私に触れてはいけないという暗示になってしまうわね」
「何故」
「鳳仙花の花言葉。その内の一つに"私に触れないで"って意味があるの」
「主も大概物知りよ」

喉を鳴らして笑うと名前もくすくすと笑い出す。
この笑顔が愛しい。だがこの笑顔は吉継の物ではない。
確かに触れられる物ではないなと、そう思う。

「三成もそうだが、主も大概赤色が似合うなぁ、名前よ」

含みを込めて吉継はそう嗤った。


鳳仙花の化粧


「刑部、貴方も一緒に鳳仙花で爪を染めましょう?」
「……よい、我には似合わぬ」
「刑部の手だって綺麗よ?」
「主の目は節穴か。我の手は病に犯され爛れておるのだぞ」
「そうだけど、私には刑部は美しく見えるもの。きっと三成も、左近も、半兵衛様も、秀吉様もそう仰るわ。それにその鳳仙花の液で汚れてしまった包帯を替えるついでに。駄目?」

きらきらした瞳でそう言った彼女に吉継は溜息を吐きながら「勝手にしやれ」とそう呟いた。
実を言えば昨日のマニキュアを自分の爪に塗っているのだが、それを見たら名前は何と言うだろうか。
それを考えながら。


END

マニキュアの歴史を調べていたら日本の爪化粧は平安時代から行われてて、江戸時代頃には鳳仙花を使って染めていたとあったので


2014/08/21