戦国BASARA短編 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ バレンタイン爆発しろ

三成は何時にも増してイライラしていた。
というのも今日は2月14日、所謂バレンタインデー。
BASARA学園でも女子生徒が意中の男子生徒にチョコレートを私ながら甘い雰囲気を醸し出していた。

「不快だ……」

ぽつりといつもよりも低い声で唸る。
この雰囲気もそうなのだが、チョコレートの甘ったるい匂いで気分が最高潮に悪い。
保健室にはあの天海と言う名の変態がいるから行きたくないし、早退するのも秀吉や半兵衛と過ごす時間が少なくなってしまうからなるべく避けたい。

しかし、教室の、自分の席に戻ると三成は思い切り不機嫌な表情を丸出しにした。
机の中や鞄の中には見覚えすらない包や箱、紙袋が置かれていた。
恐らく三成に好意がある女生徒の仕業なのだろうが、こう言った行事を嫌う三成には嫌がらせでしかない。

あぁ、もう発狂しそうだ。
そう思いながら席に座ろうとすると背後に嫌な気配を感じた。

「おぉ、三成も大漁だな!!」
「っ!!家康、貴様何しに来た!!」

背後に立っていたのは三成が忌み嫌う家康だった。
そんな家康の腕にも大漁の包みが抱き込まれている。

「貴様もこの様な堕弱な行事に興じるのか」
「堕弱とは随分な物言いだな。バレンタインとはいい物だぞ?男女が絆を結び合うには恰好の行事だ」
「フン……。くだらん。行事にかこつけて男に媚びを売る女共の言い訳ではないか。そもそも菓子業者が商品の販売促進の為に勝手に定めた行事に踊らされるなど阿呆がすることではないのか」

一息で言いたい事を告げて、家康にお構いなく自席に座る。
その一言に家康は苦笑いを浮かべるが、それ以上何もアクションは起こさなかった。
ただ唯一アクションを起こしたとしたら腕に下げていた空の大きな紙袋を三成の机に置いた位。
それを見た三成は眉間に濃い皺を作った。

「何だこれは」
「チョコレートをそのまま持って帰るには大変だろうと思ってな。これに入れてもって帰ればいい」
「要らん。こんなものは真田にでもくれてやるから持ち帰る必要はない」

そう言うと家康はいつもの様に「それじゃあ駄目なんだ三成!!」と大声を上げる。
そんな家康に三成は苛立ちを感じ立ち上がろうと腰を浮かせるが、刹那、家康の背後によく見知った顔が映った。

「(名前?)」

三成の目が捉えたのは大切な恋人の名前。
なぜ彼女が此処にいるのかを考えていたら、その小さな手が家康の肩を2、3回叩く。
家康が振り返った途端、べしょっと言う情けない音が鳴ったと同時に家康の顔が茶色のクリーム塗れになった。
そのクリームは飛沫となって辺りを汚したが、被害にあったのは家康だけだ。

その様に三成は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をした。

「さっきから喧しいわ、家康」

家康が何か言っているが、名前が笑顔で皿(と云うよりはパイシート)と家康の顔面に押し付けたままだからもごもご言っているが。
手探りで、家康は名前の手に触れると、そっと名前の手を避けた。
顔にへばりついたクリームたっぷりのパイシートも片手で外すが、家康の顔は見事なまでにクリーム塗れになっていた。

「名前殿、いきなりチョコレートパイを顔面に叩き付けるのは戴けないぞ」
「それは貴方が喧しいから。ただでさえ機嫌が悪い三成の気をこれ以上悪くする事をしないで頂戴」

そう言った名前は至極不機嫌そうな顔をしていた。
顔はいつもの笑顔だが目が笑っていない、
名前も三成と同じでバレンタインでーに興味が無いのか何なのか。
家康はこれは困った物だと肩を降ろした。
しかし顔にべっとりと付いたチョコクリームは丁度良い甘さで美味しいと舌鼓を打つ。

名前は三成を見ると途端に更に機嫌を悪くしたのか、すぐに踵を返し教室を出ようとする。
が、三成はすぐにそれを背後から阻止した。

「待て。私には一言も、何も言わないのか」
「言いたい言葉ないもの。……今、丁度一つ見つかったわ」

「馬鹿」。
たった一言そういうと頬を若干膨らませた顔を三成に見せる。
その表情に三成は若干たじろいた。
この顔をしている時の名前は途轍もない怒りを腹に抱えている状態だと熟知しているから。

「貴様、何を怒っている」
「怒ってなんかない。断じて」
「嘘を吐くな。なら、何故そんな脹れっ面をしている」
「……胸に手を当てて考えてみたら?」

そのまま三成の手を払い、名前は教室に戻って行ってしまった。
今までに見たことがない名前の態度にどうしていいのか、また、訳が分からなくなって体が震える。
そして背後にいる家康に振り返り、いつもの調子で叫ぶ。

「何故、何故私が名前に怒られねばならない!!家康ぅぅぅぅぅ、貴様の所為だ!!」
「えぇー、今のはワシの所為ではないぞ」

日常と化してることだから慣れてはいるが、「しかしなぁ……」と言って家康は三成を見る。
その視線を感じ、三成は不機嫌に「何だ?」と唸った。

「名前殿が怒ったのはそのチョコの山だろうなぁ……。名前殿は三成の事が大好きだからな」
「なっ。あいつもこのような下らない行事に惑うなど、ありえん!!」

そう言って三成は家康を押しのけて名前を追いかける。
足の早い三成はすぐに名前に追い付き、後ろから腕を掴む。

「待て!!あれは私が席を外している間に勝手に置かれた物だ!!」
「……それでも十分気に入らない」
「ならば処分する。それで良いだろう、だから、怒るな」
「……」

名前は暫く顔を俯かせて考える。
だが、すぐに顔を上げて三成をじっと見た。

「貴方の処分は物を棄てる事だからしなくても良いよ、勿体無いから。と云うか処分したら秀吉様と半兵衛様と刑部に言いつけます」
「!! 卑怯だぞ、貴様」
「食べ物は無駄にしちゃいけないもの。……三成」
「何だ」
「私が作ったチョコも、その、食べてくれる?」
「……貴様が作った物を拒む訳が無いだろう」
「そう、良かった」


2014/02/14