戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ そばにある日輪

目の前に出された物に元就は訝しげな顔をした。
それは朱塗りの小皿に乗せられた、白くて丸くてふんわりとしているそれを見て。

「何ぞ、これは」
「何って、見ての通りのお大福です」
「たわけ。我はその様な事を聞いている訳ではないわ」
「だって、この前聞いてしまったんです。元就様がお餅が好きと云う話を」

元就に怒られたと思い、しょんぼりしながらそう話す。
元就は元就で呆れていただけなのだけど。

「誰ぞ。誰がその様な事を申した」
「金吾です。この前遊びに行った時に教えてくれました」
「金吾め、余計な事を……」

今度また説教に向かわなくては、余計な手間ばかり掛けさせてと、若干苛立つ。
しかしそんな事よりも元就は名前の一言も気にかかっていた。
「この前遊びに行った」。そんな暇はこの一月辺り一度も与えてはいない。
それならば何時そんな話を聞いたのか。

それを問い詰めたい気分にも陥ったが、自分と名前の関係はただの主と家臣。
男女の関係として付き合っているのならまだしも、という考えが元就にはあった。
更に言えば元就は名前に対して特にそれと言った感情を抱いているわけでもないし。
尤も、ニコニコと阿呆みたいに笑っている名前に問い詰める気さえ起きないけれど。

「もしかしたら、お気に召しませんでしたか?」
「いや、食す。名前、茶を淹れよ」
「はい。今日は玉露が届きましたので玉露で宜しいですか」
「うむ」

嬉しそうに名前は元就の茶碗に玉露を注ぐ。
上手い具合に蒸された、鶯色に元就は若干表情を崩した。
名前もそれをちらりと覗き見て、嬉しそうに小さく笑った。

元就は色々気難しい人だ。
その性格や戦から"暴君"等と呼ばれるが、名前は決してそうは思って居なかった。
元就が此処まで冷徹になってでも守り通したいのは毛利家と、この安芸の繁栄させる為。
その二つに其処まで執着する理由は彼の幼少期に起因するらしいが、名前はその委細を知らない。
それは元就にとって辛い過去である事では変わりないし、無理にそれを他人である名前が聞き出していい物とは思えない。

だからこそ、こんなほんの些細な事でも元就が笑ってくれる事が嬉しい。

「そなたは食べぬのか」
「これは元就様の為に用意した物。自分の分は用意していません」
「……」
「私は執務がありますので元就様はごゆっくりなさってください。こんなに日輪も明るく照っているのですから」

そう言って笑った名前はすぐに部屋を出る。
一人になった途端、胸の奥に急に虚無が込み上げる。


夕暮れになって名前は再び元就の部屋を訪れた。
と云うのも、用がない限りは部屋に来るなと言われていたが、一ヶ月程前から朝昼夕夜部屋に通い来る様にと申し付けられていた。
その話を貰った時は元就に認められたと、凄く喜んだものだ。

「元就様、失礼します」
「名前か」
「わっ、こんなに暗いのに明かりをつけていらっしゃらないんですか」

名前の言葉通り、元就の部屋は暗く、火が灯っている筈の燭台には火が灯っていなかった。
それは元就がずっと窓辺りで外を眺めていたから気付かなかったのだろうけど。
燭台に火を着けようとすると「よい」と声を掛けられた。

「名前、こちらに来い」
「良いのですか?」
「不服でもあるのか」
「い、いいえ!!不服な訳ではありません。元就様が誰かを隣に座らせると云う事が珍しくて、つい……」
「ふん。まぁ良いわ。愚図愚図するな、早う来い。我を待たせるつもりか」
「滅相もない!!」

不機嫌にさせて堪るか、と名前は早足で元就の側に駆け寄る。
そして側に寄ると、今度は座る様に指示される。

「時に、夜空を眺めるのも良いものよ」
「え?あ、はい。そう……ですね」
「そなたは夜の方が好きか」
「……私は、昼が好きです。だって、元就様が安らげる時間だから」
「……そうか。我も昼が一番良いな。夜は好かぬ」
「元就様?」

あの後、名前が部屋を出た後の元就は子供の時に感じた寂しさを感じていた。
寂しすぎて、閑静で。まるで夜の様な。
名前がいる間は五月蠅い位なのにそれが心地よくて堪らない。
まるで名前は日輪の様な娘だと、そう感じる様になった。
だから隣に置いておきたい。そう思う様になった。

「そなたがいれば、夜も昼に成り代わる」
「……?はぁ?」

この感情が慕情だという事に未だ元就は気が付いていないが、気付く事は当分先になりそうだった。

2013/12/18