戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ あなたの為なら何だって

「三成様、何か口にしなければ……!!」
「五月蠅い、私に構うな!!私は、私は秀吉様の為に家康を、家康ゥゥゥゥゥ!!!」

その様子を遠巻きから見ていた名前は悲しそうに溜息を吐いた。
元々欲と云う欲を持ち合わせていない、清廉な人だとは思っていたけれど、自らの体を省みる事はしないだなんて。
此処で倒れてしまっては元も子もないと云う事は彼の頭から抜け切っている。

秀吉と半兵衛がこの世から去ってから彼は碌な食事もしなくなった。
精々、叫び続けて喉が嗄れた頃に水を飲む位。
こればかりは吉継が何を言っても三成は耳に入れなかった。
が、そろそろ名前の心配も最高潮に達する。
戦後で感情が昂ぶっている三成の眼前に、恐れを棄てて立った。

「何だ」
「三成、彼を余り怒らないで。彼は貴方の事が心配で……」
「奥方様……!!」
「貴方は皆の所に戻って一先ずは手当てを受けてきなさい」

兵士は涙を浮かべた目で名前を見た。
この人ならば、三成に食事を摂らせる事が出来るのではないかと期待しながら。
しかし三成は名前にも噛み付く様に言葉を発する。

「私は大丈夫だといっている!名前、貴様も私に意見をすると云うのか」
「意見じゃない、心配」
「フン。同じ事だ」

それでも、少しは何かを口にして欲しいと思う。
そして欲を言えば休んで欲しい。
しかしそれを上手く伝え、実行させるにはかなりの労力を労するだろう。

「こんな姿の三成を見たら秀吉様は一体どう思われるかな」

何気なく呟くと三成の肩がピクリと反応する。
其処で失言だったと気付き、顔を若干蒼くさせる。
案の定彼の顔は怒りに満ちていた。

「貴様ァ……」
「ご、ごめんなさい!!貴方を怒らせるつもりはなかったの」
「……ハァ。もういい。貴様が其処まで言うのなら解った。食事位食ってやる。明日は進軍を停止して休養をとってやっても良い」
「ほ、本当に?」
「嘘をついて何の得がある。但し、一つ条件がある」


三成から食事を摂る為の条件を聞いた名前は、早速吉継の部屋に訪れていた。
そして今までの経緯を話すと吉継は愉快そうに喉を鳴らして笑う。

「主が作った物しか食さぬと、三成はそう言うたのだな」
「うん」
「三成が食事を摂ると言い出すとは珍しい事よな。いや、僥倖よ」
「刑部、私は僥倖ではないわ。話はまだ続いているの」
「やれ、早急に話せ。早急になァ」
「……美味しくなかったら今後、私と二度と話をしないと、そう言われたの」

吉継は笑い過ぎなのか、声も出さずに笑った。
その様子を見て名前は不貞腐れた様に「刑部に報告をした私が馬鹿でした」と、部屋を出ようと立ち上がる。
が、吉継は笑いを堪えながら名前の背に「待たれ」と声を掛ける。

全く、三成も大概阿呆だが、この女も三成に負けず劣らずの阿呆だ。
三成が言った言葉の意見を真直ぐ、そのまま受け取っている。
政略結婚とはいえ、名前の事を不器用なりに大切にしている事に気付いてはいない。
そもそも政略結婚とは言っても半兵衛が「三成君のお嫁さんは名前君が良いと思うよ。ねぇ秀吉?」「うむ。お前たち二人であれば似合いの夫婦となろうな」と秀吉が同調して言ったから結婚した様のものだけど。
それでも、大切に思われているのだから十二分に愛されているとは思うのだけども。

「皎月、主も大概阿呆よな。彼奴が主と話をしないと云うのは、それは主の料理の味が美味いと思っておるからよ」
「でも……」
「太閤が生きていた時に主が作った膳のみ、彼奴は完食しておったわ」
「!!」
「そしてこうも言うておったなァ……。"名前は私に過ぎたる嫁だ"と」

吉継の言葉に意図せず表情が綻ぶ。
名前も三成が不器用なのは大概解ってはいたが、まさか此処まで不器用だったとは。
そして自分の阿呆振りにも落胆はしていたが、今はその阿呆振りが微笑ましく感じる。
そのお蔭で下らない事で、あれやこれやと考える事が出来た。

「三成は主と話をしないと云うた様だが、主の事を信用しているから出た言よ」
「刑部……。貴方には本当にいつも感謝してる」
「よいよい。主らにいつか不幸の星が降る光景を見る事を思えば可愛らしい事よ」
「貴方も大概不器用ね。お礼に刑部の分の膳も運ばせます」

「ヒヒッ、楽しみよなァ」と言う吉継を尻目に名前は彼の部屋を出た。

さぁ、吉継の言葉で自信はついたし献立は一体何にしようか。
なるべくなら今まで摂れなかった分の栄養も摂れる様な献立にしたいな、と思案する。
まずは城に備蓄してある兵糧を見よう。
その後にでも城下で買い物をしてこよう。
たったそれだけの事を考えるだけなのに何故か名前の心は温かく、フワフワした心地だった。


貴方の為なら何だって


翌日の朝。名前は女中よりも早くに起きて台所で三成と吉継、自分の分の膳を作る。
膳、とは言っても其処まで大きな物ではない。至って簡素な物だ。
三成は今まで碌に食事を摂っていなかったし、吉継も食事はしていたが極少量。
二人とも胃が収縮していると思ったからこその配慮だ。
作り終えた頃には女中達も起きてきて、忙しい中、膳を二人の部屋に運ぶのを手伝ってくれた。

「三成」
「……名前か。入れ」

部屋の襖を開け、三成の部屋の中に入る。膳を持った女中と従えて。
三成は自室に吉継、名前以外の人間を部屋に入れる事を嫌悪しているから、膳を置かせたらすぐに下がらせたけれども。

「条件通り私が作りました。さぁ三成、約束よ。残してもいいから食べて?」
「フン。言われずとも。私は約束は果たす」

そう言って箸を手に取ると、煮物から箸をつける。
その様を少しドキドキしながら見守っていた。
途端三成は箸をそっと置いた。

「……味付が濃い」
「お、美味しくなかったって事?」
「誰が何時美味くないと言った?私は味付が濃い、とは言ったが不味いとは言ってはいない。……だが、お前の料理であれば、時折であれば食してやっても良い」
「!!」
「? 何をそんな喜んでいる?」
「……何でもない!フフっ、今度からはもう少し味を薄くしてみるね」


2013/12/10