戦国BASARA短編 | ナノ
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▼ だからね、春になってもだめなのよ。

※死に関する描写有


名前は伊代河野の鶴姫の船にいた。
何でも鶴姫が厳島の神子であり友としての絆を結んでいる名前に相談したい事、見せたい物があると言う事。
名前は主君である毛利元就…彼に直に暇を貰いに行き貰った言葉が「好きにするが良い」の一言だった。
最初はあの大きな輪刀で処断されてしまうのではないか、とひやひやしていたのだが理解ある主君で良かったと名前は静々と思った。

冬の瀬戸海は冷たい。
まだ雪もちらつく程度だから良いものだ。
あの農民の少女がいる東北や、上杉が陣を構える越後、それに蒼い龍が統治する奥州はきっともっと寒いのだろう。
農民の少女は冬になると村が吹雪に覆われると嘆いていたっけ。
ふと彼女は元気だろうか…と心配になる。

「名前ちゃん、お待たせしました!!そんな所にいては風邪を召してしまいますよ?さぁ、ずずいっと船の中にどうぞ!」

ぼんやりと農民の少女の事を考えていたら名前を呼んだ張本人である鶴姫がいつもよりも厚着をして船の甲板にやってきた。
名前もそれなりに厚着をしているのだが鶴姫のそれとは比べ物にならない。
鶴姫は愛されていて大切にされている。
それが十分に伝わってきた。
些か厚着が過ぎるような気もするけれど。
名前は鶴姫の横を歩く。

「鶴ちゃん、今日は何故私を此処に呼んだの?文には相談事と見せたい物があるって書いてあったけど」
「そうです!その事なんです…」
「? どうしたの?」

急にしゅんとなる鶴姫に名前は心配になる。
いつも元気で明るく、溌剌としている彼女がこんなにも元気をなくした顔をするだなんて。
一体何があったのだろうか。

「名前ちゃんは鳥さんの事、解りますか?」
「…鳥?鳥って雀や烏の鳥、かな?」
「はい…、元気のない鳥さんが船の上でぐったりと…」
「その鳥さんは何処に居るの?」
「船の中で寝かせて上げてます」

船の中に入ると日を焚き付けてある火鉢のお蔭もあってかとてもあたたかかった。
名前は鶴姫に手を引かれ彼女が見つけたと云う鳥の元へ行く。
鳥は膳置き台の様な台の上に小さめな座布団を置いた上に寝かされていた。
見たところ動いている様子は無い。

「鳥さん、すっごく冷たいんです。まるで真冬の海みたいに…」

動物に詳しくない名前でもそれは死んでいると一目で解った。
しかし箱入り娘同然に外の世界から遮断されて育った鶴姫は生物の生死を見分ける判断能力は無い。
それは彼女が先見の力を持っていても、だ。
生物の死にも人間の死にも疎い。
死とは程遠い世界の少女。

しかし残酷かもしれないがこの鳥が死んでいる事を彼女に教えねばならない。

「あの、鶴ちゃん…」
「名前ちゃん、鳥さんが動かない理由解ったんですか?!」
「うん…」
「?? 何でそんな悲しそうな顔をしてるんですか?」

事実を伝えるのが心苦しい名前の顔を鶴姫は何も知らない、純朴な顔のまま覗き込む。
名前はうっすらと目に涙を溜めて、そっと鶴姫の体を抱き寄せた。
いきなりの事で鶴姫は驚いて見せるが名前の様子が可笑しい事に気付き、声を掛ける。

「名前、ちゃん?」
「鶴ちゃん、残念だけど鳥さん、死んでいるよ。だから動かなくて冷たいんだよ」
「……そう、だったんですか」

鶴姫も名前の腕の中で悲しそうに涙を浮かべる。
生物の死に涙を浮かべられる鶴姫は本当に純粋で、優しい。
名前は毛利軍の駒として長い事戦に出ているから生物の死に悲しみで涙を見せる事はなくなっていた。
だからこそ友であるこの姫神子が愛しくてしょうがない。

「ごめんね、鶴ちゃん」
「名前ちゃんは悪くありません。名前ちゃん、私ね…鳥さんは冬眠してるんだと思ってたんです。でも幼い頃に大好きなお爺様が居なくなった時と同じで、ちょっぴり怖かったんです。鳥さんも、居なくなってしまいそうで」
「鶴ちゃん…」
「名前ちゃんはとても優しいです。私に本当の事を教えるのに、悲しんで泣いてくれるのですから」

一際強く鶴姫を抱き締める。
戦場で多くの人間の命を奪ってきたこの腕で彼女を抱き締める事は気持ち的に憚れるのだけど。
でも、今はこうして抱き締めていたい。
許される事ではないけど、今まで人の命を奪ってきた事が少しでも許される様な気がして。
二人は船の外に出るとそっと海べりにしゃがむ。
そして両腕に抱えた、命の費えた亡骸を海の中に埋める。
せめて水葬位は、と思ったから。
矢張り冬の瀬戸海は冷たくて仕方がない。
指先が水面に触れただけで凍りつく。

「名前ちゃん、鳥さんは無事じ浄土に辿り着けますか?」
「きっと辿り着けるよ。だって何処にでも飛び立てる翼があるもの」
「そうですね!鳥さんならバビュッと浄土までひとっ飛びですね!」

鶴姫に表情がいつも通りの明るいものに戻る。
それを見て名前は安心した様な表情を浮かべた。
この鳥が輪廻を経て鶴姫の元に戻ってきて、彼女を幸せにしてくれる事を願いながら。


2012/06/21

お題配布元「HANEBONE」