Devil May Cry | ナノ
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▼ 傍にいるから見抜いてる

「なー、アスタ。暇」
「私は暇じゃないので。依頼行ってきたらどうです?」
「えー」
「If you won't work you shan't eat.(働かざる者食うべからずですよ)」

これがつい1時間前の若とアスタのやり取り。

「忙しいとこ悪い。アスタ、備品を買ってくるけど必要な物はあるか?」
「うーん、特には……。あ、小さめなプラスドライバーひしゃげてるから売っていたら買ってきて頂いても宜しいですか?」
「OK.マイナスの方は平気か?」
「大丈夫です!」

これがつい40分前位のネロとアスタのやり取り。

「アスタ、済まないがタオルを持ってきてくれ。雨に降られた」
「わ、びしょびしょですね。待ってて下さい今シャワーの準備してタオル持ってきますね」
「済まない」
「あ、ネロ大丈夫かな……」

これが20分程前の二代目とアスタのやり取り。
その5分後位にはソファで眠りこけた初代にはにかみながら毛布を掛け、彼女が家事を終えて漸く一息付けると思ったその矢先。

「お嬢ちゃん。俺も眠たいから膝枕してくれ」
「電話番はどうされるんです?」
「バージルにでも頼めばいいさ。おじさまは眠い」
「遅くまで起きてるからですよ。全く、皆して不摂生なんですから」

そう言いながらもアスタは「どうぞ」と言ってショートパンツとサイハイソックスの間から覗く太腿をペチペチ叩く。
髭は遠慮なくアスタの太腿に頭を置き、嬉しそうな笑みを浮かべている。
だが、ずっとアスタの身の回りを観察していたバージルは既に我慢の限界に達していた。何奴も此奴も家事をしているアスタに負担ばかり掛けるなと。事務所の中に「いい加減にしろ!」怒号が響いた。
その声に眠っていた初代と今正に眠ろうとしていた髭が目を開け、シャワーを浴びていた二代目がバスルームから出てくる。彼と同じ時間から来た愚弟こと若も2階から慌てて降りてきた。
アスタは肩をびくつかせていたが、やがてきょとんとした顔で肩で呼吸をするバージルの事をじっと見つめていた。

「ただいま。どうしたんだよバージル。外まで聞こえてたぞ」

丁度良く備品を買いに出ていたネロも外に漏れたバージルの声を聞き慌てて帰ってきた。
ネロの一言にハッとして普段の平静さを取り戻す。

「いや、貴様らの普段を観察していたら余りにアスタに頼り過ぎているからな。取り敢えず髭。貴様は何時までアスタの太腿を枕にしているつもりだ?」
「何だバージル、いっちょ前にヤキモチ焼いて……」
「Resign to your fate I see.(余程死にたいとみえる)」

髭に向かって強襲幻影剣を放つ。しかし髭はいつの間にか手にしていたエボニー&アイボリーで幻影剣を撃ち落とした。下手をしたらアスタにも当たりかねない。そう思ったからだ。バージルに限ってそれはないだろうとは思ったが。
取り敢えず髭はこれ以上バージルを怒らせないようにと溜息を吐きながらも体を起こし、アスタの横に腰を据えた。

「家事の手伝いもしないのに家事をしているアスタに一々ちょっかいを出すな愚弟共」

バージルのその一言を聞いたネロは「あー」と何かを悟った様に声を零す。言われてみたらそうかもしれない。
アスタは不慣れながらもしっかり家事をしてくれているがダンテの殆どは家事はしていない。しているのは二代目くらいだ。初代は気紛れと言った所か。
アスタの事を一番気にかけている、且つ自身も不服ながら家事をこなすバージルにとっては怒りの琴線に触れる出来事だったらしい。

「ネロは必要な物を確認したのは必要な事だから気にはしていない。二代目は急に雨に降られたからタオルを要求するのはまぁ仕方が無かろう。だが他三人!貴様らは何故アスタが忙しそうにしている所に手を貸さず、手を出しに行く?」
「バージル、私は気にして……」
「Hold your tongue,Asta(黙っていろアスタ)。お前もお前だ。人が良過ぎる」

別に叱られた訳ではなく、注意をされただけだがそれを叱られたと捉えたアスタはしょんぼりと顔を俯かせてしまった。ダンテ達もこの位謙虚になって欲しいモノだがそうはならないだろう。今も、若に至っては欠伸をして人の話を聞いている。
「聞いているのかダンテ」と鋭く睨み付ければ視線を逸らす。何で俺だけと思っていそうだが別にお前だけではない。そう思ったがバージルは逆に呆れて溜息を吐き「もういい」とだけ告げてアスタの腕を引っ張りあげた。そしてそのまま階段を登り、自室に向かう。
その様を見ていた若が不服そうな顔をしていた。

「自分がアスタを独り占めしたいだけなのに俺達に当たり散らすなよ」
「馬鹿。実際バージルの言う通りなんだよ。あんたらはほぼ家事をしないのに文句ばかり、借金まみれなのに仕事は選ぶわ、他人にちょっかい出すわ……」

そこでネロの言葉が止まる。訝しんだ初代が「どうした?」と声を掛けたら急に深刻そうな顔になった。

「もしかしたら俺がフォルトゥナから此処に来るまでの間、レディが家事しに来てたって事はないよな?」
「あぁ、そう言えば怒りながら掃除してくって事があったな。だが坊や、それがどうした?」
「それ、明らかに家事代金として借金上乗せされてる」
「……」

まさかの気付きたくない部分に気付いてしまいダンテ達とネロは沈黙した。それが真実かどうかはレディのみぞ知るが、有り得そうで怖い。
そんな中で二代目はただ一人「バージルに言われた事を反省しないのか」と思っていた。


††††


バージルはアスタを部屋に押し込むと少し乱暴にベッドの上に腰掛け、アスタを呼ぶ。しかし呼んだ彼女はバージルを怒らせたのではないかとずっと冷や冷やしていて中々傍に寄ってこない。

「俺はお前に対しては怒ってはいない」
「……」

無言で寄って来たアスタの手をもう一度掴み、隣に座らせる。そして優しく頭を撫でた。

「俺の部屋なら愚弟共もそう入って来やしない。落ち着いて体を休めろ。何か飲み物が欲しいなら俺が持ってくる」
「でも、逆にバージルが落ち着かないのでは?」

彼は元々一人で居る事の方が好きなタイプだ。だからこそ、この時間に来てからはバージルにあまり干渉しない様にしていた。
この時間ではもう、彼の母の仇は討たれているし、強大な力を手に入れる必要はないとアスタは考えていた。バージルと此処まで共に歩んで来たのは二人共力が欲しかったからだ。
アスタの言葉を聞いたバージルはふっと口元を緩ませる。

「(笑った……)」

バージルが緩やかで柔和な笑みを浮かべるのは珍しい事だ。だからこそ彼の笑を見るとなんだか嬉しい気持ちになる。自分しか知らないバージルの優しい面を知れた様な気がして。

「疲労を溜め過ぎだ。顔色が悪い」
「疲れてなんか……」
「まだ家事に慣れていないだろう。一人でなんでもしようとするな。幾らお前も半魔で、魔女だとは言え、元の体は人間の肉体でしかない。今までの事も考えると相当な負荷が掛かっている筈だ」

「自覚はしているだろう?」と尋ねればアスタは僅かに首を縦に振った。
アスタの体を横にさせると、先程彼女が髭にそうした様に自分の太腿に頭を乗せさせる。女のそれに比べれば筋肉で引き締まっている所為で固くて、気持ち良い物でもないだろうが。
最初はアスタもその行動に驚いていたが、あのバージルが気遣ってくれている事が嬉しくて、つい甘えてしまう。表情筋が緩むのを感じた。

「思い出しますね」
「何時の事だ」
「バージルと会って間もない頃です。私、あの時は本当に怖がりでいつもバージルにご迷惑ばかりかけていましたよね」
「あの程度、迷惑だと思った事はない」

ぶっきらぼうに返された言葉に思わず笑ってしまう。
しかし、あの頃は辛かった筈だが今になって思い返すと途轍もなく懐かしく、大切な思い出だと思える。
暗闇も一人で居る事も、何もかもが恐ろしくて、手を取ってくれたバージルの傍に居なければ眠れないくらいに弱かった。でもバージルはそんなアスタを怒りも、笑いもしなかった。
隣に寄り添って不器用に頭を撫でてくれたり、アスタが安心して眠れるまで起きて手を繋いでいてくれたりもした。
いつしか、成長していく過程で彼が傍にいなくても一人で眠れる様になっていたが。
バージルと他愛無い会話を繰り返している内に安心したのか、意識が段々と微睡み、瞼が降りてくる。
そしてそのまま穏やかな寝息を零して眠りについた。

「今も充分に怖がりだと思うがな」

それは自分も同じかと自嘲する。
アスタが隣にいない事が怖い時がある。ダンテと楽しそうに話をしているアスタを見ていたら嫉妬もしてしまう。

「思っていたよりも、お前の存在は俺の中で大きな存在になっていたようだな、アスタ」

頬に掛かった髪を指先で払うと、指先が頬を掠めたのかアスタは擽ったそうに体を捩り、再び規則正しく寝息を零した。
本当に、出会った頃に戻ったみたいだ。この数年間は第二次成長の過程で互いに意地を張ったり、我侭の言い合いをしたりもして別行動したりした事もあったが、やはり彼女が傍に居る方が良い。

「バージル……」
「何だ」
「ずっと、一緒、ですから……」
「……寝言か」

しかし夢の中でも自分の事を想ってくれているアスタが更に愛しく感じる。
本当はアスタを寝かし付けて、その間は読書に勤しむつもりだったが予定変更だ。眠るアスタを観察していよう。
バージルはアスタの頭を撫で、静かに微笑んだ。


2015/04/18