Devil May Cry | ナノ
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▼ Sabbath of a witch and the devil

※狂愛/流血・暴力・カニバリズム表現有


「バージル、貴方は私が死にたいと口にしたら殺して下さりますか?」

何気なく彼女が口にした言葉にバージルは思わず眉間に深く皺を刻んだ。
決して彼女の境遇を知らない訳ではないし、彼女が幾度と『死にたい』と負の言葉を口にしているのを聞いてきた。アスタの精神は既にギリギリの所にある。何度も汚染され、崩壊を繰り返して、現在に至る。
体もそうだ。半魔に改造されたと言っても過言ではないその肉体は激しい損傷と驚異的な回復を繰り返している。普通の肉体であれば耐える事が出来ない位の負荷が掛かっている。
彼女はバージル程強くもないし、頑丈でもない。脆弱なのだ。それは生まれついての半魔であるバージルもよく解っていた。
彼女、アスタと言う存在は危うい。良い意味でも悪い意味でも。

「死にたいと願うなら勝手にしろ。好きな所で好きな死に方をすれば良い」
「私は死ぬならバージルに殺されたいんです」

酔狂な事を口にする女だとは思ってはいたがここまでくると異常だとすら思う。精神が汚染され、壊れている時点で『健常』とは言えないのだけど。
しかしバージルは彼女に幾ら乞われたとしてもその手でアスタを殺そうとは思ってはいない。何故ならば殺したくないからだ。その一言に尽きる。
沈黙を守っていればアスタが薄気味悪い、でも綺麗な笑みを浮かべてバージルの手を掴む。いつもは温かく感じる彼女の手は今は氷の様に冷たい。まるで死んでいるかの様に思えた。
それだけであればまだ良かったが、彼女が手を導いた先は細い頸。アスタの頸だった。女らしく、隆起が余り見られない喉仏付近に親指を添えさせられ、ぐっと指の上から抑えつけられる。しかしバージルの手も指もびくともしない。
アスタは少しばかり残念そうな顔をした。

「無駄な足掻きだ。俺はお前如きの力でどうこうされる程俺の力は弱くはない」
「解っています。でも、こうやって誘導しなければバージルは私を殺しては下さらないでしょう?」

「本当は閻魔刀でスパーンって首と胴体を切り分けて頂きたいんですけど」とアスタは苦笑を浮かべる。
そんな事、もっとする訳が無いのに馬鹿な女だとバージルは思った。
しかし彼女は何故こんなにも死にたがるのか。今まで共有してきた時間の中では一度もバージルに対してこう言った事を懇願してきた事はない。
気になって問い掛ける。

「現状が辛いから死んで逃げ出すのか?」
「いいえ。ただ、殺されたいんです。他ならない貴方の手で。だから死にたい訳では無いんです」
「……何を意味の解らん事を」

「殺されたい」と言う事は「死にたい」と言う事ではないのか。だが、目の前の彼女は元々精神を可笑しくしているのだ。意味が解らない発言をする事があると言うのはとうの昔に心得ている。
少しでも可笑しくなった気をどうにか落ち着かせようと試みるが何をすれば良いか解らない。
気道を短い時間だけ圧迫して脳への酸素供給を止めてやれば気が済むだろうか。だが、それは脳に負荷が掛かる。尤もアスタの回復力をもってすれば負荷等は何も問題はないのだろうが。
しかし考えている間にふと思ったのだ。何も彼女の気が済むような行動をとってやらなくても良い、と。
一か八か。バージルは言葉を紡ぐ。

「……お前の事は殺さない。だが、死ぬより辛い目に合わせてやる事は出来る」

「どうする?」と、新たな話題に興味津々なアスタの顔に手を伸ばすと親指を眼窩に這わせ、なぞる。
次の瞬間、アスタは片眼がジリジリと痛み始め、熱を発している事に気が付いた。血が、中に納めるものがなくなった瞼の隙間からこぼれ落ちる。

「あ、……え?」
「お前の目の色が好きだったが……致し方ない」

バージルは勿体なさそうに掌に収まっている血に塗れた白い球体をアスタに見せ付ける。それは紛れもなく、今までアスタの顔に埋まっていた眼球だった。
そこで漸くバージルが自分の眼球を抉りとったのだと悟る。
バージルはどうかは知らないがアスタは体の一部を欠損してもその部位を修復しない。回復能力が適用されないのだ。
アスタは眼球を抜かれた血塗れの片眼を強く掌で押さえつけながら片方の手を伸ばし、自身の眼球を求める。

「バージル、駄目、返して下さい。私の眼球」
「何故だ。俺に殺されたかったのだろう?死んだら眼球など不必要だろう」
「そう、ですけど」
「解っているなら、アスタ。もう片方の目も寄越すんだ。後は耳に、口も死ぬには必要がないだろう?」

目を抉られる直前と同じく頬に手が添えられる。
すると急に恐怖が沸き上がり、アスタは泣きながらいやいやと首を横に振る。涙と血が混ざり合い、アスタの衣服を汚す。
バージルはそのままアスタの頬を撫でると肩口に彼女の顔が来るように誘導し、頬に添えていた手を背に回した。
強く抱きしめると体が小さく震えている事に気が付いた。

「恐怖に泣く位なら"殺して欲しい"なんて言葉を二度と俺に言うな。解ったか?」

そう言うとアスタは少し考えてから小さく2、3回頷き手の甲で涙と血を拭う。
だがバージルが抜き取った眼球をどうしようかと、新たな問題が生まれた。抜きとった眼球を空洞になった眼窩に押し戻す訳には行かない。
一度切れてしまった視神経も動静脈も繋がるとは限らないし空気に触れてしまった眼球を戻すのは衛生的にいかがな物か。
それにいつまでもアスタの眼球を持っている訳にもいかない。しかし捨てようとはバージルは思わなかった。
そこである言葉を思い出す。「カニバリズムは最も明確な優しさの表現のひとつだ」と。
この言葉を口にした人間は誰だったか。確か作家のサルバドール・ダリだったかとバージルは頭を回し、眼球を見つめる。
カニバリズムは食べる人間によってはその者を血肉に変え一体化する事も可能だ。
バージルは不安がるアスタを他所に眼球に口付ける。

「バージル?一体、何を……」
「食べるんだ。お前の眼球を」
「えっ……」

アスタが体を萎縮させた途端、バージルは眼球を口の中に放り込んだ。噛み潰したのだろう、ぷちゅりと生々しい音が耳に届いた。

「バージル、本当に食べて……」

顔色を悪くさせながらアスタが尋ねると、嚥下する為に喉を鳴らす。途端アスタはその場に膝から崩れ、呆然とバージルを見上げた。
俯いた顔と肩が小さく震える。しかしアスタな泣いている訳では無いみたいだった。

「ふふっ、バージル。貴方と言う人は、本当に最高」

上げられた顔は薄く赤色に色付いていて、瞳は恍惚の涙で滲んでいる。
彼女は戦っている時は性格が変わったように戦い狂うのだが、今の表情は好き勝手に悪魔を蹂躙し、殺戮を繰り返している時のそれと同じだった。
思わず、眉間に皺を寄せる。しかし不思議と嫌悪感はない。

「体の一部を食われて興奮したのか?変態め……」
「その変態を助け、傍に置いているのは貴方でしょう?」

事実を言われてしまい遇の音すら出すことが出来ない。
しかし、あれ程眼球を返せと怯えていたのに今ではバージルに食べられた事に恍惚している。
もう、彼女は後戻りが出来ない所まで精神が汚れてしまっているらしい。人間のそれではなく、悪魔のそれとなってしまっている。

「美味しかったですか?私の眼球」
「……生牡蠣の様な味がした。食感は好きではないな。だが、お前の一部だと思うと不味くは思わん」

自分は何を言っているんだと思いつつも口は勝手に感想を紡ぐ。そしてまた、意志とは裏腹な言葉を紡ぎ始めた。

「アスタ。お前の血が欲しい」

その言葉にアスタは妖艶に微笑み、首元のスカーフを抜取り、ブラウスの釦を外すと首筋を曝け出し「どうぞ」と嗤う。
バージルは瞼を閉じ、それからひと思いに首筋に噛み付く。噛み付いた途端にアスタの体が2、3回程ビクビクと跳ねる。しかし、横目で見たアスタは恍惚の笑みを浮かべ、教授している。
昔、父の、スパーダの書斎で読んだ人間の想像で描かれた悪魔図録の「リリス」と言う悪魔に今のアスタが重なった。図録の中の彼女もまた恍惚に表情を蕩けさせていた、気がする。
歯で抉った肉を血と共に嚥下する。よくアスタに噛みついている(と彼女がはにかみながら教えてくれる)のだが、こんな風に大胆に噛み付いたのは初めてかもしれない。
ブラム・ストーカーの著書であるドラキュラの主人公の様に喉を鳴らし滴る血を啜る。若返る、なんてことは流石にないのだけど。
アスタは小さい声で呻きながらバージルの体に腕を回し、体を寄せる。

「まるで、サバトでも行ってるみたいですね」
「サバト?」

彼女が言わんとする言葉の意味はなんとなく理解は出来るが思わず鸚鵡返しで言葉を返してしまう。
ハンス・バルドゥンク曰く、サバトでは人肉が食されたと書物に記述があったのをこの前何処かで読んだ気がする。
しかし魔女が食べられる側になるなどと言う事は書いていなかった。
だが、そんな事はどうでもいい事だ。バージルはアスタの首筋から顔を話すと、口を血で赤く染めたまま、アスタの唇に舌を差し込み蹂躙する。
一通り蹂躙するとアスタの体を支え、眼球を奪った側の目蓋に口付ける。

「これをサバトと称するならば最後のオルギアまで行う必要があるな」
「……バージル。余りらしくない事を仰らないで下さい」
「冗談だ」

本当は冗談ではないのだけど。流石に魔女である彼女に魔女の慣例行事について戯れを挟むのは余り彼女の気には召さないらしい。彼女の言葉通りらしくない事だ。
その後沈黙を湛えててるとアスタが隻眼でバージルを心配そうに見つめる。

「後でお前の目に合う義眼を買いに行こう。何色が良い」
「……アイスブルー。バージルと同じアイスブルーが良いです」
「趣味が悪いな」

だが、いつものアスタに戻った事への安堵する。
しかし、安堵してばかりはいられない。またいつアスタが精神汚染でまたおかしな事を口走らないか目を見張らねばならない。
何故他人のためにここまで気を揉まねばならないのかと思うが恐らく彼女と出会ったことで何かしら心境に変化が生まれたのかも知れない。
その反面、酷く彼女を傷付けてしまいたいと思う事もあるけれど。先程血を啜りながら思ってしまった。「懇願されたのだから殺してしまえば良い」と。
悪魔である部分が一瞬の快楽の為に愛している人を殺せと、囁きかけてくる。しかしそれを拒む。

「(悪魔であるのに、情けない話だ。アスタを失う事を恐ろしく思うなど……)」

嘲笑を浮かべながらバージルは口元の血を拭い、アスタの手を取り血の匂いを落とす為シャワールームに向かった。


2015/07/02