Devil May Cry | ナノ
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▼ あの翼に憧れた

※後半原作沿い/死ネタ


天使がこの世界に存在するとしたら彼が本当の"天使"だとアスタはそう思った。

魔剣教団に所属する者の殆どは技術開発局長・アグナスが製作したシステム"帰天"により悪魔の力らその身に宿し、天使としてこの街を、フォルトゥナを悪魔から守る事を使命としていた。
尤も帰天の事を知っているのはごく一部の騎士だけで全員が受けられると言う訳でもない。
現に小さい頃から仲良くしていた弟分のネロなんかは帰天と言うシステムがある事自体知らないだろう。ネロだけではない。他の若き騎士達の殆どは知らない筈だ。
アスタも一応幹部と言う扱いにはなっているから帰天の事は良く知っている。だが"女"と言う事で帰天を受けられては居なかった。
それはそれで万々歳な事だ。悪魔の力を体に取り込み、天使になるなどそれは果たして天使と呼べるのか?アスタは常日頃からそう思い続けていた。
そして今日も自分の同僚であり、恋人であるクレドに思いの丈を告げていた。

「つまりお前は帰天には否定的だと、そう言いたいんだな?」
「えぇ。悪魔の力は所詮悪魔の力でしかない」
「だが、帰天の力が必要な事もお前は承知しているだろう」
「そりゃあ、まぁ……。この街を守れるのであれば、とは思うけど私には一生契合出来ない代物ね」

つーんとした態度でそう言えばクレドは寂しそうにはにかんだ。
しかしアスタはそんなクレドの表情を横目で見ただけで、両掌をぱんと音を立てて叩き合わせる「はい!この話題はもうもうお終い!」と言って次の話題に移ろうとする。
元々この話を持ち出してきたのはクレドだから話の腰を折るのは容易い。これがもし任務中であれば話の腰を折るなどと言う行為をした途端クレドは騎士団長としてアスタをその場で叱責するだろうが生憎今は二人とも休暇中だ。

「そういえばキリエ、今度の間剣祭の歌姫に抜擢されたんだって?凄いじゃない」
「あぁ、自慢の妹だ。しかしそれを誰から聞いた?まだ正式な発表はされてはない筈だが……」
「キリエ本人から。あとはキリエから話を聞いて興奮気味に走ってきたネロからも聞いた」

「任務中とは言えキリエの歌を聴けるだなんて私たちは幸せ者ね」と微笑みながら語りかけるとクレドは「そうだな」と一言だけ返し、空を眺める。
実はクレドはアスタに言いたい事があった。それは何とも気恥ずかしくて中々言い出せずにいたが彼女の今後にも関わる問題だ。早く伝えねばならない。

「アスタ」
「何?改まって」
「お前は今後、新しい家族が欲しいとは思うか?」

思いがけない彼の言葉にアスタは目をまん丸にして暫く口を半開きにしてクレドの真摯な顔を見ていた。その表情に照れは無い。それに彼は冗談なんてものは口にはしないし、寧ろ嫌っている位だ。
頭の中で言葉の意味が漸く理解できた所で眼窩に収まっている眼球全体が熱を帯び始める。
不器用で、生真面目な彼のその一言がとてつもなく嬉しくて堪らない。
だがその言葉を受けるという事はアスタは騎士を辞めねばならないという事だった。今ははまだ騎士を続けていたい。その思いも強い。

「……クレド。貴方の今の言葉は凄く嬉しい。でも」
「解っている。まだ騎士を続けていたいのだろう」
「ええ。……やだ、もう。私の気持ち、何で解るの」
「他ならないお前の事だからな」
「……やっぱりクレドには敵わないな」

こつんと、隣に座るクレドの肩に頭を預ける。
手を肩に添えるべきなのだろうか。一瞬躊躇ったがアスタの視線がそうして欲しいと訴えかけている。
意を決したのか漸くアスタの肩に手を添えたクレドにアスタは騎士とは思えない、女の微笑みを浮かべると小さな声で言葉を続ける。

「さっきの答えはYesだけど、引退するのはもう少し待って欲しい。せめて、教団祭が終わるまで……キリエが無事に歌姫の役目を終えるまで、私も騎士でいさせて欲しいの」

「本当はネロが立派な騎士になるまで、と思っていたけどあの子なら問題ないでしょう?」。
その言葉にクレドは小さく頷いた。ネロは素行や態度は悪いが彼ほど頼れる男もそうそう居ない。クレドもアスタもネロの実力を買っているからこその反応だった。


††††


しかし教団祭当日は散々だった。
キリエの出番は何事も無く終わったがその後が大変だった。招かれざる客が教団祭に参加し、あまつさえ目の前で、公衆の面前で我らが教皇を銃で撃ち殺した。
そしてその犯人・ダンテを追うべくクレドがネロにダンテ追跡の任を与えた。事実として教皇は帰天を行っていた為死んではいなかった。だが、知りたくも無い事を知ってしまった。
教皇がこの世界を牛耳ろうとした事。あまつさえ大切な妹分であり、一般人で敬虔な信者であるキリエをこの騒動に巻き込んだ事。信じていた物全てが壊れてしまった様に思えた。
自分に与えられた剣を教皇に向かって構えながら、体を震えさせる。
アスタも可笑しいとは思ってはいたのだ。主神・スパーダを崇め奉る宗教の教皇がスパーダの息子であるダンテに殺されるなどと言うのは。
剣を構えたままアスタは息を呑む。

しかし、アスタが息を呑んだのは教皇が生きていて自分達を謀っていたからでも、ダンテと対峙したからでも何でもない。
可愛い弟分のネロがスパーダが使用していた魔剣の一つ、閻魔刀で教皇に体を刺し貫かれた事。そして、クレドの人間ではないその姿を見たから。
真っ白で清廉な羽根が辺りに降り注ぐ。

「クレドッ」
「アスタ……」

初めて、彼が帰天し天使になった姿を見た。彼は人間のままでも十分に悪魔に太刀打ち出来る強さを持っている。
そしてこう思った。あんなに嫌いだ、契合し得ないと思っていた力なのに彼が身に纏えばこんなにも美しいものに成り代わるのかと。
しかしそんな事を思っている暇すらすぐに掻き消える。赤い飛沫が噴出し、小雨となって地面に降り注ぐ。苦しげな男の悲鳴と共に。それはアスタの白い騎士団服や頬にも飛び散った。生温かいそれを戦々恐々、震える手で拭う。
目の先では最愛の人が人の姿のまま教皇に閻魔刀で腹を刺し貫かれ、苦悶の表情を浮かべていた。
アスタは瞬時にその光景がどういうものなのか理解するとうわ言の様に言葉を紡ぎ、現実を理解しない為に小さく、数度首を横に振る。
剣も手から滑り落ちて金属音が虚しくその場に響いた。

「いや、いや……クレド。貴方が、そんな」
「逃げろ、アスタ……。っ、がぁ……!」
「クレド!!」

教皇は深く穿つ様に閻魔刀をクレドに突き刺す。
視界が涙でぼやける。教皇とクレドが何か言葉を交わしているが、沸騰し始めたアスタの頭はその言葉がどんな意味を成しているのか、理解も判別もしない。
今まで信じていた物が完全に崩壊した。

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」

剣に取り付けられていたイクシードを最大限に吹かし、助走をつけて大きく跳ぶ。
ネロが何かを叫んでいるが、それすらアスタの頭が理解をしようとしない。
しかし目の前に白く大きな塊が落ちてくる。それがクレドだと気付いた時には遅すぎた。クレドの体と接触し、地面に体が押し戻される。
何とかクレドの体を抱き留め、目蓋をぎゅっと瞑る。そのままアスタは衝撃とショックで意識を手放してしまった。
最愛の人が死んだこの世界なんて最早彼女にとってはラグナロクでも迎えて誰も居なくなってしまった更地でしかない。

「クレド……」

うわ言の様に、彼の言葉を何度も何度も呟く。しかし、最早大好きで、愛しくて、一瞬だけでもあの白い翼に憧れを抱かせてくれた彼は戻ってこない。淡い光の粒子となり、消えてしまった。
その様をアスタが意識を飛ばす直前に、彼女達を受け止め助けたダンテとその相棒・トリッシュが哀れましそうに見つめる。
彼女も気を失っている間に殺してやった方が、彼女もきっと……。そう思いすらもしたが自分の信条を捻じ曲げてやる必要もない。そんな事は死んだクレドも望みはしないだろう。
そう思い、ダンテはアスタにその場に落ちていたクレドの剣・デュランダルを胸に抱かせ、その場を去った。
他でもない、無関係な人間を巻き込んだこの茶番を終結させに行く為に。


end


夢小説企画「僕の知らない世界で」様提出

企画公開日 :2015/02/28
サイト公開日:2015/03/02