Devil May Cry | ナノ
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▼ ラ・ヴォアザンの罠

※流血描写有


テーブルの上に小さな小瓶が置いてあった。
バージルはそれを訝しげに見つめ「おい」と愛用の武器達の手入れをしているアスタに声を掛ける。するとアスタは「はい?」と間が抜けた声を上げて返事を返す。
バージルは小瓶を手に取り「これは何だ」と再度アスタに聞くが、「あぁそれですか」と矢張り暢気に間延びした声を上げた。

「それ、駅前のお菓子屋さんの店主さんが下さったんです。ケーキに使うオレンジが坂道で転がってしまって、それを拾うのお手伝いしたら頂いたんです」

中に入っている薄ピンクの粉も言われてみればケーキなどにかける飾り用の砂糖にも思える。確かに見た目的には菓子屋に売っているような可愛らしい小瓶だ。
砂糖であれば自分には特に関係は無いだろうしテーブルの上に戻す。
武器の手切れが終わったアスタは「今、何か飲み物淹れますね」と言って、テーブルの上の子瓶を手に取りキッチンの方へ行ってしまった。
まさか早速あの砂糖を使うのかとは思ったが貰ったのはアスタだし、砂糖を使うのはアスタだけだ。彼女の好きな様に使えば良い。
キッチンの向こうから「バージルはコーヒーで良いですか?」と尋ねられたからそれで良いと返す。

すぐにカップを持って来たアスタが戻ってくる。
彼女からコーヒーが入ったカップを受け取るとすぐに口を付ける。
アスタは相も変わらず甘そうな香りを発しているミルクティーの様だ。
もう既に砂糖を入れているのか小さく嚥下を繰り返す。

「そういえば、バージルはどちらに?」
「図書館だ。生憎今日は蔵書点検で休館だったがな」
「だから少し不機嫌だったんですね」

ふふっと何時もの柔らかな笑みを浮かべもう一度カップに口を付ける。
別に不機嫌でいたつもりは無いがアスタが言うのであれば気付かない内に不機嫌になっていたのかもしれない。
アスタの言葉を疑う余地も無い。其れほどまでにアスタの事は信頼している。
しかし先程から気になる事が一つだけある。
アスタの行動が挙動不審なのだ。行動自体は何時ものアスタなのに仕草や視線の向け方が何時にもなく騒がしい。
それにこの部屋の中に入ってきた時から感じている妙な魔力のにおい。
甘く香ってくる、まるで菓子の様なこのにおいも気に掛かっていた。部屋全体に充満している。
アスタの不在の折でも、悪魔が入り込んだのであれば先に帰ってきたアスタがその気配に気が付いて悪魔を倒して居る筈だ。だが、その形跡すら見当たらない。

するとバージルの心臓が急に激しく脈を打つ。
そして其れを皮切りに体全体が熱を発し始めて、呼吸も荒くなる。こんな事は今まで生きてきて一度たりともなかった。
まだ幼い子供の頃、魔力が全くなかったほぼ人間の様だった頃、ダンテに風邪をうつされた時にこんな感じになったけども其れとも違う。
この部屋の中に満ちている魔力の所為か。
それであればアスタも同じ様に苦しんでいる筈。そう思い、アスタの方を見ると何時も通りのままミルクティーを飲み、平然としている。
しかし、彼女と視線が交わった時にバージルはすぐさま察した。

「貴様、アスタに何をした?」
「嫌だ。一体何を言っているの、バージル」
「……ふん、ボロを出したな。その女はそんなにか弱そうな喋り方はしない」
「……」

バージルは素早く移動すると壁に立てかけていた閻魔刀を手に掴み、抜刀する。
閻魔刀で切りつければアスタの体から彼女に取り憑いた悪魔を引き剥がせる。
全く持って面倒な悪魔に取り憑かれて戻ってきたものだ。引き剥がしたらまずは説教だなと、奥歯を噛み締めながら思案する。
だが、アスタ、基い悪魔はくすくすと笑い声を上げて愉悦に浸った女の表情を浮かべていた。体自体はアスタ本人の物だから酷く蟲誘的に感じる。

「何が可笑しい」
「私を斬るのですか?ずっと一緒に歩んできた私を!」
「俺が隣に置いていたのは貴様ではない」

次元斬を放とうとした時、悪魔は元の声を荒げながら待ったを掛けた。
しかしバージルは其れに構わず次元斬を放とうとする。
悪魔がアスタの体を傷付けるのかとお決まりの言葉を口にするかと思っていたから。
アスタもそれなりには魔力はある。だから傷位すぐに自動的修復される。だからこそ閻魔刀を使おうと、そう思っている。仕置きも兼ねて。

『はぁ、頭が固い……。私を殺せばこの女は一生目覚めはしないのに』
「何だと?」
『私の毒でこの娘の精神は死んだも同じ。そうだな、お前達人間の言語で言ってやれば"仮死状態"。私が解毒してやらねばこの娘は死んだまま、私の器のまま……』

恍惚の表情を浮かべながら己の両腕で自分の体を抱き締める様に包み込む。
漸く理想の器を、体を得られた。そう言いたげだ。
その様に吐き気すら覚えたがアスタが本当に仮死状態だとして、彼女の中の悪魔を殺してしまったら本当にアスタは死んでしまうだろう。それだけは避けねばならない。

「俺に何をしろと言うんだ」
『あら、従順。そんなにこの娘が大切なの?可愛らしい坊や』
「早く言え」
『そうねぇ、貴方のその魔力。私に下さらない?この子もそれなりに魔力があるみたいだけど、こんなちっぽけな魔力じゃ若さを保ってられないわ』

『私、魔力を持つ人間から魔力を吸って生きているの』と悪魔は言う。
悪魔にも若さなどがあるのかとは思うがアスタを返してもらうにはその言葉に従うしかない。胸糞悪いとは思うが。
この程度の悪魔であればバージルが本気を出すまでもなく一瞬の内に切伏せられるのに。其れが出来ないというのはなんとも歯痒い。

「解った。魔力はくれてやる。だから早くアスタの解毒をしろ」
『……仕方ないわね。その刀、少しヤバそうだし、そうしてあげるわ』

胸元に手を翳すと赤い陣が現れ、アスタの体が一瞬光る。これで解毒が完了したのだろう。
舌なめずりをしたアスタが『ほら、解毒してやったわよ。早く魔力を頂戴』とせがむ。

「どうやって魔力を渡せばいい」
『キス』
「何?」

耳を疑った。今この女はなんと言った。間違いがなければキスと、そう言った筈だ。
眉間に皺を寄せて睨みつけるが悪魔は余裕綽綽と言った笑みを浮かべている。
しかし、キスをするとなれば好機だ。自分から近付いて来てくれるのだから。
何も本当にキスをする事も無い。フリだけで良い。
そうなれば閻魔刀をアスタの体に刺し、悪魔にダメージを与える事も出来る。
それに他にも悪魔にダメージを与える手数はある。

『貴方、よくよく見たら格好いいじゃない?この子、もしかしたら彼女とかそういうオチ?』
「ふざけるな。早く終わらせろ」
『ふふ、せっかちね。いいわ、貪り尽くしてあげる……。中に居るこの子、凄く騒いで煩いし』

姿形はアスタだが矢張りされるがままと言うのは腹が立つ。
だが早く済ませなければまたアスタに毒を仕込まれるかも知らない。
唇がゆっくりと近付いてくる。
閻魔刀で刺される事を危惧しているのかご丁寧にバージルの右手をきつく握り締めてもいる。それなりには理知などが備わっているらしい。其れ故に腹立たしい。
だが悪魔とそう易々とキスをしてやるつもりなどバージルには微塵もない。
既に手は打ってある。バージルは無表情のまま目の前にいるこ憎たらしい悪魔の顔をねめつけた。

『っ……、あ”あ”あ”あ”』

後1cmと言うところで急に悪魔はもがき苦しみだした。
背中には薄水色の剣が腹を突き破る様に刺さっている。バージルが魔力で作り上げた幻影剣だ。
アスタの体は刺された箇所から赤い血をぽたぽたと滴らせている。
それは部屋のカーペットまで真っ赤な染みを作るように滴っていた。

「失せろ」
『貴様……う、ああああああっ!!』

アスタの体を左腕で突き飛ばし、閻魔刀で止めを刺す様に切伏せる。アスタの体がギリギリで回復する程度に収めて。
悪魔の本性が出てきたところでもう一閃、僅かに怒りを込めて悪魔を一刀両断に切伏せた。
悪魔はそのまま黒い血を砂に変えて四散していく。
そしてそのままバージルはアスタの体を持ち上げるとベッドの上に転がし、脈拍を測る。脈は正常に鼓動を打っているから命が尽きる心配は無いだろう。
現に切伏せた傷は既に治っている。幻影剣で突き刺した箇所の傷も外側は塞がっている。
それだけの事で妙に安心してしまう。

「起きろ、アスタ」
「ん……、ばー、じる?私一体……に”ゃっ?!」

上半身を起こそうとしたらバージルに思い切り肩を押され、ベッドに押し戻される。ベッドに背中を付いた後もベッドマットにめり込む位に押し付けられて変な声が出る。
これは不機嫌と言うレベルではない。怒っているレベルだ。
もしかしたら何かしでかしてしまったのだろうか。しかしアスタにはその記憶は一切無い。

「あ、あの私、何かしました?」
「あぁ、大いに嫌な目にあった。だから仕置きだ。お前の所為だからな」

そう言ったバージルの目は獰猛な肉食獣のようで。
ぎらぎらとした目のまま首元のスカーフを片手で抜き去り、妖艶に笑う。
誰かこうなった要因を今すぐ、簡潔に教えてください。そう思ったがそれを知っているのはバージルだけだ。

「暫く、外に出れない位にしてやる」

その台詞を最後にアスタは瞼を閉じた。


2015/01/18