Devil May Cry | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ それは切なくて甘酸っぱい恋心

※3⇒1の間


アスタは愛銃・アルカネットの手入れをしていたら事務所のドアが開いた。
直接この店に依頼をしてくる客はそうはいない。
さすれば店主かとアスタは笑顔を浮かべながら「おかえりなさい」と迎える。

「あぁ、ただいまアスタ。また銃の手入れか?」
「はい。私もいつでも悪魔狩りに行ける様にしておかないと……。あ、お夕飯とシャワーの準備整っていますがどうしますか?」
「まずは飯だな。腹減った」

そう言って事務所の所長席に当たるであろう席に向かい、テーブルに大きなビニール袋を置いた。
ダンテが自ら買い物をしてくるだなんて珍しい事もあったものだ。
大抵はアスタが買いに行くか、暇を持て余して居る時に二人で買いに行くかの二択だ。

「? 何か買ってきたのですか?」
「あぁ。後で一緒に食べようか。お前の分も買ってきているからな」
「私の分も?一体何を買ってきたのですか、ダンテ」

彼の含みがある言葉にアスタは首を傾げるが、ダンテはくっくと喉を鳴らして「それは後でのお楽しみだ」と意地悪そうにそう言った。
ダンテがそういうのであれば楽しみにしておこう。そう思いながら頬を綻ばせてキッチンで作っておいたトマトカレーを温める。
以前、彼の双子の兄と共にスパーダの足跡を辿り、旅をしていた時はこう言った軽口の言い合いなどは特にしなかったから新鮮だ。
最初は戸惑いこそしたが今ではダンテとのちょっとした会話すら楽しくて仕方がない。
尤もダンテもアスタを気遣っての会話だとは思っているけど。

でも、ダンテと過ごす日常も楽しいが矢張り、昔のあの日々も楽しかったなと思うと少しだけ胸が痛む。
だが何時までもこのままくよくよしていてはダンテにも悪いし、何よりも魔界に落ちていってしまった彼にも申し訳が立たない。
カレー鍋の前で軽く首を2、3回横に振ると温まったカレーを二人分皿によそった。


「最近料理の腕上がったんじゃねぇか」
「そうでしょうか」
「あぁ。最初の頃は俺の方が上手いんじゃないかって位だったからな。このトマトカレー、美味い」

ダンテに褒められて少し頬が染まる。
料理の本を読んでみたり、ダンテが遠征でこの町に居ない間は桃屋で一生懸命料理の勉強をしてきた。時折授業料として接客もやった事もあるけどこれはダンテには内緒だ。
にこにこしていたら不意にダンテに名を呼ばれ手に持っていたスプーンの動きを止める。

「どうしました?」
「皿洗いは俺がやっとくから先にシャワー浴びて来い」
「いいです、ダンテが先にシャワー浴びてきてください。疲れているでしょう?」

尚もにこにこしているアスタの顔を見て「あー……」と気まずそうな声を上げると、机の上に置いておいたビニール袋をちらりと盗み見る。
アスタもダンテの視線が袋に向かっているのを見て一緒に袋の方を見る。
一体中に何が入っているのか。それが気になって仕方がない。
だが、ダンテがさっき言っていた「後でのお楽しみだ」と言う言葉が気になったから素直に「お言葉に甘えてお先頂きますね」と笑顔で返すとダンテは胸を撫で下ろした。
完成させるまでアスタにはまだ中身を何か知らせる事は出来ない。
元々アスタがシャワーに入っている間に作っておこうと、そう思っていたのだから彼女がシャワーに行かなければ元々決行すら出来ない。
安堵しているダンテを他所にアスタは少しだけダンテをいぶかしむような目で見ていた。

夕飯の片付けも終え、ダンテはキッチンに立っていた。
目の前には透明なパフェグラスに真っ赤な苺。それに最初からホイップされている生クリームにストロベリーソースやカステラなどと言った物が並べられていた。
ダンテは事務所内で自身の好物であるストベリーサンデーをつくろうと画策していたのだ。
自分だけと言う事は勿論ない。アスタと一緒に食べるのが目的。
それであれば何時も通り外で食べても構わないのだがアスタは人混みが苦手だと、そう言っていた。無理に人混みに連れて行くと言う事はしたくはない。
アスタがシャワーから出てくるまでに全部仕上げてしまわなくては。
鼻歌交じりに材料を切り、アスタの笑顔を思い浮かべるとなんだか胸がむず痒くなった。


「ダンテ、シャワー空きましたよ」
「おー。相変わらずシャワー上がりは色っぽい格好してるな、アスタ」
「?」

アスタはタオルで髪を濡らす水分を拭いながら戻ってきた。
その格好と言うのは確りと着る物は着ているのだが、タンクトップにハーフパンツと言うなんとも女離れをした服装。
ダンテはその格好でも大いに構いはしないのだがこのままでは湯冷めして風邪を引くだろう。
尤も彼女もダンテ程ではないが魔力を秘めているからそう簡単には風邪など引かないだろうけど。

「こっち来い」

ダンテが手招きするとアスタは小さな子供の様に小走りで彼の元に向かう。
そして先程作り終わったそれをスプーンと共にアスタの前に置くとアスタは首を傾げた。

「これは」
「ストロベリーサンデー」
「ですよね。ダンテの好きな物のストロベリーサンデー」
「これ俺が作ったんだぜ」
「ダンテが?」

目を丸くしダンテの顔を見るアスタは本当に幼い子供の様だった。

「これを一緒に食おうと思ってた。いつも家事を任せきりだからな、文句も言わずにずっと」

ダンテの言葉にアスタはずっと硬直してしまっている。
そんな様を見てダンテは悪戯っ子の様な笑みを浮かべ「いらねぇって言うなら俺が一人で食っちまうぜ?」と言うと、焦った様に顔を少しだけ赤らめさせながら「頂きます!」と言ってキッチンまでスプーンを取りに走っていってしまった。
少しばかり落ち着きが無い。だがそんなアスタもダンテは愛しく思っている。
尤も今彼女に抱いている感情を言葉にして告げるつもりはないつもりはないけど。この先もずっと言葉にするつもりはない。
この感情を言葉にしてしまえばきっとアスタは此処からいなくなってしまいそうだし、それだけは嫌だ。
それにこんな感情、恋する乙女やそう言ったものにしか思えなくてスタイリッシュを信条にしているしている自分の柄じゃない。

「……ダンテ?」
「ん、あぁ。俺の分も持ってきてくれたのか」
「はい。だって、ダンテが言ったのですよ。一緒に食べようと思っていた、って」

「だから二本持ってくるのは当たり前じゃないですか」と少し頬を膨らませた風に言ったアスタは矢張り子供の様だ。
肩を並べるようにダンテの隣に座ると無邪気に微笑む。

「んじゃ、いただきます」
「いただきます……」

一口目のストロベリーサンデーを口にした彼女は幸せそうな顔をしていて思わず頑なだった口元が少しだけ緩んだ。
あの日から、あの戦いからずっと心の奥底から笑う事なんて忘れていた。
でも、アスタがこの世界に戻ってきて、一緒に生活をするようになってまた、少しずつだけども笑える様になってきた。その事に関して彼女に多大な感謝を抱いている。

「(最初からアスタに会ってたのが俺だったら……)」

そうであったらきっとこんなに胸が締め付けられる事もなく、素直に気持ちを伝えられていたかもしれない。
常日頃から女運が悪い自分がこんな事を思うのも不思議な位だが、アスタはその類にはいらない女と認識しているらしい。

「ダンテ、ありがとう」
「礼なんていらねぇよ」
「いいえ、言わせてください。だって、ダンテは私の事色々気遣ってくださっているんでしょう?」
「そんなんじゃねぇよ、俺がそうしたいだけだ。それ以上でも以下でもない」
「……でも」
「それ以上なんか言うならキスで口、塞いじまうぞ」
「……いいですよ。そんな冗談に屈しませんから」

そう言ったアスタは唇を尖らせて救い上げた生クリームを口に運ぶ。
アスタの言葉に「冗談じゃねぇって」と思いながら同じ様にストロベリーサンデーを口に運んだ。
今の気持ちを一緒に咀嚼して、嚥下して、どろどろ二に溶かしてしまえばいい。そう思いながら。


2014/12/10