Devil May Cry | ナノ
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▼ Love Chocolate

部屋に戻るとやけに甘ったるい匂いが鼻をついた。
元来甘い物を好まないバージルはその匂いに眉間に深く皺を寄せる。
この匂いの原因は恐らくアスタだ。彼女はバージルが外出している間一人でこの部屋に居た。だからこそ検討がすぐにつく。
案の定彼女は椅子に座りながら真っ白なカップに口を付けている。
しかもとても幸せそうな表情を浮かべていた。

「何をしている」
「! おかえりなさい。いつ帰っていらしたんですか?」
「今し方だ。それよりもこの甘い匂いは何だ」

不快感丸出しでそう言い放てばアスタは両手をパンッと叩き合せて笑みを浮かべていた。
そしてキッチンの方へ浮き足立ったかの様に歩いていく。寧ろスキップをしている様にも見える。
バージルはコートを脱いでベッドの上に乱雑に放り投げ、先程までアスタが座っていた椅子に腰掛けた。
するとアスタが湯気が立ったマグカップを両手に持って戻ってくる。
矢張りカップの中から甘い匂いが漂ってきた。
目の前にそのカップが置かれると中はどろりとした茶色の液体。
そこで漸く匂いの元が何かを察したバージルは小さく唇を動かした。

「ココア?」
「はい。今日は寒くなると聞いて買っておいたんです。バージルは甘い物は嫌いでしたか?」
「好みではない」

だが折角アスタが淹れてきたのだ。飲まないという選択肢をあえて切り捨てる。
確かに外は寒かったし、冷えた体を温めるには丁度良い。
普通、甘いものが好きどうかを聞いてから差し出すだろうとは思ったけども。
カップに手を付けると一口、ココアを口にした。
バージルが知っている、想像していた味とは違いすぐに茶色の甘い匂いの液体を嚥下した。

「……甘くない?」
「きっとバージルは甘い物が苦手だと思って少しコーヒーをいれてみたんです」

「お味は如何ですか?」と何かを期待する様な表情を浮かべたアスタから視線を少しずらす。
この表情を幼い頃によく見ていた。余りにも彼女に似ているから直視するのが気恥ずかしい。
しかし視線を逸らしてもアスタはそんな事はお構いなしにバージル笑顔を向けている。
これは何か言わねばずっとこのまま見られたままだ。

「……悪くはない」

ただ一言そう言ってやると「良かった」とアスタは更に頬を綻ばせる。
そしてアスタもきっと中身は甘いであろうココアが入ったカップに再び口をつけた。
しかし何故女と言う生き物はこうも甘い物を好んで口にするのか理解が出来ない。
甘いものなんてただ胸焼けがするだけだろう。
バージルはそう思っていたが小さい時は好んで母の作ったケーキやマフィンを食べていた。
いつからか甘い物が食べられなくなった。その"いつから"が具体的に何時頃だったか思い出せないけど。
だがアスタが幸せそうな表情は何時見ても凍て付いた心が少しだけ休まる、様な気がする。
今度、甘い菓子でも餌付けてみようか。そんな事すら思ってしまう。

いつの間にかココアを飲み干していた事に気が付き、空になったカップをテーブルの上に置く。
何かを察したアスタは「もう一杯要りますか?」と尋ねてくるから静かに頷く。
するとアスタは矢張り嬉しそうにキッチンへ向かい鼻歌を歌いながらココアをカップに注ぐ。
浮かれているアスタを腕を組みながら見ているとある疑問が浮かんだ。
何故ココアなのか。体を温めるのであれば生姜湯でも茶でも構わないだろう。
ただ単にアスタが甘い物が好きなだけかと思ったが今まで同じ時を過ごして来て彼女が甘い物を多量に口にしたり、買い込んだりしている所は一度たりとも見た事がない。

「何故ココアを選んだ?」

ぽつりと零す様に発した質問にアスタは首を傾げるも、カップを両手で覆い持ち、静かに瞼を閉じた。

「知っていますか?甘い物は幸せな気持ちにしてくれる成分が入っているんですよ」
「それは違うな。甘い物ではなくチョコレートにそう言った成分が入っているだけだ。聞きかじりは止せ」
「……ごめんなさい」

急にしょんぼりしたアスタにバージルは微かに苛立ちを覚える。
どうしてこの女はすぐに感情を表に出し、無防備な姿を晒そうとするのか。
しかし自分自身に対しても若干の苛立ちを覚えていた。
アスタは自分の事を思ってココアを買ってきたという事に気が付いているのに冷たい言葉しか言えないからだ。

「だが、感謝している。お前は俺を気遣っているのだろう?」
「!」
「甘い菓子や飲み物は確かに苦手だが……、流石に読書のし過ぎだったかもしれん。少し疲労が取れた」
「バージル……、そんな無理を言わなくても」
「無理など言っていない。本心だ」

まだココアが半分残っているカップをテーブルに置き、椅子を立つ。そしてベッドに移動すると「Come here」とだけ言ってアスタがベッドに来るのを待つ。
バージルの言動の意図が解らないアスタは一体どうしたのか気になりつつもその言葉に従い、ベッドに寄る。
すると急にバージルに腕を引かれてベッドに押さえ込まれた。
ぱちぱちと瞬きを繰り返し状況を整理しようとするも視線の先にいるバージルとその背景の天井が一体何を意味するのかが解らなくなり、思考がぐるぐる無駄に回る。

「チョコレートに関する話を知っているか?」
「? 何の話、ですか?」
「チョコレートの成分の中には媚薬効果を持つ成分もある」
「!?」
「このままお前を食べてしまおうか?」
「……バージル、慣れない冗談は止めて下さい。性質が悪いです」

頬を、耳まで真っ赤にして顔を背けたアスタの言葉尻はバージルの言葉に羞恥を感じていたのか段々と小さくすぼんでいく。
確かに慣れない上に普段のバージルを知る人間であれば彼がそんな言葉を冗談でも言わないと、そう言うだろう。自分でも少なからずそう思っている。

「(冗談、ではないのだがな)」

本当にそう思っているのに冗談と言われてしまうとどうにも身を引いてしまう。
未だに顔を真っ赤に火照らせているアスタに「冗談じゃない」と言っても逆に泣かせてしまいそうな気がする。
アスタの上から引くと彼女を隣に座らせて「お前の言う通り、悪い冗談だったな」と彼女の顔を見ずにそう言う。
だが。

バージルはアスタの胸倉を掴み自分の方に体を向けさせるとそのまま唇に噛み付き、再びベッドの上に押し倒す。
アスタは吃驚して混乱しているのかバージルの両肩を掴み、バージルの下でじたばたともがいている。
バージルが唇と体を離すとアスタは赤味が引きかけていた顔をまた真っ赤にし、口をぱくぱく金魚の様に開閉し続けている。

「矢張りそのままのココアを飲んでいた所為か甘ったるいな」
「ば、ば、バージル?」
「何だ。俺はこんな事をしないとでも言いたいのか?」

肯定も否定もしないアスタを静かに見下ろすが、彼女の目は「一体何があってこんな事をしたのですか」と疑問を投げかける目をしていた。

「俺も時にはこういう風に戯れる時もある。尤もお前にだけ、だがな」

未だにアスタは言葉一つ発する事が出来ないみたいにぼんやりとバージルの姿をその目で捉えていた。
だがバージルはそんな事は気に掛けず椅子に座りなおすと何処からか取り出した本を読み始める。
アスタはゆっくりと熱が集まっている頬に両手を添える。

「(バージルにはああ言ってしまいましたが、期待してしまいました……!!)」

はしたないとそう思うがあんな風に攻め込まれたら一溜まりもない。好きな人であれば特に。
アスタはそのまま、読書に耽るバージルを尻目にベッドの上で一人悶絶し続けていた。
ココアが冷めていく事を完全に頭の中から抹消させながら。



2014/12/02